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道。 うちのこまとめページ

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名前の呼び方SS集

呼び方・呼ばれ方にまつわる小話をいくつか。

各キャラ同士の呼び方は、こちらのページで解説。

時間軸はバラバラ。
組み合わせパターンは多いので、適当に思いついたら追加するかも。



【エピソード1 ミユーツ&魂セカル】

「おや?」

自宅のあるグレン住宅の草原地区に、見たことのある影が映った。

「セカル様ではないですか」

自分の主人、カイト様と何やら縁があるらしい、ウェディの青年。
私の姿を見ると、露骨に顔を歪めた。
最近知り合った彼には、どうもまだ警戒されている。

「まさかこんな所でお会いするとは。この辺りに来ることがあるんですね」

「たまにな。福引、ここしかないから」

「ああ、なるほど。セカル様の自宅は雲上地区でしたね」


そんな簡単なやり取りをした後、少し間を空けて、彼がぼそっと呟いた。


「その…セカル様っての、やめろ」

「おや、何故です?」
にこやかな表情を作って聞き返したが、彼の眉間の皺は消えない。

「あんたにそう呼ばれる筋合いはない」

「そうでしょうか?
主人の大切な友人へ、敬意を表すのは自然なことだと思いますが」


彼はその言葉を聞くと、そっぽを向いて歩き始めてしまった。
すたすたと歩いていく後ろ姿に声をかけた。

「お気に召さないのであれば、セカル君とお呼びしますが」

「勝手にしろ」

振り向かずに返事をした彼の姿は、段々と小さくなっていった。



さて。
彼の態度の原因は何でしょう。

『大切な』という形容に気恥ずかしくなったのか。
はたまた、『友人』という肩書きが不満だったのか。

カイト様に聞いてみたら、どんな反応をするのか楽しみですね。




【エピソード2 器セカル&魂カイト】

ん…あれは。

人通りの多いメギの広場の前で、よく知ったエテーネの女を見つけた。

「おい、クソガキ」

いつものようにからかって呼んだが、人混みで聞こえないのか、反応がない。


「…てめー、聞いてんのか?」

後ろから肩を掴んで強引に引き止めると、ガキは「わっ!」と小さく悲鳴を上げた。
やたらとリアクションでかいんだよな。
振り返って俺だと分かると、嫌そうな顔で睨んできた。

「も~、チャラ男じゃん!ちょっと、触んないでよ!」

「は?クソガキがシカトこいたからだろ」

「っていうかそれ!その呼び方!この人混みで気付くわけないでしょ!」

文字通りぷんぷん、って感じか。この予想通りの反応、段々笑えてくる。


「んだよ、じゃあ分かるように呼んでやろうか?」

今度は正面から右肩を掴んで、ぐいっと耳元に顔を近づけてやった。
肩が一瞬びくりと震えたところに、すかさず言ってやった。

「カイト」


すぐに手と体を離して顔を窺うと、みるみるうちに頬が赤くなっていった。

中身がどうあれ、こいつが俺の姿、声に弱いことは分かってんだよ。
ま、俺じゃない野郎を想像してんのは癪だけどな。

「ほんっっとに分かりやすいな!」

「ば……っっかじゃないの!!!」

思いっきり笑い飛ばしてやると、相手も思いっきり溜めてから怒鳴ってきた。
さ、ここらで終わっとかねーと、後がめんどい。

するすると人を掻き分けて走り出すと、後ろから「もおおお!!!」と甲高い叫び声が聞こえてきた。





【エピソード3 魂リクト&魂タキ】

「だいじょうぶ?痛くない?」

心配そうに俺の顔を覗き込む、ドワーフの少女。
小さな手で、俺の額にぺたりと絆創膏を貼ってくれた。


オルフェアのサーカステントの周りで見かけた犬を追っかけてたら、転んだ。うん。
そりゃもう、漫画みたいに、ズコーッと。額ズザーッと。
改めて説明すると恥ずかしいわっ!!!

