1年目正月
【2022.11.24】
クウトが初めてセカル・タキ兄妹と会う話。
この頃のクウトは無自覚シスコン。
-------------------------
(セカル高2、カイト高1、クウト中2、タキ小6で1月。クウト視点。)
最近、姉ちゃんが男と一緒にいる。
面食いな姉ちゃんのことだから「カッコいいー!」とかで惚れて、ついて回ってるんだろうな。
で、その内姉ちゃんが距離感間違えて、相手に引かれて終わりー…になると思ってたんだけど…
案外続いてる。
たまに二人で出掛けてるっぽい。
男にもその気があると見た。
あの姉ちゃんだぞ?人の話を聞かずに突っ走る。そのくせ不器用で、人にお世話されなきゃ何も出来ない。一緒にいたら、振り回されること間違いなし。
…それがいいって、相当な物好きだぞ。
あー、そういえば、この間クリスマスに出掛けていって、上機嫌で帰ってきてた。
見たことないネックレスつけて。
あれは多分貰ったプレゼントだな。
本気で姉ちゃんと付き合う気か?
どうせ手に負えなくて、投げ出すに決まってる。
別に姉ちゃんが誰と付き合おうと知ったことじゃないけど、中途半端に手を出されて泣かされても困る。
家でうだうだ泣かれるのが面倒ってだけだ!
…姉ちゃんにふさわしい男かどうか、おれが見極めてやる。
正月の朝9時。
朝から隣の部屋がドタバタとうるさい。
「ねー!あたしの手袋どこにあるか知らない?」
いきなりおれの部屋のドアが開いて、カイトが顔を出す。
「なんでおれに聞くの?自分でどっか置いたんでしょ。あとノックして」
「ないのよ~昨日使ったはずなんだけど…」
カイトが眉をハの字にする。
ノックのことは耳に入ってない。
おれはわざとらしくため息をついてやる。
「…昨日帰ってきて、手洗えって母ちゃんに言われて洗面所行ってたでしょ。そのルートにない?」
「あ、そっか!玄関か洗面所かなー」
カイトはドタドタと走って、階段を下りていった。
「ドア閉めてってよ!」
返事は返ってこなかった。
いつもこの調子だ!
仕方なくドアを閉めようと立ち上がると、隣の部屋から着信音が聞こえた。
カイトの部屋のドアは開きっぱなし。
中を覗き込むと、机の上に置いてあったスマホがバイブと共に鳴っていた。
部屋に入って画面を見ると、通知に『セカル』と書いてあった。
…あの男の名前だ。
用件は分かってる。今日はコイツと初詣に行くらしい。
付き合ってない男の先輩と正月から会うって、どうしたらそんな流れになるんだよ?
…なんて思ってたら、カイトが階段を上ってくる足音がした。
マズい!
慌てて部屋を飛び出した。
廊下に出ると、カイトが階段を上ってきた。
「あ、手袋あったよー」
カイトは手袋を見せながら、笑顔で報告してきた。
「だから言ったでしょ。大体姉ちゃんがどっか置いて忘れてるんだから」
「すみませんでしたー」
カイトは唇を尖らせながら、自分の部屋に入ろうとする。
「…どっか出掛けんの?」
おれが聞くと、カイトが振り返った。
「え?まあ…そう、友達!友達と初詣に行くの!」
カイトが一瞬迷ってから言った。
へー友達。へー。
内心そう思いながら、「あっそう」と返しておいた。
カイトが家を出たのを見て、おれもコートを着て支度する。
「あら、クウトも出掛けるの?」
母ちゃんに尋ねられる。
「うん。御札ちょうだい。神社に納めてくる」
「ああ!そうね、お願いしようかしら」
御札を受け取り、コートのポケットに入れて家を出た。
歩いていける範囲に、そこそこな大きさの神社がある。
近くまで行くと、正月の参拝客で賑わっていた。
その人混みの中に、頭1つ抜けて青い髪の男を見つけた。
隣にカイトがいるのを確認する。
おれは木の陰に隠れた。
少し距離を取って、様子を伺う。
カイトが手袋をした手で、頬を押さえる仕草をする。
寒い~とでも言ってんのかな。
ああ、嬉しそうな顔しやがって…。
男は後ろ向きで、背中しか見えない。
どんな顔で話してんだ?
