カイトとセカルの出会い
【2020.5.6】
2013年5月頃に書いたネタメモに加筆しました。
語らないままになってしまっていた、魂カイトとセカルの出会いの話です。
もう7年も経ったのか…やっと外に出すことが出来ました。
当時は漫画として描くつもりだったため、メモには効果音などが書いてありました(笑)
私のネームは、台詞を羅列していきます。そこから漫画にする。なので、メモしてあった台詞や掛け合いに、セカルの語り文を加筆していきました。
漫画だったら何ページになるんだろうなあ…今はとても描くことが出来ないので、文章として供養します。
10の創作のメインである、魂カイトとセカル。
全てはここから始まりました。
----------
「…ぇ…、ねぇ……」
遠くの方から声が聞こえる。
遠く?いや、すぐ傍から聞こえるような…?
判別のつかない中、繰り返されるカン高い声が、次第にガンガンと頭に響いてきた。
「ねえ!ちょっと!」
…オレのこと?誰かに呼ばれてる?
そう、ぼんやりと思ったところで、体の中心に温かい感覚が沁みた気がした。
腕がピクリと動いた。同時に、ひんやりとした感覚。
腕を動かすと、手のひらにざらりとした触感がした。
指を広げたら、パラパラと滑り落ちた。…砂か?
重い瞼をゆっくりと持ち上げた。眼前には、薄茶色の砂浜が広がっていた。
砂の感触を確かめるように腕を動かすと、ぬすっとの服の黒色の袖には、砂がべったりと貼り付いて白くなっていた。
ようやく、自分がうつ伏せで倒れていたのだと分かった。
ぼんやりと、少しずつ記憶が蘇ってくる。
レーンの村からやっとの思いで洞窟を抜けて、その先に海岸が見えて…
そこで、何だったかな、何かにぶつかった気がする。
「おにーさん大丈夫?」
ぼーっと考えていたら、頭上からハッキリとした声が聞こえた。
顔を上げると、真っ赤な肌でふわりとした紫髪の女が覗き込んでいた。
そこでやっと、ずっと呼び掛けていたのがこのオーガの女だと分かった。
オーガの実物を見たのは初めてだ。
オレンジのバンダナに、黒のベストと白っぽいズボン。脚を覆う青い腰巻き。
惜しげもなく覗かせている腕や胸元の赤肌に、なんだか威圧感を覚えた。
ウェディの青肌とは対照的で、目に痛い。
好戦的な種族と聞いていたから、余計にそう感じたのかもしれない。
少し怯んで固まっていると、ぱちくりと瞬く紫の瞳と目が合った。
その目は、体格と不釣り合いに柔らかく感じた。
「大丈夫?動ける?」
「え…?」
「おにーさん、生き倒れてたんだよー」
はいホイミ、と言いながら女は手をかざす。
体が温かくなったのは、この回復魔法のせいだったのか。
「やービックリしちゃった、しびれくらげにでも刺されたの?」
しびれくらげ?
ああそうか…オレはふわふわと漂う白いくらげの魔物に当たったらしい。
なんつーか…情けない。
「…みたいだな」
「あんまり戦いはしないの?装備もそんなに揃ってないようだし。
もしかして街の人?外に用があるなら冒険者を雇った方が…」
女があれこれ言い出した。お節介なやつか。面倒だ。
冒険者に向いてないのは、自分がよく分かってる。
「…どうも」
まだ体に力は入らなかったが、よろけながらも立ち上がって砂を払う。
目指していた街に向かって、歩き出した。
「え、ちょっと待ってよ?」
女に呼び止められたが、こんな情けない姿をいつまでも晒したくない。すぐに立ち去りたい。
呼びかけには応じず、ずんずんと歩みを進めた。
「むー無愛想な人」
女の独り言は、オレの耳には入らなかった。
ジュレットの街に着いた頃には、陽が傾いていた。
初めて目にした大きな街に圧倒された。
立体的な構造で高く高く作られた街並みは、隣接した広大な海を見渡すのにちょうどいいからだろうか。
レーンの村や…エテーネの村とは違う。
ひとまず宿屋を探して、一泊することにした。
ベッドに倒れ込むと、すぐに意識は沈んだ。
翌朝。
「あ」
宿を出ると、あろうことか昨日の女とバッタリ出くわした。
「昨日の人!」
「あー…」
向こうも当然オレのことは覚えていて、大声を出されてうんざりする。
やめてくれ。目立ちたくない。
「ジュレットの人だったんだ?」
嫌そうなオレの表情を全く読み取れないのか、女は無遠慮に話しかけてくる。
ダメだ。こいつ、お節介で空気の読めない鈍感ときた。
「いや」
「じゃあレーン?」
面倒だがオレが否定の返事をすると、すかさずまた質問される。
「違…いや、レーンでいい」
「?」
エテーネの村…なんてこいつが知るはずない。
今のオレはレーンの村のセカルだ。レーンの住人なんだ。
歯切れの悪いオレのことを不思議に思ったのか、女は首を傾げながら話題を変えてきた。
「おにーさん、何してる人なの?」
「別に」
別に何もしてない。
ただ、レーンに留まるのも居た堪れなくて、飛び出してきただけ。
目的なんて、ない。
「何も…何してるんだろうなオレ」
「ん?どしたの?」
自問自答のぼやきが、女にも聞こえたらしい。
女はぽわんとした様子で、また聞き返してくる。
そんな能天気な女の顔を見ていたら、何だか腹が立ってきた。
「守りたいもの、何も守れずに。何でオレだけ…こんなとこでのうのうと生きてんだ…」
エテーネの村を焼き尽くす炎がフラッシュバックする。
闇夜に浮かぶ魔物達、冥王ネルゲルの姿。
どうして。どうして!どうして!!
