学園日常話 セカルの欠点
【2017.12.18】
学園日常話、ギャグです。
フウキ生徒全員と、カイトとセカルが出てきます。
題の通り、マイキャラが焦点の話です。
付き合ってないバカップル。
セカルを上げたいのか下げたいのかと聞かれたら、『下げたい』。
リソル視点です。
―――――
「ねえ、セカルの欠点って何?」
オレの質問に、カイトは目を丸くした。
11月。少し気温が下がって、肌寒い日が多くなった。
今日は陽が出ているから、そこそこ暖かい。
オレとカイトは、校舎前の憩いのテラスのベンチに座っていた。
別に一緒に来たわけじゃない。
オレがテラスの上で寝ていると、たまにカイトがやって来て、雑談するのが日常化していた。
「セカルの欠点?」
カイトはぽかんと口を開いた後、んんん?と言いながら首を傾げた。
「考えたことなかったなあ…」
「あいつだって欠点あるでしょ?あんたは料理が出来ない、考えなしで動く、不器用、魔法が下手、挙げればキリがないほど穴だらけだけど」
「ちょっと!何でそこまでボロクソに言われなきゃいけないのよ!」
脳筋女がわなわなと震えて拳を握るものだから、オレはひょいと立ち上がって距離を取った。
「そうやってすぐ暴力に訴えるのは、低脳の証だよ」
「あんたねえ!そういうあんただって、自分勝手、生意気、毒舌、穴だらけじゃないの!」
「失礼だな。オレの言動は考えあってのものだよ」
カイトは、むう、と唸って視線を下げた。
そして、オレに聞こえるようにぽつりと悪態をついた。
「…チビ」
「…カイト、そこに武道場がある。手合わせしようか?」
…その一言だけは許さないぞ。
「セカルの欠点かあ…」
カイトが空を仰いで呟いた。
一通り罵り合って、ベンチに座り直したところだった。
「パッと思い付かないの?」
「うーん、昔は戦うのが下手で、なよなよした男だったんだけど、今はそうでもないしなあ」
オレを含め、フウキの連中が知らないセカル像。
詳しくは聞いたことがないけど、学園に来る前から二人は知り合いだったらしい。
知り合いっていうか…端から見れば、痴話喧嘩ばっかりしてるバカップルなんだけど。
「物理も魔法もオールマイティ。戦闘に関しては、欠点らしいものはないと思う」
「だよねえ…。前はあたしの方が圧倒的に強かったのに。なんかムカつく」
「あんたの戦闘は極端なんだよ。頭が足りてない」
「うっさい」
両手で頬杖をついたカイトが、間髪入れずに突っかかった。
「っていうか、何でセカルの欠点なんて聞いてくるの?」
「あいつってさ、まー器用貧乏ではあるけど、勉強はそこそこ出来て、家事が得意、人当たりもいい。人気はあんじゃん?」
「人気?あるの?」
きょとんとしたカイトに、ニヤリと笑って言ってやった。
「こないだ知らない女子と話してたよ」
「うそ、どこで」
「はー、やっぱり気になる?」
「は?気になんないし!どーでもいいわよあいつのことなんて!」
いかにも、な分かりやすい反応でそっぽを向くカイト。
これだから、からかい甲斐はピカイチなんだよね。
「まー、セカルは人気あるよ。当然オレほどじゃないけどさ」
「あんたが人気ぃ?みんな騙されてるのよ、こんなに性格歪んでるのに」
「そっちに食いつくの?オレのカリスマ性が、人を惹き付けちゃうから仕方ないね」
「はーいはい、言ってなさいよ」
お互いにスルーして、本題に入る。
