恋の病
【2022.2.6】
セカル高3、カイト高2で4月。セカルが好意を自覚して、わりとどうしようもなくなってる頃。
付き合ってない。両片想いのつかず離れずの距離感。
--------------------------------
(セカル視点)
恋の病とはよく言ったものだ。
今のオレは病気だと思う。
あいつの周りはキラキラ輝いて見える。
ずっと隣で笑っていてほしい。
あの笑顔を、オレだけに向けてほしい。
あいつは社交的で、誰とでも仲良くなるタイプだとは分かっている。
それでも、他の男と話すあいつを見ると心がざわつく。
…独り占めしたい。
これが『恋』か。
無縁だと思っていただけに、笑ってしまう。
この感情を自覚した途端に、見える景色が一変した。
「あー!セカル!」
廊下でよく知った声が響いて驚いた。
…目立つからやめろ。
そんな思いはこいつには通じない。
振り向くと、1学年下のカイトが駆け寄ってきた。
「何だよ?」
「あたし、2年5組になりました!」
「文系だな」
組の数字によって、文系クラスと理系クラスが分かれている。
5組から後ろは文系クラスだ。
「うん。だって数学出来ないもん!」
「元気に言わんでよろしい」
カラカラと笑うカイトに、ピシャリとツッコんだ。
「セカルは?何組?」
「3年2組」
「理系だ…」
目を丸くするカイト。
コロコロと表情が変わる。
「今更知ったのか?」
「だってセカル、言ってくれたことないじゃない」
「必要ないからな」
「必要あるでしょ!数学はセカルに聞けばいいってことね!」
「数学に限らず、お前は全部聞きに来るだろうが」
いつも通りだ。
いつも通りに会話出来てる。
たまたま会えたのが内心嬉しかったのか、こんな取り留めのない会話をしている間でも、カイトの顔はキラキラして見えた。
頬に手を伸ばしたくなる衝動は、グッと堪えた。
「それじゃ、またね」
「ああ…なあカイト」
会話が終わってカイトが去りそうになった時に、つい呼び止めてしまった。
「なに?」
きょとんとした顔が可愛くて、一瞬見とれてしまう。
黙っていると、カイトが首を傾げて聞き返した。
「どうしたの?」
オレは何とか思い付いた言葉を発する。
「いや…今日も部活あるよな?」
「うん」
「一緒に帰るか?」
カイトの顔がパアッと明るくなった。
「うん!」
正真正銘、オレにだけ向けられた笑顔。
今は独り占め出来てる。
「部活終わったら連絡するねー」
「分かった」
「バイバーイ」
カイトは呑気に手を振って去っていった。
オレは3年になった。あいつは2年。
どうあっても越えられない学年の壁。
あと1年で、必ず別れがやってくる。
あと1年…か。
お互いの部活が終わり、武道場の裏で落ち合って、座って少し会話する。
人が捌けるまでやり過ごすためだ。
カイトは恐らく、そんなこと意識してないだろうが。
「新入生歓迎会の部活紹介でね、ステージに立つことになったの!」
新入生歓迎会は、毎年4月に体育館で全校生徒を集めて行うものだ。
部活ごとにステージに上がり、部員募集のアピールをする。
カイトは剣道部。
背は低いが、ちょこまかと技を繰り出して相手の懐に飛び込む、切り込み隊長。
何度か大会で戦う姿を見ている。
「何すんだ?」
「他の人達が対戦するから、あたし達は面以外の防具をつけて、周りで盛り上げる役かなー」
内心嫌だった。
カイトの顔を、舞台の上で全校生徒に晒すことになる。
もし1年生がカイトの姿に心奪われたらどうする?
中身は阿呆な奴だけど、見た目は可愛い。
カイト目当てで入部する奴もいるかもしれない。
…と考えていたら、突然カイトが大きな声を出した。
「あー!あたしの顔を全校生徒に見せるなって言いたいんでしょ!」
「は?!」
ズバリと言い当てられて、心臓が止まるかと思った。
しかし、次に飛んできた言葉は、
「どうせ可愛くないですよーだ」
カイトはプンプンと怒ってみせるような仕草をした。
「へ…?」
それすら可愛いと思うから、恋の病は恐ろしい…じゃなくて。
可愛くないってどういうことだ?
…あ。
オレが照れ隠しで可愛くないって言ってるのを、本気にしてるのか!