オレだけが、生き返しを受けてこんな常夏の平和な世界に生きている?
どうしてオレだった?何もない、オレが助かった?
悔しい。悲しい。辛い。色々な感情がごちゃ混ぜになって、ギリギリと手を握り締めた。
青い拳。エテーネではない、ウェディの体だ。
「オレが、弱いせいで、みんな…!」
妹の叫び、届かなかった手。
アバさま、シンイ、村の人たちの顔が浮かんでは消えていく。
オレには何も、守れなかった。
握り締めて血管がはち切れそうになっていた手を、不意に掴まれた。
驚いて顔を上げると、女がじっとこちらを見ていた。
ぽわんとしていたはずの女が、真剣な眼差しでまっすぐオレの目を捕らえてくる。
あまりの目力に圧倒され、逸らしたいのに逸らせない。
「よし、行くよ!」
「はっ?」
掴まれた手の力は、思いのほか強かった。
その手を振りほどけないまま、すたすたと街の外に連れ出された。
「てんめぇぇ!死ぬかと思ったじゃねーか!」
「実際死んでたわよ。何回生き返らせれば気が済むの」
オレの叫びに、女はあっけからんと返す。
宿を出てから連れていかれたのは、キュララナ海岸というところらしい。
見たことのないタコの魔物に襲われ、ケガをして倒れると女がすかさず回復呪文をかけてくる。
何だ。何なんだこの状況は!
意味も分からず、ツッコミにも疲れ、諦めて短剣を握って淡々と魔物を倒していった。
そんなオレの隣に並び、女もツメを振るってタコを切り倒していた。
その横顔は、なんだか機嫌良く楽しそうに見えた。
…全く意味が分からない。
水平線上に夕日が差し掛かり、水面がキラキラと反射して眩しくなってきた。
輝く水面を目で辿っていくと、端が追えない。水平線はどこまでも続いていた。
レーンの村で見ていた海とは違う。もちろんエテーネの村でも見たことのない光景。
こんなにも世界は広いのだと。今までオレが見ていた世界はちっぽけなものだったと。
…思い過ごしだろうけど。そんな風に、語り掛けられたようだった。
夕日に目を奪われ、ぼーっと海を眺めていると、
「よーし、そろそろ終わりにしよっかー!」
元気の良い女の声が、高らかに響き渡った。
宣言した女が荷物をまとめ始めたので、慌ててオレも剣を収める。
ツメについた汚れを拭き取りながら、女が話しかけてきた。
「なんかさー悩んでるみたいだったから。
よく分かんないけど、守りたいものがあるなら、強くなればいいじゃない!」
そう言いながら、ニッコリと笑顔を向けられた。
夕日に照らされたその顔は、眩しく輝いて見えた。反射した水面のせいだろうか。
あまりに曇りのない笑顔で言われたものだから、色々考えていたのがバカらしくなってきた。
「…お前、バカそうだな。考えなしというか」
「は?!」
つい口から出てしまった言葉に、女は固まり、みるみるうちに眉を吊り上げた。
「いきなり人を捕まえてバカって何よ!
っていうかあんたみたいなうだうだした男、大っ嫌いなんですけど!」
「なっ?!いきなり捕まえたのはお前の方だろうが!
お前みたいな暴力女、こっちから願い下げだ!」
そこからは、もう言い合い罵り合い。
正直、何を言ったのか覚えていないくらい。
ウェディになってから…いや、エテーネでもしたことがないような?壮絶な大ゲンカを繰り広げた。
キラキラした夕日は、すっかり沈んでいた。
そんな出来事から一週間ほど経った頃だろうか。
ジュレットの街の階段を下りていると、
「誰かと思ったら弱いおにーさんだ」
散々言い合って、忘れるはずもないあの声が聞こえてきた。
「うっせぇ馬鹿女」
顔を確認するや否や、反射的に返した。
こんなこと言う相手、エテーネでもいなかったんだけどな…。
「お、レベル上がったでしょ?」
「洞窟行く度に、いちいちカニに絡まれんの面倒なんだよ」
オレの罵りを気にせず、こちらをじろじろ見ながら女は聞いてくる。
どうせ反発しても言い合いになるだけだ。適当に回答した。
すると、女はニヤニヤ笑いを浮かべて「ふーん」と呟いた。
「なんだよ?」
気味が悪い。
「やー、ちゃんと鍛える気になったんだねー」
えらいえらいと頭を撫でられたので、驚いて手を退けた。
「な、てめーのせいじゃねーからな!勘違いすんな」
…捨て台詞っぽくてカッコ悪い。
いや本当に、この女の影響じゃない!
