忍者ブログ

道。 うちのこまとめページ

RSS TWITTER RssTwitter

クウタキまとめ1

【2023.11.6】
クウト中2・タキ小6の出会いから社会人までの総集編です。
クウトの心情の変化を感じてもらえれば。
きちんと地の文が書いてある話と、プロット段階であまり書き込んでない話が混ざってますのでご注意を。

-----------------------------------
【正月1年目】2022.11.24
(セカル高2、カイト高1、クウト中2、タキ小6で1月。クウト視点)

最近、姉ちゃんが男と一緒にいる。

面食いな姉ちゃんのことだから「カッコいいー!」とかで惚れて、ついて回ってるんだろうな。
で、その内姉ちゃんが距離感間違えて、相手に引かれて終わりー…になると思ってたんだけど…

案外続いてる。
たまに二人で出掛けてるっぽい。
男にもその気があると見た。
あの姉ちゃんだぞ?人の話を聞かずに突っ走る。そのくせ不器用で、人にお世話されなきゃ何も出来ない。一緒にいたら、振り回されること間違いなし。
…それがいいって、相当な物好きだぞ。

あー、そういえば、この間クリスマスに出掛けていって、上機嫌で帰ってきてた。
見たことないネックレスつけて。
あれは多分貰ったプレゼントだな。

本気で姉ちゃんと付き合う気か?
どうせ手に負えなくて、投げ出すに決まってる。
別に姉ちゃんが誰と付き合おうと知ったことじゃないけど、中途半端に手を出されて泣かされても困る。
家でうだうだ泣かれるのが面倒ってだけだ!

…姉ちゃんにふさわしい男かどうか、おれが見極めてやる。


正月の朝9時。
朝から隣の部屋がドタバタとうるさい。

「ねー!あたしの手袋どこにあるか知らない?」
いきなりおれの部屋のドアが開いて、カイトが顔を出す。
「なんでおれに聞くの?自分でどっか置いたんでしょ。あとノックして」
「ないのよ~昨日使ったはずなんだけど…」
カイトが眉をハの字にする。
ノックのことは耳に入ってない。
おれはわざとらしくため息をついてやる。
「…昨日帰ってきて、手洗えって母ちゃんに言われて洗面所行ってたでしょ。そのルートにない?」
「あ、そっか!玄関か洗面所かなー」
カイトはドタドタと走って、階段を下りていった。
「ドア閉めてってよ!」
返事は返ってこなかった。
いつもこの調子だ!

仕方なくドアを閉めようと立ち上がると、隣の部屋から着信音が聞こえた。
カイトの部屋のドアは開きっぱなし。
中を覗き込むと、机の上に置いてあったスマホがバイブと共に鳴っていた。
部屋に入って画面を見ると、通知に『セカル』と書いてあった。

…あの男の名前だ。

用件は分かってる。今日はコイツと初詣に行くらしい。
付き合ってない男の先輩と正月から会うって、どうしたらそんな流れになるんだよ?

…なんて思ってたら、カイトが階段を上ってくる足音がした。
マズい!
慌てて部屋を飛び出した。

廊下に出ると、カイトが階段を上ってきた。
「あ、手袋あったよー」
カイトは手袋を見せながら、笑顔で報告してきた。
「だから言ったでしょ。大体姉ちゃんがどっか置いて忘れてるんだから」
「すみませんでしたー」
カイトは唇を尖らせながら、自分の部屋に入ろうとする。
「…どっか出掛けんの?」
おれが聞くと、カイトが振り返った。
「え?まあ…そう、友達!友達と初詣に行くの!」
カイトが一瞬迷ってから言った。
へー友達。へー。
内心そう思いながら、「あっそう」と返しておいた。


カイトが家を出たのを見て、おれもコートを着て支度する。
「あら、クウトも出掛けるの?」
母ちゃんに尋ねられる。
「うん。御札ちょうだい。神社に納めてくる」
「ああ!そうね、お願いしようかしら」
御札を受け取り、コートのポケットに入れて家を出た。

歩いていける範囲に、そこそこな大きさの神社がある。
近くまで行くと、正月の参拝客で賑わっていた。
その人混みの中に、頭1つ抜けて青い髪の男を見つけた。
隣にカイトがいるのを確認する。
おれは木の陰に隠れた。
少し距離を取って、様子を伺う。

カイトが手袋をした手で、頬を押さえる仕草をする。
寒い~とでも言ってんのかな。
ああ、嬉しそうな顔しやがって…。
男は後ろ向きで、背中しか見えない。
どんな顔で話してんだ?
この距離だと会話も聞こえない。
もう少し近付きたい…。


「あの、お兄ちゃんのお友達ですか?」
突然、背後から声が掛かった。
驚いて振り向くと、ピンク髪のポニーテールの背の低い少女がおれを見ていた。
「え?」
「さっきから、お兄ちゃんのこと見てるから。声を掛けようとしてるのかなって思ったんですけど…」
少女は目をパチパチさせた後、
「もしかして、クウトくん?」
首を傾げて、おれの名前を口にした。
「なんで…?おれの名前を?」
ビックリしていると、少女は顔を綻ばせる。
「やっぱり!そんな気がしたの。私もね、あの二人のお邪魔になるんじゃないかなって思って、ちょっと声掛けづらかったんだよね」
少女はそう言いながら、おれの手を引いた。

えっ?