これは普段のオレが悪い…けど、ここで否定したら、可愛いって肯定することになる。
それは出来ない…。
オレは詰まりながら、何とか言葉を繋ぐ。
「可愛くないって…まあ、その怒ってる顔は可愛くないな」
「またそういうこと言う!」
「んな顔でも、好きになる物好きはいるんじゃねーか?」
言ってて恥ずかしい。
自分のことだ。
カイトの顔を見ることが出来ず、目線を逸らした。
「そんな物好きに会ってみたいですなー」
「…生きてりゃその内会えるんじゃね」
適当な相槌を返す。
「おばあちゃんになるまで、会えなかったらどうしよう…」
深刻そうな声色で話すのが面白くて、ついカイトの顔を見てしまった。
カイトは下を向いていて、オレに見られていることに気付かない。
ちょっと茶化したくなる。
「その時は…」
そう言いかけて、ハッとして言葉を切った。
また顔を背けた。
ヤバい。
「オレが貰ってやる」って言うところだった。
いつもの冗談のノリだとしても、その台詞は流石に流せねぇだろ…。
「その時は?」
聞き返すカイトに、しどろもどろになりながら返事をする。
「その時は…オレも独りかもな…?」
「その時までセカルも結婚してないの?」
「そんな気がする…」
「ふーん」
隣に物好きがいるって気付いて貰えないと、オレも独りなんですけど?
こいつは脈があるように見えて、たまに全然分かってない時がある。
「セカル、モテるのになー」
カイトが両手で頬杖をつきながら、不意に呟いた。
「は?」
「結構女子に人気あるよ?はー、見た目は良くても、中身はこんな奴なのにさー。みーんな騙されてるのよ!」
「…ちょっと待て。ひとつずつ詳しく聞かせろ」
「何が?」
カイトの言葉を制して、ひとつずつ確認する。
「えっと、まず女子に人気って?」
「うん。キャーキャー言われてるよ」
は?いやいや、何だよそれ…。
「オレは聞いたことないぞ…」
「みんな遠くから見てる気がする」
距離を置かれてるってことか?それはそれでショックだが…。
「オレってそんなに近寄りにくいか…?」
「うーん…多分、みんな遠慮してるんだと思う」
カイトが少し言いづらそうに答える。
「遠慮?何に対して?」
カイトはジトっとした目でオレを見ると、そっぽを向いた。
「自分で考えなさいよ、バカ」
え?
オレ、何か怒られるようなことしたか…?
納得いってないけど、これ以上深掘りすると怒られそうなのでふたつ目を聞く。
「『見た目は良くても、中身はこんな奴』って何だよ」
「うわ、記憶力いい」
カイトが嫌そうな顔をする。
構わず尋ねる。
「見た目は良い、ってお前の主観?」
こいつの慌てた顔でも引き出そうかと思ったが、
「客観的な感想かなー」
カイトにしては珍しく誤魔化してきた。
「何だよそれ」
少し面白くない。
「顔はいいと思うのよ?背もスラっと高いし、楽器弾く姿はサマになってるのよね」
さらっと褒められてむず痒い。
っていうか…
「やっぱりそれ主観だろ?」
「友達とかがそう言ってんの!」
ちょっとムキになって否定された。
「確かに優しい所もあるわよ。でもさあ、あたしにはグチグチ文句言うし、細かいことうるさいし。そういう一面、他の女子は知らないのよ?それなのにキャーキャー言われちゃってさ。ほーんと騙されてる」
いや…色々と言われたけど、ちょっと待てよ。
「それはお前が、文句言いたくなるような行動するからじゃね?」
「具体的にどんな?」
…聞いてきたな?
オレは早口でまくし立てる。
「宿題忘れて泣きついてきたり」
「それはすみません」
「人の顔面にボールぶつけたり」
「それ謝ったし。セカルの反射神経が悪い」
「動きが野生動物のお前とは違うんだよ。あと、遠くから大声でオレのこと呼んだり」
「それはセカルが気付かないからでしょ」
「いや、気付いてんだよやめろ。周りの奴に振り向かれるの嫌なんだよ。他にもあるぞ。短いスカートで廊下走り回ったり」
「スパッツ穿いてるよ?」
カイトはスカートを摘まんで持ち上げた。
柔らかそうなふとももが覗く。
いやいやいや、何考えてんだよ!?
