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道。 うちのこまとめページ

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文化祭

【2020.7.26】


この写真を撮ったら、「あ…これで話書こう」と、さらっと浮かびました。
高校学パロで文化祭の話です。

カイト高校2年、セカル高校3年で、付き合ってません。
大事なことなのでもう一度…付き合ってません。

付き合ってない両片想いケンカップル、その末期くらいの話。


セカル視点です。
男子の葛藤。






----------

「は?オレらが何だって?」

「だーかーらー、手芸部の衣装を一緒に着るの!」

季節は10月の中頃。11月の文化祭に向けて、校内が慌ただしくなってきた頃だった。
昼休みに廊下を歩いていると、「あー見つけた!」という大声と共に、カイトが目の前に走ってきた。

こいつとは学年が違う。
何やかんやで腐れ縁のようになり、話をすることも多いが…違う学年の男女が話すのは目立つ。
それなのに、人目も気にせずこんな風に呼び止めやがって。
ああもう、周りの視線が痛い。オレは気付かない振りをする。

そして、カイトはというと、当然のように周囲の目に気付いてない。
オレを見つけた喜びからか、すぐにこんな話を始められて…今に至るのだった。
これは…いつも通り突拍子もない行動をするカイトに、振り回される流れだ。




「手芸部の友達がね、文化祭で衣装の写真集を作るんだって。色んな衣装を作ってて、その中に男女ペアの衣装があるらしいんだけど、それを着てくれる人が見つからないんだってさ」

「…それでオレとお前がやるのか?何だってそんなことに付き合わなきゃならねぇんだよ」

「男女で写真を撮ったら、カップルだとか噂が立つじゃない?それで誰もやりたがらないんだって。だからあたしに泣き付かれて…」

…いや、待て待て。

「その論理でいくと、お前さあ…」

「なに?」

きょとん、という効果音が顔に書いてあるようだ。
本当に何も思い当たってないらしい。
その論理でいくと、オレとお前も噂が立つことになるだろうが!

…という言葉は、無自覚なカイトに変な意識をさせるだけだから飲み込んだ。
まあ…オレとこいつの噂なら、もうとっくに立ってるだろうしな…。


「何でもねぇよ。どうせ、その友達の力になりたいとかで、もう引き受けてんだろ?」

「そう!その通り!さっすがセカル、話が早い!」

「お前の考えてることは大体分かるっての。協力はしてやる。だけどな、先にオレの許可を取れ!」

想定通り元気な返事をしたカイトに、勢いよくツッコんだ。
人が困っていれば全力で向き合う。それはこいつの良いところだ。

だけど、決まって振り回されるのはオレなわけで…。
どうもオレの扱いは雑というか。こちらの都合はおかまいなしだ。

オレもオレで、こんなノリで1年半振り回され続けた結果、すっかり慣れちまった。
カイトは裏表のない奴だから、手伝ってやればすぐ笑顔になるし、心から喜んでるのが分かる。
それがまた良…待て待て。

…オレもだいぶほだされてるな。


その後、多少ぎゃーぎゃーと言い合いはしたが…
かくしてオレとカイトで、撮影に臨むことになったのだった。




***

カイトから話を聞いて数日後、手芸部に呼ばれて衣装を調整してもらった。

おおよそ出来上がっていた衣装は、一見するとスーツのようだった。
ジャケット、シャツ、ネクタイ、7分丈のズボン。全てが黒色ベースだ。
ジャケットの縁やボタンは金色。
よく見るとジャケットとネクタイに柄が入っていて、角度によって煌びやかに見える洒落た作りだった。

オレが黒色、カイトが白色を着ると聞かされた。
衣装の調整はカイトと違う日だったため、白の衣装を見る機会はなかった。




***

10月下旬。衣装が出来たとのことで、撮影をする日が決まった。

当日の放課後になり、用意された衣装に着替えた。
撮影場所は、雰囲気がいいからと校長室を押さえたらしい。


校長室の扉を開けると、

「セカルおっそーい!」

と、いつも通り調子のいい声が響いた。


部屋の中に居たのは、カイト一人だけだった。
オレの黒の衣装の対になるように、白の衣装を着て立っていた。
色違いで、デザインはほとんど同じだが…

「…スカート」

思わず呟いてしまった。カイトの衣装はスカートだった。
オレの衣装の色違いだと思っていたから、スカートだとは思ってなかった。
そうか…だから男女ペアの衣装なのか…。