ただ魔物に襲われるのが面倒だから、鍛えるようになっただけで!
心の中で言い訳がましく叫んでいると、
「今のあんた、生きた顔してる。前はさー、ホント死んでたから」
そう言われて、微笑みかけられた。
「…」
言葉を次げなかった。
生きた顔?オレが?前は死んでた?
こいつに会う前、ジュレットに着くまでのオレは…エテーネの村のことを忘れられず、ずっと悩んでいて。
どうすればよいか分からず、暗闇の中でもがいていた。
そんな時にこいつに引っ張られて、戦いに連れ出された。
意味が分からないまま戦って、大声でケンカして、その後は自分で鍛えるようになって。
魔物と対峙するようになって、相手を倒したり、ケガをしたりして、命の重みを感じるようになった。
今のオレは…生きてる。レーンで虚ろに過ごしていた頃とは違う。
こいつの…おかげ?
おずおずと女の顔を見ると、やっぱり何も考えてないんじゃないか?と思えるような、能天気な表情に見えた。
…オレが考えすぎなだけかも。
なんかこいつと関わってると、調子が狂う。
つられて自分もバカらしく思えてくる。
「そーいえば、家ないの?いつも宿屋に泊まってるの?」
「ねーよ、んなもん」
投げやりにそう返すと、とんでもない言葉が聞こえてきた。
「じゃあウチ来る?ちょうどジュレットだし」
「は?」
…こいつと関わってると、調子が狂う。
繰り返すが、こいつの行動は、何もかも意味が分からない。
「折角強くなる気になったんだもん、存分に鍛えて、存分に休めばいいよ!」
「はぁ?別に強くなるのが目的ってわけじゃ…」
女はオレの言葉を聞きもせず、レッツゴー!とオレの手を掴んで上機嫌に歩き出した。
待て待て待て。
ってか、男を家に入れるとか、こいつ何考えてんだ?!
もしかしてオレ、男だと思われてない?いや、おにーさんって呼ばれてるし…。
あ、待て。こいつ、オレの名前知らないんだ。で、オレもこいつの名前知らないし。
いやいや、今そこは論点じゃない。この状況だよ、何で家に連れていかれそうになってんだ?!
色々と考えを巡らせている内に、あれよあれよと白亜の住宅街に連れてこられた。
小さな家だが、庭は芝生と花で意外にも綺麗に彩られている。
ジュレットの街から見るような、広い海が一望できる景色の良い場所だった。
ここからも、夕日が綺麗に見えそうだな…。
…じゃねえってば!
「なあオイ、お前何考えてんだ?」
「何って?」
女はきょとんとしながら、家の扉を開けた。
「いや、オレを家に入れるって、どういうことだよ…」
「どうって…鍛えるなら、好きに使っていいよってさっき言ったでしょ」
「いやいや、おかしいだろ?どこの誰とも分かんねー奴に気軽に」
「え、知ってるよ?レーンの人でしょ」
「そうじゃなくてだな!」
そんな押し問答をしていると、家の前にひょいっとエルフの女が現れた。
はい?
「おじゃましまーす」
「お、元気?」
「うん。ベッド借りる」
「はーい」
オーガの女は、さも当然のようにエルフの女と短い会話を交わした。
「何…今の」
エルフの女が家に入っていくのを見た後、庭で立ち尽くしながら聞いた。
「え、友達だけど?」
「ベッド借りるって…」
「ああ、あんな風に使ってくれていいから」
あー…。特別な意味とかないわけか。
ハイハイ、やっぱただの能天気女だよな!