「あいつだって、何かダメなところはあるはず…セカルの決定的な欠点を見つけたい。あの優等生ヅラを暴きたいんだよね」
「まあ確かに、これ!って弱味を握ってた方が、何かと有利よね…」
そんな不穏な会話をしながら、お互いに目を合わせた。
「じゃあ決まりだ。これより、セカルの欠点を探す」
「おーけー。同盟ってことで」
軽く握った右手の拳同士を、こつんと合わせた。
テラスを離れて、フウキの対策室へ行くことにした。
二人で校舎へ向かって歩きながら話す。
「そもそも、カイトは同じクラスでしょ?普段見てて、これがダメってところないの?」
「そうだなー…勉強は人に教えてるくらいだし。部活の裁縫も上手で、調理実習も見事な腕前」
「つくづくあんたと正反対だよね」
「いちいち突っかからないでくれる?」
ジロリと視線を送られ、オレはハイハイと肩をすくめた。
「あたし達が気付いてない欠点があるかも。まずは聞き込みじゃない?」
「誰に?」
「そりゃあ身近にいる仲間達よ!」
フウキの対策室に入ると、人はまばらだった。
居たのは、フランジュとクラウン、それにアイゼル。
女子はテーブルについて、何やら本を読んでいた。
「あら、カイトちゃんにリソルくん。こんにちは」
「こんにちは!クラウン先パイとフランちゃん、何読んでるの?」
早速嬉々として女子の会話に加わるカイト。
ねえ、セカルの話忘れてないよね?
三歩歩いたら忘れるバカなの?
オレは離れたソファに腰掛けた。
アイゼルは鍛冶で作った何かを磨いていた様子。
「よっ!」と挨拶されたので、軽く流す。
「なんだよ無視かよー」と言いつつ、気には留めないようでまた作業に戻っていった。
「カイトちゃんこれ見て!美味しそうでしょ」
タヌキ顔を綻ばせて…って言うとまた怒るんだろうな。
クラウンが、見ていた本の写真を指差した。
どうやら料理本らしい。
「わーほんとだ!チョコレートケーキ?」
「はい!クラウン先輩と見ていて、このケーキを作りたいって話をしていたところなんです」
カイトの問いに、フランジュが笑顔で答える。
女子ってホント、甘いものやら可愛いものにキャーキャー言ってうるさいんだよね。
「セカルくんが教えてくれたのよ」
「セカルが?」
はた、と先ほどのセカルの話を思い出したのか、カイトがクラウンに聞き返した。
オレも耳だけ傾ける。
「うん。フランちゃんと、お菓子作りたいねーって話してたら、セカルくんが話に加わって、色々教えてくれたのよ。オススメされたこの本も分かりやすくてねー」
「セカルさんのお料理指南は的確です。私も見習いたいですね」
「そっかあ…」
カイトが気の抜けた相槌を打ったので、オレは静かに笑った。
苦手な料理話には混ざれない。
ホントに分かりやすいなあんたは。
でも、女子の話はセカルの長所が際立っただけだ。
そうじゃない、欠点を聞きたいんだよ。
カイトはアイゼルに近寄って、覗き込みながら声をかけた。
「アイゼル先パイ、何してるの?」
「これか?ちょっと頼まれごとの細工をな」
アイゼルは手を止めて、カイトに見えるように作品を掲げた。
「すごーい!羽みたいなデザイン?細かくて綺麗!」
「ハハ!ありがとな。そうやって言われると嬉しいぜ。カイト、今度何か作ってやろうか?」
「いいの?わー嬉しい!」
お気楽おバカコンビは波長が合う。
頬杖をついて眺めてたら、アイゼルがオレに気付いて「リソルも欲しいかー?」と聞かれたので、「いらない」と即答した。