「そう!可愛いでしょ?」

「え?あー…そうだな…」

オレは歯切れの悪い相槌を打って、視線を逸らした。
カイトは衣装に夢中なようで、オレの様子に気付かず、機嫌良くニコニコしていた。

スカートだからといって問題があるわけではない…が。
如何せん、丈が短かった。
それはもう、オレにとっては凶悪なほどに。

カイトは性格上、制服のスカートを短く折って、私服もミニスカやホットパンツを穿くような奴だ。
活発に動き回るから、短い方が動きやすいとか涼しいとか理由は分かるが…
惜しげもなく晒される白い肌のふとももは、目に毒だった。

本当に。オレの気も知らずに。



頭を抱えたくなったが、手芸部員が部屋に入ってきたので、そのまま撮影に入ることになった。

お前さあ、そのスカート丈で写真撮られるんだぞ?人に見られるんだぞ?
少しは…気にしてくれよ…。



キャッキャとはしゃぐカイトを制しながら、色々なポーズを取らされ、何枚も写真を撮られた。
何とか無難にこなすと、「ちょっとパソコンで写真見てきますね」と手芸部員が部屋から出て行った。
残されたのはオレとカイトの二人。

「いやー!いい仕事しましたなあ!」

そう言って、能天気にカイトが伸びをする。
やめろ、へそが出る。見える。見えてんだよ!

「ほんとお前…」

「んー?何か言った?」

カイトは首を傾げながら近づいてきた。
だー…もう、待ってくれ。その恰好で寄るな。
こいつに察しろというのは無理な話だ。

「だから!スカート短いんだからあんまり動くな!」

オレがたまらず大声を出すと、カイトは一瞬驚いたが…顔がニヤーっと歪んだ。
あ、これ何か思い付いた顔だ。嫌な予感しかしない。


「ほほう…セカル先パイ、あたしのスカート見てたんですかぁ?」

わざとらしく先輩呼びで煽ってくる。
おちょくってくる時の言い方だ。ホントにこいつは!

「あのなあ…」

「そんなに気になるかな?」

カイトはひょいとスカートの端をつまんだ。
白いふとももが覗いて、かなり際どい。

「やめろバカ!」

「あはは!」

カイトは大笑いして、スカートを手から離した。


「セカルいっつも気にするよねぇ」

「お前が気にしなさすぎなんだよ!このガキめ」

笑っていたカイトが、オレの言葉を聞いて急に顔をしかめた。

「ガキじゃないんですけど?」

「ガキだろ。未だに中学生か、小学生くらいの知能しかないガキんちょ」

「高校生ですー!れっきとした女子高生ですー!」

「どの辺がだよ!」

「じゃあ見せてあげる」

カイトは怒った顔のまま、ずんずんとオレに向かって歩いてきた。


「は?オイ、何だよ…」

オレは後退る格好になり、じりじりと下がっていきテーブルに当たった。
そこへカイトがオレの体を押したので、テーブルに半分倒れ込み、尻と右手をついた。
あろうことか、カイトはオレの左足に乗ってきて、オレの胸に手をついた。



「は…?はあ?!!」

マズい。この体勢は非常にマズい!
ってか何だこの状況は!

目の前にはカイトの顔が迫っていて、顔に息がかかる距離。
カイトはジトーっとした目つきでこちらを見ていた。

「子供じゃないもん。大人だもん」

ダメだ、拗ねてる。だからガキなんだよ!
って今言ったら火に油だ。あーもう!

「分かった、分かったから降りろ!こんなところ、人に見られたりしたら…」

こんな状況で言い逃れできるわけがねぇ!
どんな噂が立つか…考えただけで恐ろしい。

つーか、今人が入ってきたら、こいつのスカートの中…絶対見える。
オレの目線からでも、尻の曲線が見え…ダメだ。考えたらダメだ。
…え?このバカ、スパッツ穿いてない?いやいやいや、考えるなって!
とにかく早くこいつを降ろさないと!