「見せんな阿呆!」
「っていうか、それを何でセカルに怒られなきゃいけないのよ!」
「オレが言わなきゃ誰が注意すんだよ!」
大声で言い合った末に、一呼吸置いてからカイトが静かな声で呟いた。
「先生じゃない…?」
「それは、そうだな…」
まともな指摘を受け、少し沈黙する。
不意にカイトが笑い出した。
「セカル、先生に向いてるかもね!」
「ならねーよ。やるとしても、お前みたいな生徒はゴメンだ」
オレは頭を抱える。
「まあ、あたし以外の人にグチグチ言ってるセカルは見たくないかなー」
「言わねーよ。お前ぐらいだよ、オレにこんなに手を掛けさせるのは」
カイトがニヤニヤ顔でこっちを見てくる。
「何がおかしいんだよ?」
「別にー」
何故かその顔は上機嫌に見えた。
「あー…新入生歓迎会に話戻すと、オレもステージに立つぞ」
おかしな方向に話が進んでいたので、話題を戻した。
「吹奏楽部は全員で演奏するんでしょ?」
「そうだな。去年と同じだ」
「去年!すっごく良かったよね。あれでセカルがサックス吹いてるの初めて見てさー。カッコ良…」
カイトがハッとした顔で口を塞いだ。
「カッコ良かった?」
オレはすかさず聞き返す。
「カッコ良さそうに見えたのは、見間違いだったのよねー…」
カイトは明後日の方向を見て口を尖らせた。
「何でそこ素直に言えねーんだよ」
「あたしばっかりあんたのこと褒めるの嫌なの!セカル、あたしのことちっとも可愛いって言わないじゃない」
ぎくりとする。
心ん中じゃ、可愛いって思ってんだぞ?
…わりとどうしようもないくらいに。
それでも、今この場で認めるわけにはいかねぇ。
「まあ…可愛いと思わなかったら、言わないよな」
「ちょっとくらい思ったことあるでしょ!ほら、言ってみなさいよ?」
カイトは可愛く見せようとしてるのか、キャピッと効果音が付きそうな仕草で顔を近付ける。
やめろ。近い。
必死な顔が可愛い。
オレは顔を逸らす。
「…可愛くねぇ」
「言ったわね?絶対可愛くなって後悔させてやるんだから!」
ぷくーっと膨れてみせるカイト。
今でも十分可愛いっての。
カイトが顔を離して立ち上がった。
「新入生歓迎会の演奏ってさあ、ソロパートある?」
「ん?それはないな」
「そっかぁ…」
カイトは力の抜けた返事をした。
何だかほっとしたような?
「じゃあ、どっちが新入生をたくさんゲット出来るか勝負よ!」
カイトはオレに向き合い、ビシっと人差し指を立てて宣言した。
そういう仕草はホントこいつらしい。
「はいよ。まあ、こっちに分があるだろうけどな」
「油断してると痛い目見るんだからね!勝った方が奢りよ!何にする?」
カイトの問い掛けに、ふと思い付いたものを言う。
「オレはリードが欲しい」
「サックスのあの、吹く時に咥えるやつ?」
「そう。お前が負けたら一緒に買いに行ってもらう」
「い、幾らくらいするの…?」
急に怖じ気づくカイトが妙に可愛らしい。
「そんな鬼じゃねーから。3千円くらい。全額持てとは言わない」
「う…まあまあする…。あ、あたしは竹刀!竹刀も3千円くらい!」
「そうか。じゃあお前が勝ったら買いに行くか」
ちゃっかり、どちらが勝っても一緒に買い物に行く流れにした。
カイトはきっと気付いてない。
「オッケー!負けないから!」
「ハイハイ。帰るか」
オレも立ち上がった。
「ねぇセカル」
「ん?」
カイトがオレの顔を覗き込んで、遠慮がちな笑顔を作る。
「3年生になってきっと忙しくなるだろうけどさ、たまにこうやって帰れたら嬉しいな」
夕日の逆光で、カイトの顔は影になって暗く見えた…が。
まただ。
またキラキラが見える。
ぎゅっと心を掴まれた気がした。
「そうだな。帰れる時は声掛ける」
平静を装って返事をした。
心臓は跳ねてる。静かになれよ。
…距離を詰めるのは、今じゃない。
「はーい」
カイトはくるりと後ろを向いたので、どんな表情で返事をしたのか見えなかった。
「じゃあ、帰ろっか!」
二人で門に向かって歩き出す。
恋人なら手を繋げるだろうに。
手持ち無沙汰な両手は、ポケットに突っ込んだ。