妙に納得して、色々と考えた自分に落ち込んだ。
何だ。マジで何なんだこいつ。
こっちが心配になるほど何も考えてねーじゃねぇか。
無駄に疲れたので、今日は街に戻ることにする…っと、その前に。
「…名前も知らないような奴を、家に入れようとすんなよ」
「名前?あ、そういえば!」
本当に気付いていなかったらしい。
…もう驚かねぇよ。
こいつの中じゃ、名前を知らなくても友達になっちまうみたいだしな。
「セカル」
「へ?」
「オレの名前」
「…変なの」
「変っつーな!」
「あたしはね、カイト!」
「…変だな」
「コラー!変じゃない!」
「ハイハイ。じゃあまたなカイト」
「うん?家入んないの?」
「帰る」
「そっかあ、次会うまでに名前忘れないようにしないと…」
「オイ」
「セカル、セカル…セカル」
「うっせぇ」
何だかすっかり慣れてしまった会話のやり取り。
後日、なんだかんだでカイトの家にちょいちょい来るようになるのだった。
----------
「よ…どうした?」
ある日カイトの家に寄ると、部屋の奥のベッドが膨らんでもぞもぞと動いていた。
「うー風邪引いたかも」
「バカでも風邪引くんだな」
「元気になったら覚えてろぉ…」
オレの憎まれ口に間髪入れず、布団の中から呻くような返事が聞こえてきた。
その後は静かになったので、眠ったのだろうか。
…どうしたもんか。
頭を掻きながら、部屋を後にした。
「ん…」
「目ぇ覚めたか」
しばらくすると、カイトがベッドから起き上がった。
「食えるか?」
そう言いながら、柔らかく煮込んだ野菜のスープと切ったフルーツを側に置いた。
先ほど食材を買ってきて、適当に作ったものだ。
「セカルが作ったの…?」
「ああ」
料理はエテーネの頃にいつもやっていたし、わりと好きだった。
こっちに来てからはあまり機会がなかったので、久々だったが。
ウェナの食材はよく分からなかったから、今度はもうちょっと調べてみるかな…
そんなことを考えていると、カイトがスープに口をつけた。
すると、まるで「ぱぁぁ」と効果音がついたように、カイトの顔が明るくなった。
「わぁぁ美味しい!」
「あ、ああ…」
あまりに分かりやすく嬉しそうにされるので、何だか気後れしてしまう。
ころころとカイトの表情が変わるのは、いつものことなのに。
「料理できるなら、何で今までしなかったの?」
食欲はあるのか、もぐもぐと食べながら、ふとカイトが聞いてきた。
…うん。聞かれると思ったがな。それはな…
「…じゃあ逆に聞くけどな。何でこの家のコンロはピカピカで、流しも綺麗に片付いてるんだ?」
「え…?」
カイトがぎくりとして、手に持ったスプーンを落としかける。
「オレが思うに、お前は全く自炊をしない。料理が出来ない。そしてその風邪!どうせ昨日の雨の中で戦って、濡れたまま寝たんだろ?その体調管理!だいたいお前の生活力の無さはだな…」
「わーゴメンなさい!頭痛いからお説教やめてー!」
くどくどと説教を垂れると、カイトは両手で耳を塞いで布団を被った。
本当に…分かりやすいんだよな…。
体調が悪い中、色々と言ってしまったことはちょっと悪かったか。
オレはカイトの食べ終えた食器を持って、洗い物に向かった。
「くっそ…餌付けしちまった」
カイトに聞こえない程度に独りごちた。
こうなると思ってたから、料理しなかったんだよな…。
これを機に、たまに料理を作りに来るようになってしまった。
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「カイト…寝てんのか?」
家に料理をしに来たり、木工職人であるカイトへ素材の枝をおすそ分けしたり、たまに一緒に魔物を倒しに行くようになった頃。
以前カイトが風邪を引いた時のように、またベッドが膨らんでいた。
返事はなく、家主は寝ているようだった。
「鍵開けたまま寝るなっつっただろうが…」
一緒にいる時間が増えて分かった…いや、会った時から分かってたな。
とにかくこいつは何も考えてない。防犯意識なんてあったもんじゃない。
深くため息をついて、家主に代わって家の鍵をかけた。
…もしかして、オレが来るから、鍵開けてんのか…?
ふとそう思ったが、いやいや、こいつだぞ?んなこと考えてねぇって…。
また体調が悪くて寝込んでいるわけじゃないかと、念のため確認で少し布団をめくった。
すやすやと寝息を立てて眠るカイトの顔が見えた。
体格と合っていないような、無邪気な顔立ち。
瞼を閉じたその顔からは、いつものうるさい声は聞こえてこない。
うん。フツーに寝てるだけだ。
こっちの心配なんてつゆ知らず、幸せそうに寝やがって…
「…黙ってれば可愛いんだよ」
…ん?
オレ、何言って…?今、声出てた…?!
ハッとして、慌てて後ろを向いた。手で口を覆うが、出た言葉は戻らない。
心臓の音が、バクバクと鳴り響く。
嘘だろ、オレ、今何考えてた?こいつのこと…?
あーもううるさい!静まれ鼓動…。
へなへなと床に座り込んで、ベッドにもたれかかった。
*****
「…黙ってれば可愛いんだよ」
なんて。
驚いて目を開けるところだった。
セカルそのまま座っちゃうし、こ、これ、あたし起きらんないじゃない!
ちょっと驚かせるつもりが、完全にタイミング逃した。それに、こんなことって…。
ドキドキが止まらなくて、心臓が飛び出そう。
お願いだから、静かにしてよ。
ベッドにもたれるあいつに聞こえるんじゃないかとひやひやしながら、ぎゅっと目を瞑った。
(おわり)
*****
出会い編と、おまけの風邪編、可愛い発言編でした。
こんな感じで両想いバカップルが形成されましたよっと!
