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道。 うちのこまとめページ

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落ちたのは

【2014.7.1】
器セカルと器カイトの話。甘々。
何でもない日常の中で、セカルが過去を語り始めます。

もうお互いに心は決まっていた、そんな頃。




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久々に旅から戻り、グレンの自宅で休息を取っていた。
ここに来て長くはないが、やはり旅先とは違う安心感がある。

夕食を片付け食器を洗っていると、背後から腰へと腕を回された。
顔の横にふわりと、セカルの黒髪がかかる。

ぐっと力を込められ、背中には硬い胸板が密着する感触。
肩に顎を乗せられ、「カイト~」と呼ばれるが、振り払うのも面倒だ。
手を止めずに作業を続ける。

私の反応に不満なのだろう、セカルは腹を撫で始めた。
全くこいつは…と思っていると、その手は上へと。
突然胸を乱暴に揉みしだいた。

流石に驚き、皿を落としそうになる。
慌てて流しに置き、水を止めた。

「何をする!」

「だってつまんねーんだもん」

そう不貞腐れる男に肘でも入れてやろうかと思ったが、勘づいたのかパッと体を離された。


こいつは旅先でも、いつでも所構わず私を求める。
留まるところを知らないこいつの欲望に飲まれ、強引に体と…心も捕らえられる。

何を考えているのか分からないヘラヘラ笑い。
かと思うと、たまに真剣になる顔にドキッとさせられる。
でもそれはわざと作った表情で、期待を裏切られて突き落とされたり。
ずる賢く、何もないように見えて、計算尽くの行動。

そして私を嘲笑い弄ぶ。
本当にタチが悪いとしか言い様がない。

「…本当に、どう育ったらお前のような人格になるんだ」

「あ?いい性格してんだろ」

私の問いかけにもやはりヘラヘラと笑い、次はどうしてやろうかと言わんばかりにこちらをじろじろと見ている。


「全く…親の顔が見てみたいものだ」
「いねえよ」

間髪入れずに答えられ、ふと思い当たった。

「そういえば、孤児院育ちだったか」

一度だけ聞いたことがあった。
故郷はどこだと尋ねたら、レーンの孤児院だと答えられ、会話が止んだのでそれ以上は聞かなかった。
踏み込まれたくない過去なら、誰にだってある。かく言う私も。


すまなかったと言おうと口を開きかけると、先にセカルがぼそぼそと話し出した。

「あー、まあ居るっちゃあ居るけど」

ゆっくりとした瞬き。長い睫に目がいく。男にしては小綺麗な顔立ち。
私が目を奪われているのに気付いたのか、ニヤリと笑われた。
だが、その表情は、

「売られたの、俺」



笑っては、いるのだ。

いつものニヤニヤ笑いのはずなのに、どこか物悲しく、憂いを帯びているように見えた。





「まあ所謂シングルマザーでさ、どこの男とデキたのかも知らねえけど。
そりゃ貧乏だし、稼ぎに行ってんのか、ろくに家にもいなくて。育児放棄ってやつ?」

セカルは床に腰掛け、ベッドにもたれて語り出した。
ぽんぽんと床を叩かれたので、私も困惑しながら隣に座る。

「毎日腹空かせて、怯えて過ごしてた。
んで8歳の時に、どこぞの金持ちに売られたの」

私が口を挟む余裕もなく、淡々と話される。
普段通りの口調から出てくるその内容は、驚愕で。

「俺って見た通り美男子だし?
小さい頃はそりゃ可愛かったよなー、女みたいにさ」

嘲笑を浮かべるのはよく見る。
だがその嘲笑の対象がセカル自身…自虐だったことが、今までにあっただろうか。


「世の中物好きもいるからさあ。そういう少年好きとかもいるんだよなー。
ま、ご主人サマの欲のままに使われたってこった」

私は随分と強張った顔をしていただろう。
セカルはそれを見て、私の頭に手を置いた。
まるで子供を落ち着かせるかのように。

「叱られるから、嫌でも相手を気持ち良くさせる方法とか身についてさ。あーやだやだ。
で、14歳の時に、旅の神父だって人に助けられて。レーンの孤児院に入れられた」

そこまで話して、一呼吸置いた。
お互いに目を合わせると、セカルは笑った。
ごめんな、という声が聞こえてくる気がした、優しい笑みだった。



「2、3年静かに暮らしてたけど、やっぱ俺には合わなかった。
んで度々街に出てた。生きる方法は結局変わらず、体使うことだったけどな。

男は勘弁だからなー、お姉さん方狙いで上手くやったもんだ。
色んな奴がいるから、攻めたり優しくしたり、そいつに合った方法見つけるのが上手くなったり。
まーたここで無駄に色々と覚えちまった」

笑いながら、あーあ、とため息をつく。

「もう少し成長したら、逆に女買ってやったりもしたな。
どうせ、俺みたいにろくな人生じゃねーだろうから。
似てるんだろうな…とか、重ねちまって」

そこで少し口ごもった。
セカルが多くの女性と関係を持っていたのは、今に知ったことではない。
最近は、私以外に手を出さないのも分かっている。
それでも後ろめたさがあるのだろう。


セカルは私から目を逸らし、前を向いた。

「ま、この壮絶な人生のおかげで、立ち回り上手の色男ができましたとさ」

めでたしめでたし。とまた笑った。
いつも通りのこいつの横顔。
長い前髪がかかり、目が少し隠れた。

どうして、そんな風に笑っていられるのだろう。
そんな過去があって、それを私に話して。

尚も笑い続けるお前の心境は今、どうなって…


「……泣くなよ」


そう言われて驚いた。
撫でられた私の頬は濡れていた。
声もなく、また一筋の涙が流れる。

「あーあ、話したら俺、辛くなって泣くのかなーと思ったけどさ。
お前が泣いてるから、泣けねえじゃねーか」

ったくよーと言いながら、頬に口を寄せられた。
涙を拭うように舐め取られる。

「ごめんな。泣いてくれて、サンキュ」

両頬に手を添えて口づけられ、その表情は見えなかった。





「言っとくけど、同情なんかすんなよ。そういうの嫌いだから」

しばらく触れるだけのキスを繰り返された。
私が落ち着いてきたのを見ると、セカルはそう切り出した。

「……分かっている、お前はそういう奴だ。
過去がどうあろうと…セカルはセカルだ」

久々に出した声は少し掠れた。
けほっと咳をすると、背中を撫でられた。

「おう、物分かりが良くてよろしい。
お前で、良かった」

「わたし、で…?」

聞き返すと、若干照れたような顔をされる。
あまり見たことがない、珍しい顔。

少し目を泳がせたが、すぐに私の目をじっと見詰めてきた。
真剣な色が映る、金の瞳。


「お前に会えて良かった、お前がいてくれて良かった」

セカルはそこで言葉を切った。
ふう、と息を吐き、私に笑いかけた。


「お前を好きになって良かった」


そう言われて、また、私の目は涙で溢れた。






「恋愛なんて面倒だし、絶対真剣にするもんじゃねーと思ったけどな。
ほーんと、見事にハマっちまって」

ぎゅうっと固く抱き締められて、包まれるのが心地良い。
耳元で聞こえる、いつも通りのふざけた口調。

それがとても愛おしい。
顔を擦りつけるように、セカルの首元に埋める。


「落ちたのは、どっちなんだろうな」

「……どちらも、だろう」

私が小さく呟くと、セカルは笑った。

「違いねぇ」


頭を上げて至近距離で見つめ合うと、どちらともなく唇を重ねた。



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