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セカル高3、カイト高2で4月。セカルが好意を自覚して、わりとどうしようもなくなってる頃。
付き合ってない。両片想いのつかず離れずの距離感。
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(セカル視点)
恋の病とはよく言ったものだ。
今のオレは病気だと思う。
あいつの周りはキラキラ輝いて見える。
ずっと隣で笑っていてほしい。
あの笑顔を、オレだけに向けてほしい。
あいつは社交的で、誰とでも仲良くなるタイプだとは分かっている。
それでも、他の男と話すあいつを見ると心がざわつく。
…独り占めしたい。
これが『恋』か。
無縁だと思っていただけに、笑ってしまう。
この感情を自覚した途端に、見える景色が一変した。
「あー!セカル!」
廊下でよく知った声が響いて驚いた。
…目立つからやめろ。
そんな思いはこいつには通じない。
振り向くと、1学年下のカイトが駆け寄ってきた。
「何だよ?」
「あたし、2年5組になりました!」
「文系だな」
組の数字によって、文系クラスと理系クラスが分かれている。
5組から後ろは文系クラスだ。
「うん。だって数学出来ないもん!」
「元気に言わんでよろしい」
カラカラと笑うカイトに、ピシャリとツッコんだ。
「セカルは?何組?」
「3年2組」
「理系だ…」
目を丸くするカイト。
コロコロと表情が変わる。
「今更知ったのか?」
「だってセカル、言ってくれたことないじゃない」
「必要ないからな」
「必要あるでしょ!数学はセカルに聞けばいいってことね!」
「数学に限らず、お前は全部聞きに来るだろうが」
いつも通りだ。
いつも通りに会話出来てる。
たまたま会えたのが内心嬉しかったのか、こんな取り留めのない会話をしている間でも、カイトの顔はキラキラして見えた。
頬に手を伸ばしたくなる衝動は、グッと堪えた。
「それじゃ、またね」
「ああ…なあカイト」
会話が終わってカイトが去りそうになった時に、つい呼び止めてしまった。
「なに?」
きょとんとした顔が可愛くて、一瞬見とれてしまう。
黙っていると、カイトが首を傾げて聞き返した。
「どうしたの?」
オレは何とか思い付いた言葉を発する。
「いや…今日も部活あるよな?」
「うん」
「一緒に帰るか?」
カイトの顔がパアッと明るくなった。
「うん!」
正真正銘、オレにだけ向けられた笑顔。
今は独り占め出来てる。
「部活終わったら連絡するねー」
「分かった」
「バイバーイ」
カイトは呑気に手を振って去っていった。
オレは3年になった。あいつは2年。
どうあっても越えられない学年の壁。
あと1年で、必ず別れがやってくる。
あと1年…か。
お互いの部活が終わり、武道場の裏で落ち合って、座って少し会話する。
人が捌けるまでやり過ごすためだ。
カイトは恐らく、そんなこと意識してないだろうが。
「新入生歓迎会の部活紹介でね、ステージに立つことになったの!」
新入生歓迎会は、毎年4月に体育館で全校生徒を集めて行うものだ。
部活ごとにステージに上がり、部員募集のアピールをする。
カイトは剣道部。
背は低いが、ちょこまかと技を繰り出して相手の懐に飛び込む、切り込み隊長。
何度か大会で戦う姿を見ている。
「何すんだ?」
「他の人達が対戦するから、あたし達は面以外の防具をつけて、周りで盛り上げる役かなー」
内心嫌だった。
カイトの顔を、舞台の上で全校生徒に晒すことになる。
もし1年生がカイトの姿に心奪われたらどうする?
中身は阿呆な奴だけど、見た目は可愛い。
カイト目当てで入部する奴もいるかもしれない。
…と考えていたら、突然カイトが大きな声を出した。
「あー!あたしの顔を全校生徒に見せるなって言いたいんでしょ!」
「は?!」
ズバリと言い当てられて、心臓が止まるかと思った。
しかし、次に飛んできた言葉は、
「どうせ可愛くないですよーだ」
カイトはプンプンと怒ってみせるような仕草をした。
「へ…?」
それすら可愛いと思うから、恋の病は恐ろしい…じゃなくて。
可愛くないってどういうことだ?
…あ。
オレが照れ隠しで可愛くないって言ってるのを、本気にしてるのか!