この距離だと会話も聞こえない。
もう少し近付きたい…。
「あの、お兄ちゃんのお友達ですか?」
突然、背後から声が掛かった。
驚いて振り向くと、ピンク髪のポニーテールの背の低い少女がおれを見ていた。
「え?」
「さっきから、お兄ちゃんのこと見てるから。声を掛けようとしてるのかなって思ったんですけど…」
少女は目をパチパチさせた後、
「もしかして、クウトくん?」
首を傾げて、おれの名前を口にした。
「なんで…?おれの名前を?」
ビックリしていると、少女は顔を綻ばせる。
「やっぱり!そんな気がしたの。私もね、あの二人のお邪魔になるんじゃないかなって思って、ちょっと声掛けづらかったんだよね」
少女はそう言いながら、おれの手を引いた。
えっ?
何が起こったのか考える暇もなく、木の陰から前に引っ張り出された。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おまたせ!」
少女が笑顔で声を掛けると、カイトとセカルがこちらを見た。
「クウト?何でこんな所に!?」
カイトの甲高い叫びが耳を突いた。
「私が学校のお友達を見つけたから、お話ししてる間、お兄ちゃん達に待っててもらってたの」
ピンク頭は聞いてもない説明をしてくれた。
何だ?何考えてんだコイツは?
ふわふわした雰囲気をまとって、ずっと微笑んでいる。
「クウト、あんたタキちゃんと知り合いなの?」
カイトが目を丸くして聞いてきた。
知るか。でも大体状況は掴めた。
「知らない。けどコイツはおれの名前知ってたから、どうせ姉ちゃんがおれのこと話してたんでしょ?」
「コラ!タキちゃんのことコイツ呼ばわりしないの!」
カイトが怒ってきた。セカルも眉を潜める。
「お姉ちゃん待って!クウトくんは悪くないよ。まだ自己紹介もしてないのに、私が連れ出しちゃったの」
タキと呼ばれた少女は、呼ばれ方を気にすることなくにこやかに微笑み掛けてきた。
「はじめまして。セカルお兄ちゃんの妹のタキです。6年生です。クウトくんのことは、カイトお姉ちゃんから聞いてました。仲良くしてくれると嬉しいな?」
…ふわふわした見た目に反して、かなりしっかりしてる。
「ほら、クウトも!返事!」
カイトがうるさい。
「…クウトです。このどうしようもない姉ちゃんのお世話してます」
「はあ?何言ってんの!?」
これまたカイトがうるさい。無視した。
「…聞いてた通りだな」
そこでようやくセカルが口を開いた。
初めておれと目が合った。
金の瞳。少し黒い肌。
ああ、顔は整ってる。面食いな姉ちゃんが惚れたわけだ。
「姉ちゃん、おれのこと何て説明してたの?」
セカルには声を掛けず、カイトに向き直った。
「生意気でうるさい弟がいるって」
「出来の悪い姉の面倒を甲斐甲斐しく見てる優しい弟、の間違いじゃない?」
「あんたねぇ~!?」
カイトが声を荒げると、セカルが制止した。
「こんな所で騒ぐな。この数分で、お前ら姉弟の関係性はよく分かった」
…分かった気になるな!
セカルを睨みつけたが、セカルはカイトを見ていておれの視線に気付かなかった。
「っていうかクウト、あんた何しに来たのよ?」
成り行きで4人で参拝の列に並んでいると、カイトが話しかけてきた。
「母ちゃんに御札納めてこいって言われたから」
ポケットから御札を出す。
もしも見つかった時のために、理由を話せるように持ってきたものだ。
「ふーん」
カイトは恐らく何とも思ってないような相槌を打つ。
…別に理由を用意する必要なかったな。
そんなことを思ってたら、隣のセカルが口を出してきた。
「カイトに頼めば良かったのにな?」
「あ!ホントだ。ママ、あたしに言えば持ってきたのに」
「…忘れてたんじゃない?」
おれが自主的に持ってきたとは言えないので、適当に返す。
この男、なんか突っかかるな…。
っていうかカイト呼びなのかよ。名字じゃなくて名前呼び捨て。
まあ、カイトちゃんとかカイトさんとか呼ばれるのも寒いけど、実際に呼び捨てされてるのを聞くと若干ムカつく。
この際だから、色々と話をさせて情報を引き出すか。
関係がどの程度進んでるのか、様子を見るチャンスだ。
「タキちゃん、さっきのお友達とは何話してたの?」
カイトがタキに話しかける。
「冬休みの宿題の話。日記があってね、何書くか聞いてたの」
「タキちゃんはどうするの?」
「私はね、クリスマスもお正月も、お姉ちゃんに遊んでもらえて嬉しいから、どっちを書こうか悩んでるの」
クリスマス?は、カイトがこの男に会ってたはずだ。妹にも会ってたのか。
…探りを入れてみるか。
「姉ちゃん、クリスマスは帰り遅かったよねー」
「え?そこまでじゃなかった気がするけど」
カイトがきょとんとする。
「ネックレスつけて、顔デレデレさせて嬉しそうに帰ってきてさー」
「そ、そんな顔してないし!」
カイトがムキになって否定してきた。
チラリとセカルを見る。
一瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。
くそっ、あんまり反応がないな。
お前がプレゼントしたんだろうが。
内心喜んでるんじゃないのか?