いや、そもそも何で犬と追いかけっこしてたのかって?
見た目に可愛いじゃん?プクリポがじゃれてるの。
ん、いや、可愛さを追求するなら、ちょうちょとか追いかけた方がよかったのかな…

んんーと悩んでいると、少女は不思議そうに首を傾げた。
おお、いかんいかん。ちびっこに心配をかけたら、笑いを届けるプクリポの名折れだ。
俺はとびきり元気のいい笑顔を向けた。点目が小さくて分かんないって?伝われこの笑顔。

「おう、心配ないぞ!ありがとな!
えーっと…あんた、名前なんていうんだ?」

「わたし?タキだよ」

「ほー、綺麗な名前だな!
滝のようにさらさらと流れて、しらたきのようにするすると美味しそうな名前だ!」

適当に思い付いた俺の言葉に、タキはくすくすと笑い出した。
ちょっと完成度低かったな。意味分かんないしな。これで笑ってもらえたのは嬉しいけど。

「プクリポさんって面白いんだね。
あなたは何ていう名前なの?」

「俺はリクトだ。
可愛~く、りっくんって呼んでくれよな!」

「分かった。よろしくね、りっくん!」

ああ、随分と純粋な子なんだな。
握手に出された手を掴んで、飛び跳ねながらぶんぶんと振ってやると、また笑ってくれた。




タキと俺との出会いはこんな感じなんだが。

この後、弟のクウトがタキと知り合いだと分かって、
弟から「りっくんはないわ…」と蔑まれた、悲しい事件は置いとくことにする。





【エピソード4 サキノ&魂クウト】

「あなたは…クウト、様ですか?」

「…そうだけど。誰?」

買い物に来たガタラの街中で見かけた、短い金髪のエルフの少年。
思いがけず声をかけたら、怪訝そうに見上げられた。
幼いように見えて、こちらを伺う目付きは鋭い。見覚えがあった。

「も、申し訳ありません!わたしはサキノと申します。
カイト様から写真を見せてもらったことがあって」

「姉ちゃんの知り合いなの?」

カイト様の名前を出すと、少し驚いたように聞き返された。

「ええ、セカル様のプライベートコンシェルジュをしています」

「セカルにプラコン?!」

突然の大声に、こちらも驚く。


「お、おかしかったでしょうか?」

若干狼狽えながら尋ねると、少年はため息をついて腕組みをした。

「そりゃおかしいよ。…って、当人を前に言うことじゃないけどさ。
セカルにプラコン要ると思う?」

分かるでしょ?と言わんばかりの飽きれ顔で見上げられたものだから、何だか可笑しくなってきた。

「何がおかしいの?」

堪えられず静かに笑っていると、また怪訝そうな顔で聞かれる。
眉間の皺はデフォルトなのかもしれない。


「いえ…カイト様と同じことをおっしゃったので」

「だってセカルだよ?家事なんでもやる男だよ?
あいつこそ、冒険者じゃなくてコンシェルジュの方が向いてるよ」

「ええ、カイト様も同意見でした。
やっぱりご姉弟ですね。セカル様のことを、よく見ていらっしゃいます」

ふふ、と笑うと、クウト様はまたひとつため息をついた。


「セカルはしっかりしてるように見えて、たまに天然で爆弾落とすから注意ね。そこだけ性質悪いんだよな。あと姉ちゃん、多分セカル絡みで今後も関わりがあると思うからさ。迷惑かけるけどお願いします。一応悪い奴ではないから。うるさいけど。それと、タキは知ってる?あいつは素直なんだけど、ほわほわして目が離せないのが…」