好き合ってるのに、お互い言い出せずにズルズルいきます。
くっつくのに何年かかるのか。
セカルは振り回されながらも、カイトの明るさ、真っすぐさに救われたため、惹かれていきます。憎まれ口を叩ける貴重な存在なのも大きいです。
カイトは何だかんだ世話を焼かれて、自分には出来ないことをやってのけるセカルに惹かれていきます。あと面食いなので、元からセカルへの好感度は高いです(笑)
段々と強くなっていくセカルの姿にも、心を動かされていきます。
ちなみに、お互いに好みのタイプとは正反対。
何でこんな奴を好きになったのか…と思っています。
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2013年5月頃に書いたネタメモに加筆しました。
語らないままになってしまっていた、魂カイトとセカルの出会いの話です。
もう7年も経ったのか…やっと外に出すことが出来ました。
当時は漫画として描くつもりだったため、メモには効果音などが書いてありました(笑)
私のネームは、台詞を羅列していきます。そこから漫画にする。なので、メモしてあった台詞や掛け合いに、セカルの語り文を加筆していきました。
漫画だったら何ページになるんだろうなあ…今はとても描くことが出来ないので、文章として供養します。
10の創作のメインである、魂カイトとセカル。
全てはここから始まりました。
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「…ぇ…、ねぇ……」
遠くの方から声が聞こえる。
遠く?いや、すぐ傍から聞こえるような…?
判別のつかない中、繰り返されるカン高い声が、次第にガンガンと頭に響いてきた。
「ねえ!ちょっと!」
…オレのこと?誰かに呼ばれてる?
そう、ぼんやりと思ったところで、体の中心に温かい感覚が沁みた気がした。
腕がピクリと動いた。同時に、ひんやりとした感覚。
腕を動かすと、手のひらにざらりとした触感がした。
指を広げたら、パラパラと滑り落ちた。…砂か?
重い瞼をゆっくりと持ち上げた。眼前には、薄茶色の砂浜が広がっていた。
砂の感触を確かめるように腕を動かすと、ぬすっとの服の黒色の袖には、砂がべったりと貼り付いて白くなっていた。
ようやく、自分がうつ伏せで倒れていたのだと分かった。
ぼんやりと、少しずつ記憶が蘇ってくる。
レーンの村からやっとの思いで洞窟を抜けて、その先に海岸が見えて…
そこで、何だったかな、何かにぶつかった気がする。
「おにーさん大丈夫?」
ぼーっと考えていたら、頭上からハッキリとした声が聞こえた。
顔を上げると、真っ赤な肌でふわりとした紫髪の女が覗き込んでいた。
そこでやっと、ずっと呼び掛けていたのがこのオーガの女だと分かった。
オーガの実物を見たのは初めてだ。
オレンジのバンダナに、黒のベストと白っぽいズボン。脚を覆う青い腰巻き。
惜しげもなく覗かせている腕や胸元の赤肌に、なんだか威圧感を覚えた。
ウェディの青肌とは対照的で、目に痛い。
好戦的な種族と聞いていたから、余計にそう感じたのかもしれない。
少し怯んで固まっていると、ぱちくりと瞬く紫の瞳と目が合った。
その目は、体格と不釣り合いに柔らかく感じた。
「大丈夫?動ける?」
「え…?」
「おにーさん、生き倒れてたんだよー」
はいホイミ、と言いながら女は手をかざす。
体が温かくなったのは、この回復魔法のせいだったのか。
「やービックリしちゃった、しびれくらげにでも刺されたの?」
しびれくらげ?
ああそうか…オレはふわふわと漂う白いくらげの魔物に当たったらしい。
なんつーか…情けない。
「…みたいだな」
「あんまり戦いはしないの?装備もそんなに揃ってないようだし。
もしかして街の人?外に用があるなら冒険者を雇った方が…」
女があれこれ言い出した。お節介なやつか。面倒だ。
冒険者に向いてないのは、自分がよく分かってる。
「…どうも」
まだ体に力は入らなかったが、よろけながらも立ち上がって砂を払う。
目指していた街に向かって、歩き出した。
「え、ちょっと待ってよ?」
女に呼び止められたが、こんな情けない姿をいつまでも晒したくない。すぐに立ち去りたい。
呼びかけには応じず、ずんずんと歩みを進めた。
「むー無愛想な人」
女の独り言は、オレの耳には入らなかった。
ジュレットの街に着いた頃には、陽が傾いていた。
初めて目にした大きな街に圧倒された。
立体的な構造で高く高く作られた街並みは、隣接した広大な海を見渡すのにちょうどいいからだろうか。
レーンの村や…エテーネの村とは違う。
ひとまず宿屋を探して、一泊することにした。
ベッドに倒れ込むと、すぐに意識は沈んだ。
翌朝。
「あ」
宿を出ると、あろうことか昨日の女とバッタリ出くわした。
「昨日の人!」
「あー…」
向こうも当然オレのことは覚えていて、大声を出されてうんざりする。
やめてくれ。目立ちたくない。
「ジュレットの人だったんだ?」
嫌そうなオレの表情を全く読み取れないのか、女は無遠慮に話しかけてくる。
ダメだ。こいつ、お節介で空気の読めない鈍感ときた。
「いや」
「じゃあレーン?」
面倒だがオレが否定の返事をすると、すかさずまた質問される。
「違…いや、レーンでいい」
「?」
エテーネの村…なんてこいつが知るはずない。
今のオレはレーンの村のセカルだ。レーンの住人なんだ。
歯切れの悪いオレのことを不思議に思ったのか、女は首を傾げながら話題を変えてきた。
「おにーさん、何してる人なの?」
「別に」
別に何もしてない。
ただ、レーンに留まるのも居た堪れなくて、飛び出してきただけ。
目的なんて、ない。
「何も…何してるんだろうなオレ」
「ん?どしたの?」
自問自答のぼやきが、女にも聞こえたらしい。
女はぽわんとした様子で、また聞き返してくる。
そんな能天気な女の顔を見ていたら、何だか腹が立ってきた。
「守りたいもの、何も守れずに。何でオレだけ…こんなとこでのうのうと生きてんだ…」
エテーネの村を焼き尽くす炎がフラッシュバックする。
闇夜に浮かぶ魔物達、冥王ネルゲルの姿。
どうして。どうして!どうして!!