「クリスマスはね、お姉ちゃんがおうちに遊びに来てくれたの」
タキがご丁寧に解説してくれた。
家に行ってたのか。へぇ…。
「ふーん。何してたの?」
乗っかって聞いてみる。
「一緒にケーキを作ったの」
意外な答えに、思わずカイトを見る。
「姉ちゃんがケーキ作り?料理出来ないド不器用が?」
「ちょっとクウト!」
おれの煽りに簡単に乗ってきたカイトが抗議すると、セカルが噴き出した。
おっ反応した?
「セカルも何笑ってんのよ!」
「いや…ホント酷かったなって思い出して…」
セカルが口元を手で押さえる。
「あんたが無理矢理やらせたからでしょ!」
笑うセカルにカイトが怒って、言い合いを始めた。
…なんだ?
なに痴話喧嘩してんだよ?
置いてきぼりの空気を感じてたら、隣にいたタキがクスクスと笑い出した。
「お姉ちゃん達、仲良しさんだよね」
小声で話しかけられた。
「は?ケンカしてるだろ。どの辺が仲良く見えるんだよ」
つっけんどんに言ってやったが、おれの不機嫌な雰囲気を感じ取ってないのか、タキは普通に会話を続ける。
「ケンカするほど仲が良いって言うじゃない?」
「言わない」
「そう?」
タキは不思議そうにおれの顔を眺めていた。
このピンク頭、なんかズレてて調子狂うな。
参拝を終えると、カイトが指をさした。
「ねえ、あそこでお菓子配ってる!」
ガキみたいにはしゃぐんだよな。
本当に昔から変わらない。
「タキ、一緒に行っておいで」
「うん!お姉ちゃん、行こう?」
「オッケー!行ってきまーす」
セカルに促されて、カイトとタキが人だかりに向かって歩いていった。
その後ろ姿を眺めてたら、セカルから声が掛かった。
「行かなくていいのか?」
「おれはガキじゃないから」
「そうか」
セカルはおれの方を見ずに苦笑いした。
男2人で残されて、会話がなくなる。
この膠着状態も何だし、思い切って直接仕掛けてみるか。
「で、姉ちゃんのどこが好きなの?」
「え?」
セカルがぎょっとした顔をしておれを見た。
へぇ。間の抜けた顔もするんじゃん。油断してたな。
おれは畳み掛ける。
「あのどうしようもない姉ちゃんの、どこがいいのかって聞いてんの」
「は…?」
こんな質問をされるなんて、全く予想してなかったって顔だ。
セカルは口を開いて何か言いかけるが、言葉が出てこない。
…勝ったな。
ちょっと優越感に浸って、ため息をついてみせる。
「朝は起きてこない。遅刻しそうになって毎朝ダッシュ。夜はソファで寝て、早く風呂入れって何度も怒られる。宿題やってなくて泣き付く。物をよく無くす。勝手に人のお菓子を食べる。それから…」
どうしようもないカイトの話をしたら幻滅するだろと思って、思い付くまま挙げていたら、セカルが遮った。
「…なるほど。この弟にしてあの姉あり、か」
セカルは深々と呟いた。
セカルの顔を見ると、ちょっと笑ってた。
なんだその表情は?
「カイトは『今までどうやって生きてきたんだ?』って思う部分があったけど、クウトくんが面倒見てたんだね。納得した。キミの役割に、オレがちょうど合致したのか…」
…この口ぶり。
カイトの手の掛かり具合は分かってるような言い方だ。
おれの役割にセカルが合致した?
つまり、面倒を見てるおれとセカルが重なって、似てる…?ってこと?
…なんだろうけど、背筋がぞわっとした。
コイツにクウトくんって呼ばれるの、すげー気持ち悪い!
「弟だから仲良くしようとか、取り込もうとか考えてる?ご生憎さま。おれ馴れ合うの嫌だから。くん付けで呼ばれるのも気持ち悪い」
そう言い放つと、セカルは露骨に顔を歪めた。
「…お前さあ、さっきから失礼だよな」
セカルはムッとした表情をする。
お、いいぞ。その顔だ。
さっさと本性見せろよ?