何が起こったのか考える暇もなく、木の陰から前に引っ張り出された。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おまたせ!」
少女が笑顔で声を掛けると、カイトとセカルがこちらを見た。
「クウト?何でこんな所に!?」
カイトの甲高い叫びが耳を突いた。


「私が学校のお友達を見つけたから、お話ししてる間、お兄ちゃん達に待っててもらってたの」
ピンク頭は聞いてもない説明をしてくれた。
何だ?何考えてんだコイツは?
ふわふわした雰囲気をまとって、ずっと微笑んでいる。
「クウト、あんたタキちゃんと知り合いなの?」
カイトが目を丸くして聞いてきた。
知るか。でも大体状況は掴めた。
「知らない。けどコイツはおれの名前知ってたから、どうせ姉ちゃんがおれのこと話してたんでしょ?」
「コラ!タキちゃんのことコイツ呼ばわりしないの!」
カイトが怒ってきた。セカルも眉を潜める。

「お姉ちゃん待って!クウトくんは悪くないよ。まだ自己紹介もしてないのに、私が連れ出しちゃったの」
タキと呼ばれた少女は、呼ばれ方を気にすることなくにこやかに微笑み掛けてきた。
「はじめまして。セカルお兄ちゃんの妹のタキです。6年生です。クウトくんのことは、カイトお姉ちゃんから聞いてました。仲良くしてくれると嬉しいな?」
…ふわふわした見た目に反して、かなりしっかりしてる。
「ほら、クウトも!返事!」
カイトがうるさい。
「…クウトです。このどうしようもない姉ちゃんのお世話してます」
「はあ?何言ってんの!?」
これまたカイトがうるさい。無視した。


「…聞いてた通りだな」
そこでようやくセカルが口を開いた。
初めておれと目が合った。
金の瞳。少し黒い肌。
ああ、顔は整ってる。面食いな姉ちゃんが惚れたわけだ。
「姉ちゃん、おれのこと何て説明してたの?」
セカルには声を掛けず、カイトに向き直った。
「生意気でうるさい弟がいるって」
「出来の悪い姉の面倒を甲斐甲斐しく見てる優しい弟、の間違いじゃない?」
「あんたねぇ~!?」
カイトが声を荒げると、セカルが制止した。
「こんな所で騒ぐな。この数分で、お前ら姉弟の関係性はよく分かった」
…分かった気になるな!
セカルを睨みつけたが、セカルはカイトを見ていておれの視線に気付かなかった。


「っていうかクウト、あんた何しに来たのよ?」
成り行きで4人で参拝の列に並んでいると、カイトが話しかけてきた。
「母ちゃんに御札納めてこいって言われたから」
ポケットから御札を出す。
もしも見つかった時のために、理由を話せるように持ってきたものだ。
「ふーん」
カイトは恐らく何とも思ってないような相槌を打つ。
…別に理由を用意する必要なかったな。
そんなことを思ってたら、隣のセカルが口を出してきた。
「カイトに頼めば良かったのにな?」
「あ!ホントだ。ママ、あたしに言えば持ってきたのに」
「…忘れてたんじゃない?」
おれが自主的に持ってきたとは言えないので、適当に返す。

この男、なんか突っかかるな…。
っていうかカイト呼びなのかよ。名字じゃなくて名前呼び捨て。
まあ、カイトちゃんとかカイトさんとか呼ばれるのも寒いけど、実際に呼び捨てされてるのを聞くと若干ムカつく。

この際だから、色々と話をさせて情報を引き出すか。
関係がどの程度進んでるのか、様子を見るチャンスだ。


「タキちゃん、さっきのお友達とは何話してたの?」
カイトがタキに話しかける。
「冬休みの宿題の話。日記があってね、何書くか聞いてたの」
「タキちゃんはどうするの?」
「私はね、クリスマスもお正月も、お姉ちゃんに遊んでもらえて嬉しいから、どっちを書こうか悩んでるの」

クリスマス?は、カイトがこの男に会ってたはずだ。妹にも会ってたのか。
…探りを入れてみるか。

「姉ちゃん、クリスマスは帰り遅かったよねー」
「え?そこまでじゃなかった気がするけど」
カイトがきょとんとする。
「ネックレスつけて、顔デレデレさせて嬉しそうに帰ってきてさー」
「そ、そんな顔してないし!」
カイトがムキになって否定してきた。
チラリとセカルを見る。
一瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。
くそっ、あんまり反応がないな。
お前がプレゼントしたんだろうが。
内心喜んでるんじゃないのか?