これは普段のオレが悪い…けど、ここで否定したら、可愛いって肯定することになる。
それは出来ない…。
オレは詰まりながら、何とか言葉を繋ぐ。
「可愛くないって…まあ、その怒ってる顔は可愛くないな」
「またそういうこと言う!」
「んな顔でも、好きになる物好きはいるんじゃねーか?」
言ってて恥ずかしい。
自分のことだ。
カイトの顔を見ることが出来ず、目線を逸らした。
「そんな物好きに会ってみたいですなー」
「…生きてりゃその内会えるんじゃね」
適当な相槌を返す。
「おばあちゃんになるまで、会えなかったらどうしよう…」
深刻そうな声色で話すのが面白くて、ついカイトの顔を見てしまった。
カイトは下を向いていて、オレに見られていることに気付かない。
ちょっと茶化したくなる。
「その時は…」
そう言いかけて、ハッとして言葉を切った。
また顔を背けた。
ヤバい。
「オレが貰ってやる」って言うところだった。
いつもの冗談のノリだとしても、その台詞は流石に流せねぇだろ…。
「その時は?」
聞き返すカイトに、しどろもどろになりながら返事をする。
「その時は…オレも独りかもな…?」
「その時までセカルも結婚してないの?」
「そんな気がする…」
「ふーん」
隣に物好きがいるって気付いて貰えないと、オレも独りなんですけど?
こいつは脈があるように見えて、たまに全然分かってない時がある。
「セカル、モテるのになー」
カイトが両手で頬杖をつきながら、不意に呟いた。
「は?」
「結構女子に人気あるよ?はー、見た目は良くても、中身はこんな奴なのにさー。みーんな騙されてるのよ!」
「…ちょっと待て。ひとつずつ詳しく聞かせろ」
「何が?」
カイトの言葉を制して、ひとつずつ確認する。
「えっと、まず女子に人気って?」
「うん。キャーキャー言われてるよ」
は?いやいや、何だよそれ…。
「オレは聞いたことないぞ…」
「みんな遠くから見てる気がする」
距離を置かれてるってことか?それはそれでショックだが…。
「オレってそんなに近寄りにくいか…?」
「うーん…多分、みんな遠慮してるんだと思う」
カイトが少し言いづらそうに答える。
「遠慮?何に対して?」
カイトはジトっとした目でオレを見ると、そっぽを向いた。
「自分で考えなさいよ、バカ」
え?
オレ、何か怒られるようなことしたか…?
納得いってないけど、これ以上深掘りすると怒られそうなのでふたつ目を聞く。
「『見た目は良くても、中身はこんな奴』って何だよ」
「うわ、記憶力いい」
カイトが嫌そうな顔をする。
構わず尋ねる。
「見た目は良い、ってお前の主観?」
こいつの慌てた顔でも引き出そうかと思ったが、
「客観的な感想かなー」
カイトにしては珍しく誤魔化してきた。
「何だよそれ」
少し面白くない。
「顔はいいと思うのよ?背もスラっと高いし、楽器弾く姿はサマになってるのよね」
さらっと褒められてむず痒い。
っていうか…
「やっぱりそれ主観だろ?」
「友達とかがそう言ってんの!」
ちょっとムキになって否定された。
「確かに優しい所もあるわよ。でもさあ、あたしにはグチグチ文句言うし、細かいことうるさいし。そういう一面、他の女子は知らないのよ?それなのにキャーキャー言われちゃってさ。ほーんと騙されてる」
いや…色々と言われたけど、ちょっと待てよ。
「それはお前が、文句言いたくなるような行動するからじゃね?」
「具体的にどんな?」
…聞いてきたな?
オレは早口でまくし立てる。
「宿題忘れて泣きついてきたり」
「それはすみません」
「人の顔面にボールぶつけたり」
「それ謝ったし。セカルの反射神経が悪い」
「動きが野生動物のお前とは違うんだよ。あと、遠くから大声でオレのこと呼んだり」
「それはセカルが気付かないからでしょ」
「いや、気付いてんだよやめろ。周りの奴に振り向かれるの嫌なんだよ。他にもあるぞ。短いスカートで廊下走り回ったり」
「スパッツ穿いてるよ?」
カイトはスカートを摘まんで持ち上げた。
柔らかそうなふとももが覗く。
いやいやいや、何考えてんだよ!?