「別に?仲良くしたいと思ってないだけだよ」
「流石に初対面で傍若無人すぎるだろ。カイトからの前情報がなければドン引いてるぞ」
「姉ちゃんから何聞かされてたの?」
「姉を姉とも思ってない、生意気で口の減らない弟がいる」
「そりゃーあれが姉なんて、恥ずかしくてたまったもんじゃないからね。毎日毎日バカなことやってて、文句言いたくもなるよ」
おれが肩をすくめると、セカルは冷めた目線を向けた。
「すごいな、このノリで毎日ケンカしてるのか」
「まあ口じゃおれの圧勝だけどね?」
「『ああ言えばこう言う』とは、よく文句聞かされてた」
「ボキャブラリー少ないからねー姉ちゃんは。何とでも言い負かせるよ」
「それで、その得意な口論でオレともやり合うつもりか?」
セカルとバチッと視線が合った。
コイツ、頭の回転が早い。
普通に頭は良いと見た。
優等生タイプかと思ったけど、案外口は悪いな。
そういう所はおれと似てる…?
…いやいや、気持ち悪いってば!
そもそも、何だってこの男は姉ちゃんに気があるんだ?
バカな女が可愛く見えるタイプ?
あ、そういえば、どうして好きなのかって質問ははぐらかされたな。
もう一回仕掛けてみるか…と思ったところに、
「ただいまー!」
能天気な声が響いた。
間が悪い。
「じゃあタキちゃんまたね!」
「お姉ちゃん、また遊ぼうね!」
帰路の途中で別れることになり、女子2人がキャッキャと笑って手を振る。
「セカルもまた学校で!」
「ハイハイ」
カイトに言われて、セカルは少し俯いて笑った。
…なーんか余裕なの気に入らないな。
コイツの中じゃ、もう彼女か何かなのか?
姉ちゃんも、この男が好きなの丸分かりなんだよなー。
「クウトくんもまたね?」
タキがニッコリとおれの方を見た。
コイツは最後まで何考えてるのかよく分かんなかったな。
「クウト!返事!」
…だからカイトがうるさい。
「ハイハイ。またねー」
振り向かず、歩きながらひらひらと手を振ってやった。
「もー、ホント失礼なんだから!」
カイトと帰りながら説教される。
「何が?」
「全部よ全部!タキちゃんにあんな態度取るなんて、もう会わせないからね!」
「別に会わなくていいけど」
「セカルの妹はあんなに可愛くて天使なのに~!あたしの弟は何でこんなのなの~…」
それはこっちの台詞だ。
あの妹のこと相当気に入ってるのか。
「あのタキって子のこと好きなの?」
「そりゃもちろん!あたしもあんな妹が欲しい~」
「あいつと結婚すりゃ妹になるんじゃない?」
突然カイトが立ち止まった。
2、3歩前に出て、おれも止まってカイトを見た。
カイトは両頬を押さえて赤くなっていた。
…分かりやす。
「そ…そういうのはまだ考えてないってば!」
「まだ?じゃあ将来的には考えるんだ?」
「そんなこと言ってないでしょ!」
「あれのどこがいいの?顔?」
「や…そういうんじゃないし!」
カイトはあたふたとする。
…分かってた反応だけど、なんかムカつくな。
「あいつ口悪いよ」
さらっとセカルを下げておく。
「それは知ってるわよ。いっつも文句ばっかり言われるし」
「ふーん。それなのに好きなんだ?」
「違うってば!セカルのことは…そんな…風には…」
段々と声が小さくなる。
カイトが下を向いた。
あー、これマジなやつだ。弄りづらいな。
「ハイハイ。じゃーセカルのことは何とも思ってない。何とも思ってない奴と一緒に初詣に行くっと。どんな関係なのかねー。あー友達だっけ?」
「どうだっていいでしょ!もー、なんであんたはそんなに突っ掛かってくんのよ!」
…面白くないからだよ。
何だってあんな男のこと好きなんだよ。
話してみた感じ、爽やかな先輩ってわけじゃなさそうだ。
どっちかっていうと陰があるような…なーんか嫌な感じがするんだよな。
姉ちゃんそういう嗅覚ないだろうから、おれが見ててやんないと。
あの男のことは、もうしばらく様子見だな。
「姉ちゃん弄るの楽しいからかなー」
「もー、ホント何なのよあんたは!ついてこないで!」
「帰り道が同じなんですー」
そんな風に言い合いながら、家に帰った。
姉ちゃんとの口喧嘩の年季なら、おれの方が上だ。
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クウトが初めてセカル・タキ兄妹と会う話。
この頃のクウトは無自覚シスコン。
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(セカル高2、カイト高1、クウト中2、タキ小6で1月。クウト視点。)
最近、姉ちゃんが男と一緒にいる。
面食いな姉ちゃんのことだから「カッコいいー!」とかで惚れて、ついて回ってるんだろうな。
で、その内姉ちゃんが距離感間違えて、相手に引かれて終わりー…になると思ってたんだけど…
案外続いてる。
たまに二人で出掛けてるっぽい。
男にもその気があると見た。
あの姉ちゃんだぞ?人の話を聞かずに突っ走る。そのくせ不器用で、人にお世話されなきゃ何も出来ない。一緒にいたら、振り回されること間違いなし。
…それがいいって、相当な物好きだぞ。
あー、そういえば、この間クリスマスに出掛けていって、上機嫌で帰ってきてた。
見たことないネックレスつけて。
あれは多分貰ったプレゼントだな。
本気で姉ちゃんと付き合う気か?