あれこれ考えを巡らせていると、カイトが口を開いた。

「セカルさあ、この衣装似合ってるよね。カッコよく見える」

「な…何だよいきなり」

「セカルと一緒の衣装着られて、良かったなーって思ったのよね。この衣装、大人っぽく見えるし。この格好で並んだら、ちょっとは釣り合って見えるかなって思ったの」

こいつは何を話し始めたんだ?
オレが疑問符を浮かべていると、カイトはいたずらっぽく笑った。

「あたしのこと、いつも子供っぽいって言うけどさあ。あたしだってちゃんと大人なんだからね。大人なこと、してみる?」

「は…?」

オレはもう返事らしい返事が出来なかった。
カイトは目を瞑った。
え?

「ほら、セカルも目瞑ってよ」

え?
これは、そういう…流れ…?
いや、そんな…待てって…。


カイトの唇が迫ってくる。
頭の中がごちゃごちゃで、何も考えられない。
もう知るか!

オレは覚悟を決めて目を瞑った。






数秒後にやってきた感触は…


額への激痛だった。




「いってぇ!!!」

オレは後ろに倒れ込んだ。ついでにテーブルに後頭部をぶつけた。
二重でいってぇ!!!

「あっはっははは!!!」

オレから離れたカイトは、盛大な笑い声を上げていた。


つまり…頭突きされた。それはもう勢いよく。
この野郎!騙しやがった!!

こんな子供じみた騙され方に乗るとは…。
自己嫌悪しつつ、ヒリヒリする額を押さえた。
しばらくからかいのネタにされるだろうし、最っっ悪だ。


「いやー、ほんとに目ぇ瞑るんだもん!先パイどうしたのー?期待しちゃったー?」

「黙れマジで黙れ」

テーブルに倒れ込んだままでも、ひいひいと笑うカイトの声が耳に響く。
ほんとにこの女…。

……見てろよ。



オレは起き上がって、笑っているカイトの手首を掴んだ。

「え?ちょっと、何よ」

オレは返事をせず、カイトの体を押して壁に追いやった。

「へ…?あの、セカルくん?」

オレの険しい目つきに、流石のカイトも表情がこわばった。
両手首を掴んで、壁に押し当てる。
身長差もあって、カイトの体はすっぽりとオレの腕の中に収まった。
顔は先ほどと同じように、息がかかる距離。

「ちょっと…何する気よ…?」

「さっきの続き」

「え?」

カイトは呆けた顔でオレを見る。

「だから目ぇ瞑れ」

「そんな、嘘でしょ?だって…」

「開けたままするぞ?」

「や!」


唇を近づけると、カイトがぎゅっと目を瞑った。
そして、そのカイトの顔を見て、オレは…


お返しの頭突きをした。




「いったぁああい!!!」

「ド阿呆!何でさっきの続きでキスすると思ってんだよ!仕返しに決まってんだろうが!」

「こんのおお、バカ!あんただって子供じゃない!」

「お前の知能レベルに合わせただけですー」

「あ・ん・た、ねええ!!!」



そんなこんなで勢いよく罵り合いをしていたところに、手芸部員が戻ってきたので一時休戦となった。
大声で子供みたいなケンカをしていたので、驚かれて心配され…だいぶ恥ずかしかった。


それはそうと。
あいつ、一体どこからが演技だったんだよ…。

カイトの台詞を思い返す。
オレがカッコいい?釣り合って見えたい?
どこまでが本心だったのかと、しばらく悩むことになった。




***

後日、衣装のお礼に写真を渡してもらった。
カイトとのツーショット。
なかなかいい写真じゃないか?
…カイトのスカートは短いけど。

手芸部に聞いたところ、写真集は展示のみ。配布はない。
実物の衣装は当日に教室展示され、一部の衣装でファッションショーもするそうだ。

オレらは当日に呼ばれてないから、衣装を着ることはない。
そして、この写真も展示だけだから、一般には渡らない。
写真を手元に持つのは、オレとカイトだけだ。

それなら、まあ…いいよな。
写真を眺めると、カイトの笑顔が眩しい。

黙ってりゃ可愛いんだよ。
…なんて、口が裂けても言えないが。



高校最後の文化祭、いい思い出にはなったかな。

あ。あいつ、止めとかないと、絶対にこの写真見せびらかす。
どうせ面倒なことになる。また色んな奴に茶化されることになって…

…まあ、そろそろ認めてもいいかもしれねーけど。
あいつにどうやって切り出せばいいのやら。
なんかもうずっとこんな接し方だから、今更付き合うって柄じゃないんだよな…。