「ねえカイト」
コミュニケーション力はズバ抜けているカイトが部屋の巡回を止めないから、呼び止めてやった。
「なあに?」と、オレが座っているソファにやってきた。
隣に座ってきたので、「あんまり近付かないでくれる?」と言うと、「めんどくさいなあ…」と少し距離を取って座り直された。
「セカルの話、忘れてない?」
「忘れてないわよ!ただねえ…聞きにくいのよね。いきなり何?って思われるでしょ」
「部屋に入る前の意気込みは何だったの?」
オレの指摘に、ばつが悪そうに答えるカイト。
「仕方ないでしょ。あ、アイゼル先パイみたいな鍛冶は出来ないんじゃないかなーセカル。それが欠点になるんじゃない?」
「いや…オレもあんたも出来ないでしょ。それは欠点じゃなくない?」
「そっかー…そうだよね。はー、難しいなあ」
カイトは腕を組んで悩み出した。
なんか、こいつと手を組んだのが間違いだった気がする。
そうなると、適任は…
ガチャリと扉が開いて人が入ってきた。
ミランだった。
「こんにちは」
ミランがにこやかに挨拶をし、周りも応じる。
オレらと目が合うと、こちらにやってきた。
向かいのソファに腰掛けた。
「カイトとリソルは何の話をしてたんだい?」
そうだ。
同性で同級生のこいつなら、みんなが知らないセカルの欠点を知ってるかもしれない。
「え?ああ、その…」
カイトは会話の内容が後ろめたいのか、明らかに動揺した。
ホント使えないバカ正直なヤツ。
「やー王子サマ。ちょうど良かった。あんたに聞きたい話があるんだよねー」
「…何かな。答えられることならいいけど」
オレの喋り方を聞いて、ミランは笑顔のまま少し身構えたようだった。
多分、カイトには気付かれないように、笑顔でオレを警戒してんな。
食えないなー王子サマは。
「王子サマ、セカルと仲いいでしょ。何か気付いてるあいつの欠点とかない?」
「欠点?唐突だな。二人でそんな話をしてたの?」
「あ!いや、ね。たまたまよ、たまたま!」
カイトはミランの心象を悪くしたくないんだろう、慌てて取り繕う。
…カイトはミーハー。イケメンに弱い。
ムカつくことに、ミランに対しても例外じゃない。
全くこの女は!
「そうだな…よく一緒にいるけど、これといって直してほしいところはないかもしれない」
「んー、そうだよね。あたし達も思い付かなくてさ」
「フウキのリーダーとして信頼も厚いね」
「誉め言葉しか出てこない…」
「良いことじゃないか。羨ましいよ」
ミランとカイトのやり取りをむすっとして聞いていたら、「どうかした?」と王子スマイルを向けられた。
あ、こいつ…分かった。
カイトの前で、セカルを悪く言うつもりがないんだ。
カイト抜きの場なら、セカルの欠点を話すかも?
でもオレに本音を話すとは思えないし…
そう考えていると、部屋の扉がゆっくりと開いた。
先に小さな影が入ってくる。ラピスだ。
お供のドラキー、メルジオルもパタパタと続いて入ってきた。
その一歩後ろから、もう一人が入ってきた。
先ほどからの話題の人物。セカルがようやくやってきた。
「ラピス、ドア開けてくれてありがとな」
「うん。セカル、はやく」
「分かった分かった。ドア閉めてくれるか?」
ラピスは素直に言うことを聞いて、ドアを閉めた。
なるほど、セカルがわざわざラピスに頼んだのは、両手が塞がっているからだった。
手には大きな皿。上にはたくさんのクッキー。