オレだけが、生き返しを受けてこんな常夏の平和な世界に生きている?
どうしてオレだった?何もない、オレが助かった?
悔しい。悲しい。辛い。色々な感情がごちゃ混ぜになって、ギリギリと手を握り締めた。
青い拳。エテーネではない、ウェディの体だ。
「オレが、弱いせいで、みんな…!」
妹の叫び、届かなかった手。
アバさま、シンイ、村の人たちの顔が浮かんでは消えていく。
オレには何も、守れなかった。
握り締めて血管がはち切れそうになっていた手を、不意に掴まれた。
驚いて顔を上げると、女がじっとこちらを見ていた。
ぽわんとしていたはずの女が、真剣な眼差しでまっすぐオレの目を捕らえてくる。
あまりの目力に圧倒され、逸らしたいのに逸らせない。
「よし、行くよ!」
「はっ?」
掴まれた手の力は、思いのほか強かった。
その手を振りほどけないまま、すたすたと街の外に連れ出された。
「てんめぇぇ!死ぬかと思ったじゃねーか!」
「実際死んでたわよ。何回生き返らせれば気が済むの」
オレの叫びに、女はあっけからんと返す。
宿を出てから連れていかれたのは、キュララナ海岸というところらしい。
見たことのないタコの魔物に襲われ、ケガをして倒れると女がすかさず回復呪文をかけてくる。
何だ。何なんだこの状況は!
意味も分からず、ツッコミにも疲れ、諦めて短剣を握って淡々と魔物を倒していった。
そんなオレの隣に並び、女もツメを振るってタコを切り倒していた。
その横顔は、なんだか機嫌良く楽しそうに見えた。
…全く意味が分からない。
水平線上に夕日が差し掛かり、水面がキラキラと反射して眩しくなってきた。
輝く水面を目で辿っていくと、端が追えない。水平線はどこまでも続いていた。
レーンの村で見ていた海とは違う。もちろんエテーネの村でも見たことのない光景。
こんなにも世界は広いのだと。今までオレが見ていた世界はちっぽけなものだったと。
…思い過ごしだろうけど。そんな風に、語り掛けられたようだった。
夕日に目を奪われ、ぼーっと海を眺めていると、
「よーし、そろそろ終わりにしよっかー!」
元気の良い女の声が、高らかに響き渡った。
宣言した女が荷物をまとめ始めたので、慌ててオレも剣を収める。
ツメについた汚れを拭き取りながら、女が話しかけてきた。
「なんかさー悩んでるみたいだったから。
よく分かんないけど、守りたいものがあるなら、強くなればいいじゃない!」
そう言いながら、ニッコリと笑顔を向けられた。
夕日に照らされたその顔は、眩しく輝いて見えた。反射した水面のせいだろうか。
あまりに曇りのない笑顔で言われたものだから、色々考えていたのがバカらしくなってきた。
「…お前、バカそうだな。考えなしというか」
「は?!」
つい口から出てしまった言葉に、女は固まり、みるみるうちに眉を吊り上げた。
「いきなり人を捕まえてバカって何よ!
っていうかあんたみたいなうだうだした男、大っ嫌いなんですけど!」
「なっ?!いきなり捕まえたのはお前の方だろうが!
お前みたいな暴力女、こっちから願い下げだ!」
そこからは、もう言い合い罵り合い。
正直、何を言ったのか覚えていないくらい。
ウェディになってから…いや、エテーネでもしたことがないような?壮絶な大ゲンカを繰り広げた。
キラキラした夕日は、すっかり沈んでいた。
そんな出来事から一週間ほど経った頃だろうか。
ジュレットの街の階段を下りていると、
「誰かと思ったら弱いおにーさんだ」
散々言い合って、忘れるはずもないあの声が聞こえてきた。
「うっせぇ馬鹿女」
顔を確認するや否や、反射的に返した。
こんなこと言う相手、エテーネでもいなかったんだけどな…。
「お、レベル上がったでしょ?」
「洞窟行く度に、いちいちカニに絡まれんの面倒なんだよ」
オレの罵りを気にせず、こちらをじろじろ見ながら女は聞いてくる。
どうせ反発しても言い合いになるだけだ。適当に回答した。
すると、女はニヤニヤ笑いを浮かべて「ふーん」と呟いた。
「なんだよ?」
気味が悪い。
「やー、ちゃんと鍛える気になったんだねー」
えらいえらいと頭を撫でられたので、驚いて手を退けた。
「な、てめーのせいじゃねーからな!勘違いすんな」
…捨て台詞っぽくてカッコ悪い。
いや本当に、この女の影響じゃない!