「見せんな阿呆!」
「っていうか、それを何でセカルに怒られなきゃいけないのよ!」
「オレが言わなきゃ誰が注意すんだよ!」
大声で言い合った末に、一呼吸置いてからカイトが静かな声で呟いた。
「先生じゃない…?」
「それは、そうだな…」
まともな指摘を受け、少し沈黙する。
不意にカイトが笑い出した。
「セカル、先生に向いてるかもね!」
「ならねーよ。やるとしても、お前みたいな生徒はゴメンだ」
オレは頭を抱える。
「まあ、あたし以外の人にグチグチ言ってるセカルは見たくないかなー」
「言わねーよ。お前ぐらいだよ、オレにこんなに手を掛けさせるのは」
カイトがニヤニヤ顔でこっちを見てくる。
「何がおかしいんだよ?」
「別にー」
何故かその顔は上機嫌に見えた。
「あー…新入生歓迎会に話戻すと、オレもステージに立つぞ」
おかしな方向に話が進んでいたので、話題を戻した。
「吹奏楽部は全員で演奏するんでしょ?」
「そうだな。去年と同じだ」
「去年!すっごく良かったよね。あれでセカルがサックス吹いてるの初めて見てさー。カッコ良…」
カイトがハッとした顔で口を塞いだ。
「カッコ良かった?」
オレはすかさず聞き返す。
「カッコ良さそうに見えたのは、見間違いだったのよねー…」
カイトは明後日の方向を見て口を尖らせた。
「何でそこ素直に言えねーんだよ」
「あたしばっかりあんたのこと褒めるの嫌なの!セカル、あたしのことちっとも可愛いって言わないじゃない」
ぎくりとする。
心ん中じゃ、可愛いって思ってんだぞ?
…わりとどうしようもないくらいに。
それでも、今この場で認めるわけにはいかねぇ。
「まあ…可愛いと思わなかったら、言わないよな」
「ちょっとくらい思ったことあるでしょ!ほら、言ってみなさいよ?」
カイトは可愛く見せようとしてるのか、キャピッと効果音が付きそうな仕草で顔を近付ける。
やめろ。近い。
必死な顔が可愛い。
オレは顔を逸らす。
「…可愛くねぇ」
「言ったわね?絶対可愛くなって後悔させてやるんだから!」
ぷくーっと膨れてみせるカイト。
今でも十分可愛いっての。
カイトが顔を離して立ち上がった。
「新入生歓迎会の演奏ってさあ、ソロパートある?」
「ん?それはないな」
「そっかぁ…」
カイトは力の抜けた返事をした。
何だかほっとしたような?
「じゃあ、どっちが新入生をたくさんゲット出来るか勝負よ!」
カイトはオレに向き合い、ビシっと人差し指を立てて宣言した。
そういう仕草はホントこいつらしい。
「はいよ。まあ、こっちに分があるだろうけどな」
「油断してると痛い目見るんだからね!勝った方が奢りよ!何にする?」
カイトの問い掛けに、ふと思い付いたものを言う。
「オレはリードが欲しい」
「サックスのあの、吹く時に咥えるやつ?」
「そう。お前が負けたら一緒に買いに行ってもらう」
「い、幾らくらいするの…?」
急に怖じ気づくカイトが妙に可愛らしい。
「そんな鬼じゃねーから。3千円くらい。全額持てとは言わない」
「う…まあまあする…。あ、あたしは竹刀!竹刀も3千円くらい!」
「そうか。じゃあお前が勝ったら買いに行くか」
ちゃっかり、どちらが勝っても一緒に買い物に行く流れにした。
カイトはきっと気付いてない。
「オッケー!負けないから!」
「ハイハイ。帰るか」
オレも立ち上がった。
「ねぇセカル」
「ん?」
カイトがオレの顔を覗き込んで、遠慮がちな笑顔を作る。
「3年生になってきっと忙しくなるだろうけどさ、たまにこうやって帰れたら嬉しいな」
夕日の逆光で、カイトの顔は影になって暗く見えた…が。
まただ。
またキラキラが見える。
ぎゅっと心を掴まれた気がした。
「そうだな。帰れる時は声掛ける」
平静を装って返事をした。
心臓は跳ねてる。静かになれよ。
…距離を詰めるのは、今じゃない。
「はーい」
カイトはくるりと後ろを向いたので、どんな表情で返事をしたのか見えなかった。
「じゃあ、帰ろっか!」
二人で門に向かって歩き出す。
恋人なら手を繋げるだろうに。
手持ち無沙汰な両手は、ポケットに突っ込んだ。
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