みんなの顔を思い浮かべているのか、どこか遠くを見ながらぺらぺらと話し始めた。
あまりの勢いに圧倒されていた私に気付くと、クウト様は言葉を切った。

「…なに?」

「あ、いえ、クウト様は凄いなと…思いまして。
参考にさせていただきます」

「周りが平和バカだからさ。おれがしっかりしないといけないの」

やれやれ、という顔だけど、少し笑っているような?
文句を言いながらも、みんなのことが好きなんだろうな。


「ま、困ったことがあったら話は聞くよ。
サキノさんが頑張ってくれる分、おれの負担が減るしね」

あ、少し悪戯っぽい顔。
歳相応な少年の顔が見えた気がする。

「ありがとうございます。頼りになる先輩が出来たようです」

「おれはプラコンになる気ないけどさー…。ま、頑張ってね」


ひらひらと手を振りながら歩いていく後ろ姿を見送っていたら、羽根がパタパタしていた。
嬉しかったのかな。指摘したら怒りそうだけど。

しっかりしてるようで、ちょっと子供っぽい面もある先輩。
帰ったら、セカル様に話してみよう。





【エピソード5 魂リンセ&器カイト】

ランガーオの民家内。時刻は日付が変わった頃だろうか。
暖かい毛皮のベッドに慣れなくて、眠れずに起き上がると、隣の部屋に小さな明かりが灯っていた。
隣で眠るウェディの女の子を起こさないよう、そろりとベッドを抜け、明かりを覗き込む。


「あ…」

思わず声を漏らすと、椅子に座っていたオーガの女性が振り返った。

「リンセ?眠れないのか」

女性は読んでいた本を閉じ、私に微笑みかけてきた。

「無理もない。おいで」


招かれるまま部屋に入ると、傍らのベッドでウェディの男性が眠っていた。

「ああ、セカルなら心配ない。
昼間のことで疲れたのか、起きそうにないからな」

男性を見る女性の目付きは、とても柔らかい。
愛おしい、とでもいうのか。そんなものを感じる。


「好きなんですね」

「こいつのことか?まあそうだな」

女性はあっさりと肯定すると、視線を私に向けた。


「リンセ、敬語は止してくれ。少し寂しい」

「すみませ…あっ、ごめん…なさい」

慌てて言い直した私を見て、ふふ、と笑っていた。


「慣れなくて…。その、名前も、何て呼んだらいいんでしょう…あっ、いい…の?」

たどたどしい喋り方になってしまったが、女性は茶化しもせず、真剣な眼差しで私を見据えていた。

「そうだな、好きにしてもらって構わないが。
私達のことは、両親だと思ってくれればいい。出来れば、そうありたい。」



「…でもカイトさん、こんな大きな子供を持つような歳じゃないでしょう?」

気分を害したかもしれない。けれど、どうしても聞かざるを得なかった。
ルミカはともかく、私はもう子供とは言い難い歳だ。


「…私達では務まらないかな」


明かりに照らされた女性の顔は、憂いを帯びて微笑んでいるように見えた。


いけない。私がこんなことを言っていては。
この若いカップルは、本気で私達を受け入れる覚悟をしているんだ。



「そうじゃないけど…申し訳なくて。
…あの、お母さんって、呼んでいいの…?」

消え入るような私の言葉に、カイトさん…は、また笑顔を向けた。


「もちろん。明日セカルにも呼んでやってくれ。きっと喜ぶ」

「ありがとう、カ…えっと、お母さん…。お父さん、にも、また明日言うから」

お母さんの手が伸びてきて、私の髪を撫でた。
大きなオーガの手。私のエルフの手を重ねた。


「眠れそうか?一緒に寝るか?」

「大丈夫。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


私は挨拶すると、そそくさと部屋を出た。
恥ずかしさと嬉しさで、どんな顔をしているか分からないから。




明日、開口一番にお父さんって呼んでみよう。
どんな顔をするだろう。不安より楽しみが勝る。

部屋に戻ると、ウェディのルミカは変わらず寝息を立てていた。
大丈夫。あの二人になら、私達もついていける。


ベッドに入ると、程なく眠りについた。



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