どうせ手に負えなくて、投げ出すに決まってる。
別に姉ちゃんが誰と付き合おうと知ったことじゃないけど、中途半端に手を出されて泣かされても困る。
家でうだうだ泣かれるのが面倒ってだけだ!
…姉ちゃんにふさわしい男かどうか、おれが見極めてやる。
正月の朝9時。
朝から隣の部屋がドタバタとうるさい。
「ねー!あたしの手袋どこにあるか知らない?」
いきなりおれの部屋のドアが開いて、カイトが顔を出す。
「なんでおれに聞くの?自分でどっか置いたんでしょ。あとノックして」
「ないのよ~昨日使ったはずなんだけど…」
カイトが眉をハの字にする。
ノックのことは耳に入ってない。
おれはわざとらしくため息をついてやる。
「…昨日帰ってきて、手洗えって母ちゃんに言われて洗面所行ってたでしょ。そのルートにない?」
「あ、そっか!玄関か洗面所かなー」
カイトはドタドタと走って、階段を下りていった。
「ドア閉めてってよ!」
返事は返ってこなかった。
いつもこの調子だ!
仕方なくドアを閉めようと立ち上がると、隣の部屋から着信音が聞こえた。
カイトの部屋のドアは開きっぱなし。
中を覗き込むと、机の上に置いてあったスマホがバイブと共に鳴っていた。
部屋に入って画面を見ると、通知に『セカル』と書いてあった。
…あの男の名前だ。
用件は分かってる。今日はコイツと初詣に行くらしい。
付き合ってない男の先輩と正月から会うって、どうしたらそんな流れになるんだよ?
…なんて思ってたら、カイトが階段を上ってくる足音がした。
マズい!
慌てて部屋を飛び出した。
廊下に出ると、カイトが階段を上ってきた。
「あ、手袋あったよー」
カイトは手袋を見せながら、笑顔で報告してきた。
「だから言ったでしょ。大体姉ちゃんがどっか置いて忘れてるんだから」
「すみませんでしたー」
カイトは唇を尖らせながら、自分の部屋に入ろうとする。
「…どっか出掛けんの?」
おれが聞くと、カイトが振り返った。
「え?まあ…そう、友達!友達と初詣に行くの!」
カイトが一瞬迷ってから言った。
へー友達。へー。
内心そう思いながら、「あっそう」と返しておいた。
カイトが家を出たのを見て、おれもコートを着て支度する。
「あら、クウトも出掛けるの?」
母ちゃんに尋ねられる。
「うん。御札ちょうだい。神社に納めてくる」
「ああ!そうね、お願いしようかしら」
御札を受け取り、コートのポケットに入れて家を出た。
歩いていける範囲に、そこそこな大きさの神社がある。
近くまで行くと、正月の参拝客で賑わっていた。
その人混みの中に、頭1つ抜けて青い髪の男を見つけた。
隣にカイトがいるのを確認する。
おれは木の陰に隠れた。
少し距離を取って、様子を伺う。
カイトが手袋をした手で、頬を押さえる仕草をする。
寒い~とでも言ってんのかな。
ああ、嬉しそうな顔しやがって…。
男は後ろ向きで、背中しか見えない。
どんな顔で話してんだ?