ただ魔物に襲われるのが面倒だから、鍛えるようになっただけで!
心の中で言い訳がましく叫んでいると、
「今のあんた、生きた顔してる。前はさー、ホント死んでたから」
そう言われて、微笑みかけられた。
「…」
言葉を次げなかった。
生きた顔?オレが?前は死んでた?
こいつに会う前、ジュレットに着くまでのオレは…エテーネの村のことを忘れられず、ずっと悩んでいて。
どうすればよいか分からず、暗闇の中でもがいていた。
そんな時にこいつに引っ張られて、戦いに連れ出された。
意味が分からないまま戦って、大声でケンカして、その後は自分で鍛えるようになって。
魔物と対峙するようになって、相手を倒したり、ケガをしたりして、命の重みを感じるようになった。
今のオレは…生きてる。レーンで虚ろに過ごしていた頃とは違う。
こいつの…おかげ?
おずおずと女の顔を見ると、やっぱり何も考えてないんじゃないか?と思えるような、能天気な表情に見えた。
…オレが考えすぎなだけかも。
なんかこいつと関わってると、調子が狂う。
つられて自分もバカらしく思えてくる。
「そーいえば、家ないの?いつも宿屋に泊まってるの?」
「ねーよ、んなもん」
投げやりにそう返すと、とんでもない言葉が聞こえてきた。
「じゃあウチ来る?ちょうどジュレットだし」
「は?」
…こいつと関わってると、調子が狂う。
繰り返すが、こいつの行動は、何もかも意味が分からない。
「折角強くなる気になったんだもん、存分に鍛えて、存分に休めばいいよ!」
「はぁ?別に強くなるのが目的ってわけじゃ…」
女はオレの言葉を聞きもせず、レッツゴー!とオレの手を掴んで上機嫌に歩き出した。
待て待て待て。
ってか、男を家に入れるとか、こいつ何考えてんだ?!
もしかしてオレ、男だと思われてない?いや、おにーさんって呼ばれてるし…。
あ、待て。こいつ、オレの名前知らないんだ。で、オレもこいつの名前知らないし。
いやいや、今そこは論点じゃない。この状況だよ、何で家に連れていかれそうになってんだ?!
色々と考えを巡らせている内に、あれよあれよと白亜の住宅街に連れてこられた。
小さな家だが、庭は芝生と花で意外にも綺麗に彩られている。
ジュレットの街から見るような、広い海が一望できる景色の良い場所だった。
ここからも、夕日が綺麗に見えそうだな…。
…じゃねえってば!
「なあオイ、お前何考えてんだ?」
「何って?」
女はきょとんとしながら、家の扉を開けた。
「いや、オレを家に入れるって、どういうことだよ…」
「どうって…鍛えるなら、好きに使っていいよってさっき言ったでしょ」
「いやいや、おかしいだろ?どこの誰とも分かんねー奴に気軽に」
「え、知ってるよ?レーンの人でしょ」
「そうじゃなくてだな!」
そんな押し問答をしていると、家の前にひょいっとエルフの女が現れた。
はい?
「おじゃましまーす」
「お、元気?」
「うん。ベッド借りる」
「はーい」
オーガの女は、さも当然のようにエルフの女と短い会話を交わした。
「何…今の」
エルフの女が家に入っていくのを見た後、庭で立ち尽くしながら聞いた。
「え、友達だけど?」
「ベッド借りるって…」
「ああ、あんな風に使ってくれていいから」
あー…。特別な意味とかないわけか。
ハイハイ、やっぱただの能天気女だよな!