「セカルくん、クッキー焼いてたの?」
クラウンが尋ねると、セカルは皿をテーブルに置きながら答えた。
「はい。おやつにと思って。そしたらラピスが匂いにつられたのか、調理室に入ってきて」
「セカル、まだ?」
「はは。もういいよ。…こんな調子で、ずっとついていたんですよ。みんなの分が無くなるから、対策室に来るまでは食べちゃダメだぞって言ってたんです」
セカルは笑いながらラピスの頭を撫でた。
「全く…ラピスの大食いも困ったものじゃ」
メルジオルがラピスの頭上で小言を垂れたが、ラピスはクッキーで頭がいっぱいなのか気付かない様子。
「なるほどな…調理室でラピスが机にかじりついてる姿が、スゲェ想像できる」
「ラピスちゃんって、セカルくんに懐いてるよねー」
3年生二人がうんうん、と頷いた。
「ラピスお待たせ。食べていいぞ」
「いただきます!」
ラピスが目を輝かせる。
セカルが微笑みながら、クッキーをひとつ摘まんだ。
そのままラピスの口にクッキーを運ぶ。
ラピスが、あーんと口を開けると、
「あー!!!」
カイトが大声を上げて、セカルとラピスを指差した。
「うるさいなあ…何?嫉妬?」
オレが頭を掻いて言ってやると、少し顔を赤らめて「違うわよ!」と叫ばれた。
「思い出した!シスコンよ、シスコン!」
「はあ?!」
カイトの叫びに、セカルが盛大な疑問符を口にした。
クッキーを持ったセカルの手が止まったので、ラピスは身を乗り出してクッキーにパクついた。
「おいしい」
満足げに顔を綻ばせるラピスだけが、この部屋の雰囲気に気付いていなかった。
こいつの性格、ある意味羨ましい。
「何だよ突然?!」
「ラピスにあーんするあんたを見て思い出したのよ!こいつシスコンだった!」
「は??な、何のことだよ…ってか、叫ぶことか?」
カイトとセカルの大声合戦を、ラピス以外のメンバーが呆気に取られて見ていた。
ラピスは、自分で手に取ってクッキーを食べていた。
「ねえ、リソル!」
いや…カイト。
ねえ、じゃないよ。
このタイミングでオレに話を振るなよ。
「セカル、妹がいるのよ。それがもう溺愛でさー!タキちゃんが可愛いのは分かるけど、ほんとベタベタで」
「いや…それを何でオレに言うの?」
全員(ラピス以外)の視線がオレに向けられる。
とばっちりだ。いい加減にしろ。
「欠点よ欠点!」
「…あ、さっきの話か?」
叫ぶカイトに、合点がいったようにミランが呟いた。
「…あのさあ、それが欠点なの?言われてみれば、セカルのドラキー女に対する接し方は、シスコンっぽいし不思議じゃない。確かにアレだけど、欠点って言うほどじゃないでしょ」
「オイ…さっきから人を捕まえて、何なんだお前ら…」
オレの言葉に、セカルは目をピクピクさせて唸った。
ラピスが何枚目かのクッキーを頬張った。
「いや、それが、お風呂…」
「あー!!?」
カイトが言いかけたところに、セカルが叫んで遮った。
ものすごい剣幕で慌てていた。風呂?
「お前!それは!ここで言うことじゃないだろ?!」
「あのね、こいつ、まだ」
「ちょっと待て!それを言ったらお前なんか、弟に家事全部やってもらってるくせに!」
「あいつがお節介なだけよ!あたしは頼んでないし!それよりあんた、タキちゃんと、」
「だーかーらー!それはほっとけって!」
「まーだタキちゃんとお風呂入ってるんでしょーが!」
「てんめぇぇ!!」
…何この痴話喧嘩?