この距離だと会話も聞こえない。
もう少し近付きたい…。
「あの、お兄ちゃんのお友達ですか?」
突然、背後から声が掛かった。
驚いて振り向くと、ピンク髪のポニーテールの背の低い少女がおれを見ていた。
「え?」
「さっきから、お兄ちゃんのこと見てるから。声を掛けようとしてるのかなって思ったんですけど…」
少女は目をパチパチさせた後、
「もしかして、クウトくん?」
首を傾げて、おれの名前を口にした。
「なんで…?おれの名前を?」
ビックリしていると、少女は顔を綻ばせる。
「やっぱり!そんな気がしたの。私もね、あの二人のお邪魔になるんじゃないかなって思って、ちょっと声掛けづらかったんだよね」
少女はそう言いながら、おれの手を引いた。
えっ?
何が起こったのか考える暇もなく、木の陰から前に引っ張り出された。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おまたせ!」
少女が笑顔で声を掛けると、カイトとセカルがこちらを見た。
「クウト?何でこんな所に!?」
カイトの甲高い叫びが耳を突いた。
「私が学校のお友達を見つけたから、お話ししてる間、お兄ちゃん達に待っててもらってたの」
ピンク頭は聞いてもない説明をしてくれた。
何だ?何考えてんだコイツは?
ふわふわした雰囲気をまとって、ずっと微笑んでいる。
「クウト、あんたタキちゃんと知り合いなの?」
カイトが目を丸くして聞いてきた。
知るか。でも大体状況は掴めた。
「知らない。けどコイツはおれの名前知ってたから、どうせ姉ちゃんがおれのこと話してたんでしょ?」
「コラ!タキちゃんのことコイツ呼ばわりしないの!」
カイトが怒ってきた。セカルも眉を潜める。
「お姉ちゃん待って!クウトくんは悪くないよ。まだ自己紹介もしてないのに、私が連れ出しちゃったの」
タキと呼ばれた少女は、呼ばれ方を気にすることなくにこやかに微笑み掛けてきた。
「はじめまして。セカルお兄ちゃんの妹のタキです。6年生です。クウトくんのことは、カイトお姉ちゃんから聞いてました。仲良くしてくれると嬉しいな?」
…ふわふわした見た目に反して、かなりしっかりしてる。
「ほら、クウトも!返事!」
カイトがうるさい。
「…クウトです。このどうしようもない姉ちゃんのお世話してます」
「はあ?何言ってんの!?」
これまたカイトがうるさい。無視した。
「…聞いてた通りだな」
そこでようやくセカルが口を開いた。
初めておれと目が合った。
金の瞳。少し黒い肌。
ああ、顔は整ってる。面食いな姉ちゃんが惚れたわけだ。
「姉ちゃん、おれのこと何て説明してたの?」
セカルには声を掛けず、カイトに向き直った。
「生意気でうるさい弟がいるって」
「出来の悪い姉の面倒を甲斐甲斐しく見てる優しい弟、の間違いじゃない?」
「あんたねぇ~!?」
カイトが声を荒げると、セカルが制止した。
「こんな所で騒ぐな。この数分で、お前ら姉弟の関係性はよく分かった」
…分かった気になるな!
セカルを睨みつけたが、セカルはカイトを見ていておれの視線に気付かなかった。
「っていうかクウト、あんた何しに来たのよ?」
成り行きで4人で参拝の列に並んでいると、カイトが話しかけてきた。
「母ちゃんに御札納めてこいって言われたから」
ポケットから御札を出す。
もしも見つかった時のために、理由を話せるように持ってきたものだ。
「ふーん」
カイトは恐らく何とも思ってないような相槌を打つ。
…別に理由を用意する必要なかったな。
そんなことを思ってたら、隣のセカルが口を出してきた。
「カイトに頼めば良かったのにな?」
「あ!ホントだ。ママ、あたしに言えば持ってきたのに」
「…忘れてたんじゃない?」
おれが自主的に持ってきたとは言えないので、適当に返す。
この男、なんか突っかかるな…。
っていうかカイト呼びなのかよ。名字じゃなくて名前呼び捨て。
まあ、カイトちゃんとかカイトさんとか呼ばれるのも寒いけど、実際に呼び捨てされてるのを聞くと若干ムカつく。
この際だから、色々と話をさせて情報を引き出すか。
関係がどの程度進んでるのか、様子を見るチャンスだ。
「タキちゃん、さっきのお友達とは何話してたの?」
カイトがタキに話しかける。
「冬休みの宿題の話。日記があってね、何書くか聞いてたの」
「タキちゃんはどうするの?」
「私はね、クリスマスもお正月も、お姉ちゃんに遊んでもらえて嬉しいから、どっちを書こうか悩んでるの」
クリスマス?は、カイトがこの男に会ってたはずだ。妹にも会ってたのか。
…探りを入れてみるか。
「姉ちゃん、クリスマスは帰り遅かったよねー」
「え?そこまでじゃなかった気がするけど」
カイトがきょとんとする。
「ネックレスつけて、顔デレデレさせて嬉しそうに帰ってきてさー」
「そ、そんな顔してないし!」
カイトがムキになって否定してきた。
チラリとセカルを見る。
一瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。
くそっ、あんまり反応がないな。
お前がプレゼントしたんだろうが。
内心喜んでるんじゃないのか?