って、そんなこと言ってられねぇか。
卒業までには、ケリつけないとな。

そう考えて、もう一度写真を見てから鞄にしまった。










~あとがき~
中学生の恋愛してんだよなこいつら。


~追記~
後日談を書きました。
カイト大学1年、セカル大学2年にそれぞれ進学進級する直前の3月。

カイトの進学に合わせて同棲することになり、引っ越しの荷解きをしている時の話。
セカルの高校卒業式で告白して付き合い始めたので、1周年くらいの頃です。

いきなり同棲が決定してるのは、セカルの手回しの早さ故です。

----------

「あー、これ懐かしい!」

ダンボールから荷物を取り出している最中に、カイトが明るい声で叫んだ。

大きな荷物の片付けが済み、手伝いに来ていたお互いの家族が帰った夜のことだった。
オレがダンボールから小物を出していると、その内の1つにカイトが反応して手に取った。

オレが高3の時に文化祭で撮った、手芸部の衣装を着たカイトとのツーショットの写真立てだった。

「これ持って来たんだ?」

「あー、一人暮らしの時はたまに友達が来てたから、茶化されるのが面倒で飾ってなかったんだよ。実家に置いてあったから、今回持ってきた」

「ふーん」

カイトは写真を見ながらニコニコしていた。

「お前も持ってただろ?」

「ウチにもあるけどさあ、写真が日に焼けるのが心配で飾ってなかったんだよねぇ」

「データあるぞ?だから新しく現像出来るけど…」

「ウソ?!何で持ってるの?」

カイトが驚きながらオレに迫ってきたので、少しひるんだ。

「手芸部に言って貰った」

「あんた…ちゃっかりしてるわよね…。だって、あの頃付き合ってなかったでしょ?」

「どうせ噂になるのは確定だったんだし。折角だから貰っといた」

「噂になってたのって、あんたの行動も原因だったと思う…」

カイトが呆れたような顔でこちらを見てきた。

「あー…あの頃くらいからか。噂になるのはもう腹括って、牽制のためにやってたな」

「けんせい?」

「お前が他の男から声掛けられないようにアピールしてた」

カイトはきょとんとした表情から、みるみる内に眉を釣り上げていった。

「…あんたさあ、そういうことする前に告白してくれたら、高校で恋人生活送れたのに!」

「高校在学中は嫌だったんだって!もうほとんど付き合ってるみたいな関係だったから、そこからいざ恋人になりましたーなんて、絶対に周りにあれこれ言われる…。ああ、あいつらがニヤニヤ冷やかしてくる顔が浮かぶ…!」

オレが頭を抱えていると、カイトが冷めた目でため息をついた。

「それで半年も告白伸ばされたカノジョの気持ちを考えて、一言お願いします」

「すみませんでした」

頭を下げたら、ぺしぺし叩かれた。




「この写真撮影の時は、お前とんでもないことしてくれたよな。オレの体に乗ってきやがって」

「あーあれ?まあちょっと意地張ってたわね…」

「あれは本当に削られた。分かるか、好きな女に密着されて迫られる男の気持ち…手出ししなかった理性…。一言どうぞ」

「すみませんでした」

カイトも頭を下げたので、ぺしぺし叩いておいた。



「あの時さあ、その…キスする気でいたのよね」

「は?あれ本気だったのか?」

「うん…でもその、いざとなったら恥ずかしくなっちゃって。しかもさあ、付き合ってないのに、流石にヤバいでしょ!あ、あたし達のあの頃の関係じゃあ、冗談でしたじゃ済まないだろうし…」

「それで照れ隠しに頭突きなんかしたのか」

「ゴメン…」

「そこでキスされてたら、その場で告白してたかもな」

「あ、コラ!さっきの話の告白が伸びた責任、あたしになすり付けようとしてるでしょ!」

「冗談です」

カイトは、むぅっと頬を膨らませた。

「あの後さあ、セカルだって壁ドンしたじゃない?あれだってどうする気だったのよ?」

「あれか…。まあ…半分くらいキスする気だった」

「あんたも同じじゃない!」

「いや出来るわけねぇだろ!目ぇ瞑ったお前の顔見たら、マジで行きそうになったけど!あそこでキスしてたら、やっぱり関係性変わってたよな…」

「ま、お互い様ってことで」

「だな。さて、じゃあもう子供じゃないし、大人なことするか?」

「言い方」

「あの時お前が言ったんだろうが」

「そうでした」

ふふ、とカイトが笑ったので、その唇に触れるだけのキスを落とした。

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