「いつ見ても、お二人のやり取りは迫力がありますね…」
「フランジュ、感心するところではないと思うよ」
2年生二人が静かに会話をしていた。
止めろよ同級生。
「…オレ、帰るよ。付き合ってらんない」
「いいのか?僕はこの話の内容、気になるけど」
「もうお腹いっぱいだよ。ホントいつも飽きないよね、あのバカップルは」
「はは…」
ミランが力なく笑うのをよそに、オレは出入口へと向かった。
カイトもセカルも罵り合いに夢中で、出ていくオレに気付かない。
はいはい、一生やってろよ。
扉を閉める時に横目で見たクッキーの皿は、空になりかけていた。
「そういえば、セカルの欠点って…あれがあったな」
ミランの独り言は、誰にも聞こえることなく二人の喧騒にかき消された。
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学園日常話、ギャグです。
フウキ生徒全員と、カイトとセカルが出てきます。
題の通り、マイキャラが焦点の話です。
付き合ってないバカップル。
セカルを上げたいのか下げたいのかと聞かれたら、『下げたい』。
リソル視点です。
―――――
「ねえ、セカルの欠点って何?」
オレの質問に、カイトは目を丸くした。
11月。少し気温が下がって、肌寒い日が多くなった。
今日は陽が出ているから、そこそこ暖かい。
オレとカイトは、校舎前の憩いのテラスのベンチに座っていた。
別に一緒に来たわけじゃない。
オレがテラスの上で寝ていると、たまにカイトがやって来て、雑談するのが日常化していた。
「セカルの欠点?」
カイトはぽかんと口を開いた後、んんん?と言いながら首を傾げた。
「考えたことなかったなあ…」
「あいつだって欠点あるでしょ?あんたは料理が出来ない、考えなしで動く、不器用、魔法が下手、挙げればキリがないほど穴だらけだけど」
「ちょっと!何でそこまでボロクソに言われなきゃいけないのよ!」
脳筋女がわなわなと震えて拳を握るものだから、オレはひょいと立ち上がって距離を取った。
「そうやってすぐ暴力に訴えるのは、低脳の証だよ」
「あんたねえ!そういうあんただって、自分勝手、生意気、毒舌、穴だらけじゃないの!」
「失礼だな。オレの言動は考えあってのものだよ」
カイトは、むう、と唸って視線を下げた。
そして、オレに聞こえるようにぽつりと悪態をついた。
「…チビ」
「…カイト、そこに武道場がある。手合わせしようか?」
…その一言だけは許さないぞ。
「セカルの欠点かあ…」
カイトが空を仰いで呟いた。
一通り罵り合って、ベンチに座り直したところだった。
「パッと思い付かないの?」
「うーん、昔は戦うのが下手で、なよなよした男だったんだけど、今はそうでもないしなあ」
オレを含め、フウキの連中が知らないセカル像。
詳しくは聞いたことがないけど、学園に来る前から二人は知り合いだったらしい。
知り合いっていうか…端から見れば、痴話喧嘩ばっかりしてるバカップルなんだけど。
「物理も魔法もオールマイティ。戦闘に関しては、欠点らしいものはないと思う」
「だよねえ…。前はあたしの方が圧倒的に強かったのに。なんかムカつく」
「あんたの戦闘は極端なんだよ。頭が足りてない」
「うっさい」
両手で頬杖をついたカイトが、間髪入れずに突っかかった。
「っていうか、何でセカルの欠点なんて聞いてくるの?」
「あいつってさ、まー器用貧乏ではあるけど、勉強はそこそこ出来て、家事が得意、人当たりもいい。人気はあんじゃん?」
「人気?あるの?」
きょとんとしたカイトに、ニヤリと笑って言ってやった。
「こないだ知らない女子と話してたよ」
「うそ、どこで」
「はー、やっぱり気になる?」
「は?気になんないし!どーでもいいわよあいつのことなんて!」
いかにも、な分かりやすい反応でそっぽを向くカイト。