妙に納得して、色々と考えた自分に落ち込んだ。
何だ。マジで何なんだこいつ。
こっちが心配になるほど何も考えてねーじゃねぇか。
無駄に疲れたので、今日は街に戻ることにする…っと、その前に。
「…名前も知らないような奴を、家に入れようとすんなよ」
「名前?あ、そういえば!」
本当に気付いていなかったらしい。
…もう驚かねぇよ。
こいつの中じゃ、名前を知らなくても友達になっちまうみたいだしな。
「セカル」
「へ?」
「オレの名前」
「…変なの」
「変っつーな!」
「あたしはね、カイト!」
「…変だな」
「コラー!変じゃない!」
「ハイハイ。じゃあまたなカイト」
「うん?家入んないの?」
「帰る」
「そっかあ、次会うまでに名前忘れないようにしないと…」
「オイ」
「セカル、セカル…セカル」
「うっせぇ」
何だかすっかり慣れてしまった会話のやり取り。
後日、なんだかんだでカイトの家にちょいちょい来るようになるのだった。
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「よ…どうした?」
ある日カイトの家に寄ると、部屋の奥のベッドが膨らんでもぞもぞと動いていた。
「うー風邪引いたかも」
「バカでも風邪引くんだな」
「元気になったら覚えてろぉ…」
オレの憎まれ口に間髪入れず、布団の中から呻くような返事が聞こえてきた。
その後は静かになったので、眠ったのだろうか。
…どうしたもんか。
頭を掻きながら、部屋を後にした。
「ん…」
「目ぇ覚めたか」
しばらくすると、カイトがベッドから起き上がった。
「食えるか?」
そう言いながら、柔らかく煮込んだ野菜のスープと切ったフルーツを側に置いた。
先ほど食材を買ってきて、適当に作ったものだ。
「セカルが作ったの…?」
「ああ」
料理はエテーネの頃にいつもやっていたし、わりと好きだった。
こっちに来てからはあまり機会がなかったので、久々だったが。
ウェナの食材はよく分からなかったから、今度はもうちょっと調べてみるかな…
そんなことを考えていると、カイトがスープに口をつけた。
すると、まるで「ぱぁぁ」と効果音がついたように、カイトの顔が明るくなった。
「わぁぁ美味しい!」
「あ、ああ…」
あまりに分かりやすく嬉しそうにされるので、何だか気後れしてしまう。
ころころとカイトの表情が変わるのは、いつものことなのに。
「料理できるなら、何で今までしなかったの?」
食欲はあるのか、もぐもぐと食べながら、ふとカイトが聞いてきた。
…うん。聞かれると思ったがな。それはな…
「…じゃあ逆に聞くけどな。何でこの家のコンロはピカピカで、流しも綺麗に片付いてるんだ?」
「え…?」
カイトがぎくりとして、手に持ったスプーンを落としかける。
「オレが思うに、お前は全く自炊をしない。料理が出来ない。そしてその風邪!どうせ昨日の雨の中で戦って、濡れたまま寝たんだろ?その体調管理!だいたいお前の生活力の無さはだな…」
「わーゴメンなさい!頭痛いからお説教やめてー!」
くどくどと説教を垂れると、カイトは両手で耳を塞いで布団を被った。
本当に…分かりやすいんだよな…。
体調が悪い中、色々と言ってしまったことはちょっと悪かったか。
オレはカイトの食べ終えた食器を持って、洗い物に向かった。
「くっそ…餌付けしちまった」
カイトに聞こえない程度に独りごちた。
こうなると思ってたから、料理しなかったんだよな…。
これを機に、たまに料理を作りに来るようになってしまった。
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「カイト…寝てんのか?」
家に料理をしに来たり、木工職人であるカイトへ素材の枝をおすそ分けしたり、たまに一緒に魔物を倒しに行くようになった頃。
以前カイトが風邪を引いた時のように、またベッドが膨らんでいた。
返事はなく、家主は寝ているようだった。
「鍵開けたまま寝るなっつっただろうが…」
一緒にいる時間が増えて分かった…いや、会った時から分かってたな。
とにかくこいつは何も考えてない。防犯意識なんてあったもんじゃない。
深くため息をついて、家主に代わって家の鍵をかけた。
…もしかして、オレが来るから、鍵開けてんのか…?
ふとそう思ったが、いやいや、こいつだぞ?んなこと考えてねぇって…。
また体調が悪くて寝込んでいるわけじゃないかと、念のため確認で少し布団をめくった。
すやすやと寝息を立てて眠るカイトの顔が見えた。
体格と合っていないような、無邪気な顔立ち。
瞼を閉じたその顔からは、いつものうるさい声は聞こえてこない。
うん。フツーに寝てるだけだ。
こっちの心配なんてつゆ知らず、幸せそうに寝やがって…
「…黙ってれば可愛いんだよ」
…ん?
オレ、何言って…?今、声出てた…?!
ハッとして、慌てて後ろを向いた。手で口を覆うが、出た言葉は戻らない。
心臓の音が、バクバクと鳴り響く。
嘘だろ、オレ、今何考えてた?こいつのこと…?
あーもううるさい!静まれ鼓動…。
へなへなと床に座り込んで、ベッドにもたれかかった。
*****
「…黙ってれば可愛いんだよ」
なんて。
驚いて目を開けるところだった。
セカルそのまま座っちゃうし、こ、これ、あたし起きらんないじゃない!
ちょっと驚かせるつもりが、完全にタイミング逃した。それに、こんなことって…。
ドキドキが止まらなくて、心臓が飛び出そう。
お願いだから、静かにしてよ。
ベッドにもたれるあいつに聞こえるんじゃないかとひやひやしながら、ぎゅっと目を瞑った。
(おわり)
*****
出会い編と、おまけの風邪編、可愛い発言編でした。
こんな感じで両想いバカップルが形成されましたよっと!
好き合ってるのに、お互い言い出せずにズルズルいきます。
くっつくのに何年かかるのか。
セカルは振り回されながらも、カイトの明るさ、真っすぐさに救われたため、惹かれていきます。憎まれ口を叩ける貴重な存在なのも大きいです。
カイトは何だかんだ世話を焼かれて、自分には出来ないことをやってのけるセカルに惹かれていきます。あと面食いなので、元からセカルへの好感度は高いです(笑)
段々と強くなっていくセカルの姿にも、心を動かされていきます。
ちなみに、お互いに好みのタイプとは正反対。
何でこんな奴を好きになったのか…と思っています。
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