「クリスマスはね、お姉ちゃんがおうちに遊びに来てくれたの」
タキがご丁寧に解説してくれた。
家に行ってたのか。へぇ…。
「ふーん。何してたの?」
乗っかって聞いてみる。
「一緒にケーキを作ったの」
意外な答えに、思わずカイトを見る。
「姉ちゃんがケーキ作り?料理出来ないド不器用が?」
「ちょっとクウト!」
おれの煽りに簡単に乗ってきたカイトが抗議すると、セカルが噴き出した。
おっ反応した?
「セカルも何笑ってんのよ!」
「いや…ホント酷かったなって思い出して…」
セカルが口元を手で押さえる。
「あんたが無理矢理やらせたからでしょ!」
笑うセカルにカイトが怒って、言い合いを始めた。
…なんだ?
なに痴話喧嘩してんだよ?
置いてきぼりの空気を感じてたら、隣にいたタキがクスクスと笑い出した。
「お姉ちゃん達、仲良しさんだよね」
小声で話しかけられた。
「は?ケンカしてるだろ。どの辺が仲良く見えるんだよ」
つっけんどんに言ってやったが、おれの不機嫌な雰囲気を感じ取ってないのか、タキは普通に会話を続ける。
「ケンカするほど仲が良いって言うじゃない?」
「言わない」
「そう?」
タキは不思議そうにおれの顔を眺めていた。
このピンク頭、なんかズレてて調子狂うな。
参拝を終えると、カイトが指をさした。
「ねえ、あそこでお菓子配ってる!」
ガキみたいにはしゃぐんだよな。
本当に昔から変わらない。
「タキ、一緒に行っておいで」
「うん!お姉ちゃん、行こう?」
「オッケー!行ってきまーす」
セカルに促されて、カイトとタキが人だかりに向かって歩いていった。
その後ろ姿を眺めてたら、セカルから声が掛かった。
「行かなくていいのか?」
「おれはガキじゃないから」
「そうか」
セカルはおれの方を見ずに苦笑いした。
男2人で残されて、会話がなくなる。
この膠着状態も何だし、思い切って直接仕掛けてみるか。
「で、姉ちゃんのどこが好きなの?」
「え?」
セカルがぎょっとした顔をしておれを見た。
へぇ。間の抜けた顔もするんじゃん。油断してたな。
おれは畳み掛ける。
「あのどうしようもない姉ちゃんの、どこがいいのかって聞いてんの」
「は…?」
こんな質問をされるなんて、全く予想してなかったって顔だ。
セカルは口を開いて何か言いかけるが、言葉が出てこない。
…勝ったな。
ちょっと優越感に浸って、ため息をついてみせる。
「朝は起きてこない。遅刻しそうになって毎朝ダッシュ。夜はソファで寝て、早く風呂入れって何度も怒られる。宿題やってなくて泣き付く。物をよく無くす。勝手に人のお菓子を食べる。それから…」
どうしようもないカイトの話をしたら幻滅するだろと思って、思い付くまま挙げていたら、セカルが遮った。
「…なるほど。この弟にしてあの姉あり、か」
セカルは深々と呟いた。
セカルの顔を見ると、ちょっと笑ってた。
なんだその表情は?
「カイトは『今までどうやって生きてきたんだ?』って思う部分があったけど、クウトくんが面倒見てたんだね。納得した。キミの役割に、オレがちょうど合致したのか…」
…この口ぶり。
カイトの手の掛かり具合は分かってるような言い方だ。
おれの役割にセカルが合致した?
つまり、面倒を見てるおれとセカルが重なって、似てる…?ってこと?
…なんだろうけど、背筋がぞわっとした。
コイツにクウトくんって呼ばれるの、すげー気持ち悪い!
「弟だから仲良くしようとか、取り込もうとか考えてる?ご生憎さま。おれ馴れ合うの嫌だから。くん付けで呼ばれるのも気持ち悪い」
そう言い放つと、セカルは露骨に顔を歪めた。
「…お前さあ、さっきから失礼だよな」
セカルはムッとした表情をする。
お、いいぞ。その顔だ。
さっさと本性見せろよ?