これだから、からかい甲斐はピカイチなんだよね。
「まー、セカルは人気あるよ。当然オレほどじゃないけどさ」
「あんたが人気ぃ?みんな騙されてるのよ、こんなに性格歪んでるのに」
「そっちに食いつくの?オレのカリスマ性が、人を惹き付けちゃうから仕方ないね」
「はーいはい、言ってなさいよ」
お互いにスルーして、本題に入る。
「あいつだって、何かダメなところはあるはず…セカルの決定的な欠点を見つけたい。あの優等生ヅラを暴きたいんだよね」
「まあ確かに、これ!って弱味を握ってた方が、何かと有利よね…」
そんな不穏な会話をしながら、お互いに目を合わせた。
「じゃあ決まりだ。これより、セカルの欠点を探す」
「おーけー。同盟ってことで」
軽く握った右手の拳同士を、こつんと合わせた。
テラスを離れて、フウキの対策室へ行くことにした。
二人で校舎へ向かって歩きながら話す。
「そもそも、カイトは同じクラスでしょ?普段見てて、これがダメってところないの?」
「そうだなー…勉強は人に教えてるくらいだし。部活の裁縫も上手で、調理実習も見事な腕前」
「つくづくあんたと正反対だよね」
「いちいち突っかからないでくれる?」
ジロリと視線を送られ、オレはハイハイと肩をすくめた。
「あたし達が気付いてない欠点があるかも。まずは聞き込みじゃない?」
「誰に?」
「そりゃあ身近にいる仲間達よ!」
フウキの対策室に入ると、人はまばらだった。
居たのは、フランジュとクラウン、それにアイゼル。
女子はテーブルについて、何やら本を読んでいた。
「あら、カイトちゃんにリソルくん。こんにちは」
「こんにちは!クラウン先パイとフランちゃん、何読んでるの?」
早速嬉々として女子の会話に加わるカイト。
ねえ、セカルの話忘れてないよね?
三歩歩いたら忘れるバカなの?
オレは離れたソファに腰掛けた。
アイゼルは鍛冶で作った何かを磨いていた様子。
「よっ!」と挨拶されたので、軽く流す。
「なんだよ無視かよー」と言いつつ、気には留めないようでまた作業に戻っていった。
「カイトちゃんこれ見て!美味しそうでしょ」
タヌキ顔を綻ばせて…って言うとまた怒るんだろうな。
クラウンが、見ていた本の写真を指差した。
どうやら料理本らしい。
「わーほんとだ!チョコレートケーキ?」
「はい!クラウン先輩と見ていて、このケーキを作りたいって話をしていたところなんです」
カイトの問いに、フランジュが笑顔で答える。
女子ってホント、甘いものやら可愛いものにキャーキャー言ってうるさいんだよね。
「セカルくんが教えてくれたのよ」
「セカルが?」
はた、と先ほどのセカルの話を思い出したのか、カイトがクラウンに聞き返した。
オレも耳だけ傾ける。
「うん。フランちゃんと、お菓子作りたいねーって話してたら、セカルくんが話に加わって、色々教えてくれたのよ。オススメされたこの本も分かりやすくてねー」
「セカルさんのお料理指南は的確です。私も見習いたいですね」
「そっかあ…」
カイトが気の抜けた相槌を打ったので、オレは静かに笑った。
苦手な料理話には混ざれない。
ホントに分かりやすいなあんたは。
でも、女子の話はセカルの長所が際立っただけだ。
そうじゃない、欠点を聞きたいんだよ。
カイトはアイゼルに近寄って、覗き込みながら声をかけた。
「アイゼル先パイ、何してるの?」
「これか?ちょっと頼まれごとの細工をな」
アイゼルは手を止めて、カイトに見えるように作品を掲げた。
「すごーい!羽みたいなデザイン?細かくて綺麗!」
「ハハ!ありがとな。そうやって言われると嬉しいぜ。カイト、今度何か作ってやろうか?」
「いいの?わー嬉しい!」
お気楽おバカコンビは波長が合う。
頬杖をついて眺めてたら、アイゼルがオレに気付いて「リソルも欲しいかー?」と聞かれたので、「いらない」と即答した。
「ねえカイト」
コミュニケーション力はズバ抜けているカイトが部屋の巡回を止めないから、呼び止めてやった。
「なあに?」と、オレが座っているソファにやってきた。
隣に座ってきたので、「あんまり近付かないでくれる?」と言うと、「めんどくさいなあ…」と少し距離を取って座り直された。
「セカルの話、忘れてない?」
「忘れてないわよ!ただねえ…聞きにくいのよね。いきなり何?って思われるでしょ」
「部屋に入る前の意気込みは何だったの?」
オレの指摘に、ばつが悪そうに答えるカイト。
「仕方ないでしょ。あ、アイゼル先パイみたいな鍛冶は出来ないんじゃないかなーセカル。それが欠点になるんじゃない?」
「いや…オレもあんたも出来ないでしょ。それは欠点じゃなくない?」
「そっかー…そうだよね。はー、難しいなあ」
カイトは腕を組んで悩み出した。
なんか、こいつと手を組んだのが間違いだった気がする。
そうなると、適任は…
ガチャリと扉が開いて人が入ってきた。
ミランだった。
「こんにちは」
ミランがにこやかに挨拶をし、周りも応じる。
オレらと目が合うと、こちらにやってきた。
向かいのソファに腰掛けた。
「カイトとリソルは何の話をしてたんだい?」
そうだ。
同性で同級生のこいつなら、みんなが知らないセカルの欠点を知ってるかもしれない。
「え?ああ、その…」
カイトは会話の内容が後ろめたいのか、明らかに動揺した。
ホント使えないバカ正直なヤツ。
「やー王子サマ。ちょうど良かった。あんたに聞きたい話があるんだよねー」
「…何かな。答えられることならいいけど」
オレの喋り方を聞いて、ミランは笑顔のまま少し身構えたようだった。
多分、カイトには気付かれないように、笑顔でオレを警戒してんな。
食えないなー王子サマは。
「王子サマ、セカルと仲いいでしょ。何か気付いてるあいつの欠点とかない?」
「欠点?唐突だな。二人でそんな話をしてたの?」
「あ!いや、ね。たまたまよ、たまたま!」
カイトはミランの心象を悪くしたくないんだろう、慌てて取り繕う。
…カイトはミーハー。イケメンに弱い。
ムカつくことに、ミランに対しても例外じゃない。
全くこの女は!
「そうだな…よく一緒にいるけど、これといって直してほしいところはないかもしれない」
「んー、そうだよね。あたし達も思い付かなくてさ」
「フウキのリーダーとして信頼も厚いね」
「誉め言葉しか出てこない…」
「良いことじゃないか。羨ましいよ」
ミランとカイトのやり取りをむすっとして聞いていたら、「どうかした?」と王子スマイルを向けられた。
あ、こいつ…分かった。
カイトの前で、セカルを悪く言うつもりがないんだ。
カイト抜きの場なら、セカルの欠点を話すかも?
でもオレに本音を話すとは思えないし…
そう考えていると、部屋の扉がゆっくりと開いた。
先に小さな影が入ってくる。ラピスだ。
お供のドラキー、メルジオルもパタパタと続いて入ってきた。
その一歩後ろから、もう一人が入ってきた。
先ほどからの話題の人物。セカルがようやくやってきた。
「ラピス、ドア開けてくれてありがとな」
「うん。セカル、はやく」
「分かった分かった。ドア閉めてくれるか?」
ラピスは素直に言うことを聞いて、ドアを閉めた。
なるほど、セカルがわざわざラピスに頼んだのは、両手が塞がっているからだった。
手には大きな皿。上にはたくさんのクッキー。
「セカルくん、クッキー焼いてたの?」
クラウンが尋ねると、セカルは皿をテーブルに置きながら答えた。
「はい。おやつにと思って。そしたらラピスが匂いにつられたのか、調理室に入ってきて」
「セカル、まだ?」
「はは。もういいよ。…こんな調子で、ずっとついていたんですよ。みんなの分が無くなるから、対策室に来るまでは食べちゃダメだぞって言ってたんです」
セカルは笑いながらラピスの頭を撫でた。