「別に?仲良くしたいと思ってないだけだよ」
「流石に初対面で傍若無人すぎるだろ。カイトからの前情報がなければドン引いてるぞ」
「姉ちゃんから何聞かされてたの?」
「姉を姉とも思ってない、生意気で口の減らない弟がいる」
「そりゃーあれが姉なんて、恥ずかしくてたまったもんじゃないからね。毎日毎日バカなことやってて、文句言いたくもなるよ」
おれが肩をすくめると、セカルは冷めた目線を向けた。
「すごいな、このノリで毎日ケンカしてるのか」
「まあ口じゃおれの圧勝だけどね?」
「『ああ言えばこう言う』とは、よく文句聞かされてた」
「ボキャブラリー少ないからねー姉ちゃんは。何とでも言い負かせるよ」
「それで、その得意な口論でオレともやり合うつもりか?」
セカルとバチッと視線が合った。
コイツ、頭の回転が早い。
普通に頭は良いと見た。
優等生タイプかと思ったけど、案外口は悪いな。
そういう所はおれと似てる…?
…いやいや、気持ち悪いってば!
そもそも、何だってこの男は姉ちゃんに気があるんだ?
バカな女が可愛く見えるタイプ?
あ、そういえば、どうして好きなのかって質問ははぐらかされたな。
もう一回仕掛けてみるか…と思ったところに、
「ただいまー!」
能天気な声が響いた。
間が悪い。
「じゃあタキちゃんまたね!」
「お姉ちゃん、また遊ぼうね!」
帰路の途中で別れることになり、女子2人がキャッキャと笑って手を振る。
「セカルもまた学校で!」
「ハイハイ」
カイトに言われて、セカルは少し俯いて笑った。
…なーんか余裕なの気に入らないな。
コイツの中じゃ、もう彼女か何かなのか?
姉ちゃんも、この男が好きなの丸分かりなんだよなー。
「クウトくんもまたね?」
タキがニッコリとおれの方を見た。
コイツは最後まで何考えてるのかよく分かんなかったな。
「クウト!返事!」
…だからカイトがうるさい。
「ハイハイ。またねー」
振り向かず、歩きながらひらひらと手を振ってやった。
「もー、ホント失礼なんだから!」
カイトと帰りながら説教される。
「何が?」
「全部よ全部!タキちゃんにあんな態度取るなんて、もう会わせないからね!」
「別に会わなくていいけど」
「セカルの妹はあんなに可愛くて天使なのに~!あたしの弟は何でこんなのなの~…」
それはこっちの台詞だ。
あの妹のこと相当気に入ってるのか。
「あのタキって子のこと好きなの?」
「そりゃもちろん!あたしもあんな妹が欲しい~」
「あいつと結婚すりゃ妹になるんじゃない?」
突然カイトが立ち止まった。
2、3歩前に出て、おれも止まってカイトを見た。
カイトは両頬を押さえて赤くなっていた。
…分かりやす。
「そ…そういうのはまだ考えてないってば!」
「まだ?じゃあ将来的には考えるんだ?」
「そんなこと言ってないでしょ!」
「あれのどこがいいの?顔?」
「や…そういうんじゃないし!」
カイトはあたふたとする。
…分かってた反応だけど、なんかムカつくな。
「あいつ口悪いよ」
さらっとセカルを下げておく。
「それは知ってるわよ。いっつも文句ばっかり言われるし」
「ふーん。それなのに好きなんだ?」
「違うってば!セカルのことは…そんな…風には…」
段々と声が小さくなる。
カイトが下を向いた。
あー、これマジなやつだ。弄りづらいな。
「ハイハイ。じゃーセカルのことは何とも思ってない。何とも思ってない奴と一緒に初詣に行くっと。どんな関係なのかねー。あー友達だっけ?」
「どうだっていいでしょ!もー、なんであんたはそんなに突っ掛かってくんのよ!」
…面白くないからだよ。
何だってあんな男のこと好きなんだよ。
話してみた感じ、爽やかな先輩ってわけじゃなさそうだ。
どっちかっていうと陰があるような…なーんか嫌な感じがするんだよな。
姉ちゃんそういう嗅覚ないだろうから、おれが見ててやんないと。
あの男のことは、もうしばらく様子見だな。
「姉ちゃん弄るの楽しいからかなー」
「もー、ホント何なのよあんたは!ついてこないで!」
「帰り道が同じなんですー」
そんな風に言い合いながら、家に帰った。
姉ちゃんとの口喧嘩の年季なら、おれの方が上だ。
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