「全く…ラピスの大食いも困ったものじゃ」
メルジオルがラピスの頭上で小言を垂れたが、ラピスはクッキーで頭がいっぱいなのか気付かない様子。
「なるほどな…調理室でラピスが机にかじりついてる姿が、スゲェ想像できる」
「ラピスちゃんって、セカルくんに懐いてるよねー」
3年生二人がうんうん、と頷いた。
「ラピスお待たせ。食べていいぞ」
「いただきます!」
ラピスが目を輝かせる。
セカルが微笑みながら、クッキーをひとつ摘まんだ。
そのままラピスの口にクッキーを運ぶ。
ラピスが、あーんと口を開けると、
「あー!!!」
カイトが大声を上げて、セカルとラピスを指差した。
「うるさいなあ…何?嫉妬?」
オレが頭を掻いて言ってやると、少し顔を赤らめて「違うわよ!」と叫ばれた。
「思い出した!シスコンよ、シスコン!」
「はあ?!」
カイトの叫びに、セカルが盛大な疑問符を口にした。
クッキーを持ったセカルの手が止まったので、ラピスは身を乗り出してクッキーにパクついた。
「おいしい」
満足げに顔を綻ばせるラピスだけが、この部屋の雰囲気に気付いていなかった。
こいつの性格、ある意味羨ましい。
「何だよ突然?!」
「ラピスにあーんするあんたを見て思い出したのよ!こいつシスコンだった!」
「は??な、何のことだよ…ってか、叫ぶことか?」
カイトとセカルの大声合戦を、ラピス以外のメンバーが呆気に取られて見ていた。
ラピスは、自分で手に取ってクッキーを食べていた。
「ねえ、リソル!」
いや…カイト。
ねえ、じゃないよ。
このタイミングでオレに話を振るなよ。
「セカル、妹がいるのよ。それがもう溺愛でさー!タキちゃんが可愛いのは分かるけど、ほんとベタベタで」
「いや…それを何でオレに言うの?」
全員(ラピス以外)の視線がオレに向けられる。
とばっちりだ。いい加減にしろ。
「欠点よ欠点!」
「…あ、さっきの話か?」
叫ぶカイトに、合点がいったようにミランが呟いた。
「…あのさあ、それが欠点なの?言われてみれば、セカルのドラキー女に対する接し方は、シスコンっぽいし不思議じゃない。確かにアレだけど、欠点って言うほどじゃないでしょ」
「オイ…さっきから人を捕まえて、何なんだお前ら…」
オレの言葉に、セカルは目をピクピクさせて唸った。
ラピスが何枚目かのクッキーを頬張った。
「いや、それが、お風呂…」
「あー!!?」
カイトが言いかけたところに、セカルが叫んで遮った。
ものすごい剣幕で慌てていた。風呂?
「お前!それは!ここで言うことじゃないだろ?!」
「あのね、こいつ、まだ」
「ちょっと待て!それを言ったらお前なんか、弟に家事全部やってもらってるくせに!」
「あいつがお節介なだけよ!あたしは頼んでないし!それよりあんた、タキちゃんと、」
「だーかーらー!それはほっとけって!」
「まーだタキちゃんとお風呂入ってるんでしょーが!」
「てんめぇぇ!!」
…何この痴話喧嘩?
「いつ見ても、お二人のやり取りは迫力がありますね…」
「フランジュ、感心するところではないと思うよ」
2年生二人が静かに会話をしていた。
止めろよ同級生。
「…オレ、帰るよ。付き合ってらんない」
「いいのか?僕はこの話の内容、気になるけど」
「もうお腹いっぱいだよ。ホントいつも飽きないよね、あのバカップルは」
「はは…」
ミランが力なく笑うのをよそに、オレは出入口へと向かった。
カイトもセカルも罵り合いに夢中で、出ていくオレに気付かない。
はいはい、一生やってろよ。
扉を閉める時に横目で見たクッキーの皿は、空になりかけていた。
「そういえば、セカルの欠点って…あれがあったな」
ミランの独り言は、誰にも聞こえることなく二人の喧騒にかき消された。
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