「クリスマスはね、お姉ちゃんがおうちに遊びに来てくれたの」
タキがご丁寧に解説してくれた。
家に行ってたのか。へぇ…。
「ふーん。何してたの?」
乗っかって聞いてみる。
「一緒にケーキを作ったの」
意外な答えに、思わずカイトを見る。
「姉ちゃんがケーキ作り?料理出来ないド不器用が?」
「ちょっとクウト!」
おれの煽りに簡単に乗ってきたカイトが抗議すると、セカルが噴き出した。
おっ反応した?
「セカルも何笑ってんのよ!」
「いや…ホント酷かったなって思い出して…」
セカルが口元を手で押さえる。
「あんたが無理矢理やらせたからでしょ!」
笑うセカルにカイトが怒って、言い合いを始めた。

…なんだ?
なに痴話喧嘩してんだよ?

置いてきぼりの空気を感じてたら、隣にいたタキがクスクスと笑い出した。
「お姉ちゃん達、仲良しさんだよね」
小声で話しかけられた。
「は?ケンカしてるだろ。どの辺が仲良く見えるんだよ」
つっけんどんに言ってやったが、おれの不機嫌な雰囲気を感じ取ってないのか、タキは普通に会話を続ける。
「ケンカするほど仲が良いって言うじゃない?」
「言わない」
「そう?」
タキは不思議そうにおれの顔を眺めていた。
このピンク頭、なんかズレてて調子狂うな。



参拝を終えると、カイトが指をさした。
「ねえ、あそこでお菓子配ってる!」
ガキみたいにはしゃぐんだよな。
本当に昔から変わらない。
「タキ、一緒に行っておいで」
「うん!お姉ちゃん、行こう?」
「オッケー!行ってきまーす」
セカルに促されて、カイトとタキが人だかりに向かって歩いていった。
その後ろ姿を眺めてたら、セカルから声が掛かった。
「行かなくていいのか?」
「おれはガキじゃないから」
「そうか」
セカルはおれの方を見ずに苦笑いした。


男2人で残されて、会話がなくなる。
この膠着状態も何だし、思い切って直接仕掛けてみるか。

「で、姉ちゃんのどこが好きなの?」
「え?」
セカルがぎょっとした顔をしておれを見た。
へぇ。間の抜けた顔もするんじゃん。油断してたな。
おれは畳み掛ける。
「あのどうしようもない姉ちゃんの、どこがいいのかって聞いてんの」
「は…?」
こんな質問をされるなんて、全く予想してなかったって顔だ。
セカルは口を開いて何か言いかけるが、言葉が出てこない。

…勝ったな。
ちょっと優越感に浸って、ため息をついてみせる。
「朝は起きてこない。遅刻しそうになって毎朝ダッシュ。夜はソファで寝て、早く風呂入れって何度も怒られる。宿題やってなくて泣き付く。物をよく無くす。勝手に人のお菓子を食べる。それから…」
どうしようもないカイトの話をしたら幻滅するだろと思って、思い付くまま挙げていたら、セカルが遮った。

「…なるほど。この弟にしてあの姉あり、か」
セカルは深々と呟いた。
セカルの顔を見ると、ちょっと笑ってた。
なんだその表情は?

「カイトは『今までどうやって生きてきたんだ?』って思う部分があったけど、クウトくんが面倒見てたんだね。納得した。キミの役割に、オレがちょうど合致したのか…」
…この口ぶり。
カイトの手の掛かり具合は分かってるような言い方だ。
おれの役割にセカルが合致した?
つまり、面倒を見てるおれとセカルが重なって、似てる…?ってこと?
…なんだろうけど、背筋がぞわっとした。
コイツにクウトくんって呼ばれるの、すげー気持ち悪い!

「弟だから仲良くしようとか、取り込もうとか考えてる?ご生憎さま。おれ馴れ合うの嫌だから。くん付けで呼ばれるのも気持ち悪い」
そう言い放つと、セカルは露骨に顔を歪めた。
「…お前さあ、さっきから失礼だよな」
セカルはムッとした表情をする。
お、いいぞ。その顔だ。
さっさと本性見せろよ?
「別に?仲良くしたいと思ってないだけだよ」
「流石に初対面で傍若無人すぎるだろ。カイトからの前情報がなければドン引いてるぞ」
「姉ちゃんから何聞かされてたの?」
「姉を姉とも思ってない、生意気で口の減らない弟がいる」
「そりゃーあれが姉なんて、恥ずかしくてたまったもんじゃないからね。毎日毎日バカなことやってて、文句言いたくもなるよ」
おれが肩をすくめると、セカルは冷めた目線を向けた。
「すごいな、このノリで毎日ケンカしてるのか」
「まあ口じゃおれの圧勝だけどね?」
「『ああ言えばこう言う』とは、よく文句聞かされてた」
「ボキャブラリー少ないからねー姉ちゃんは。何とでも言い負かせるよ」
「それで、その得意な口論でオレともやり合うつもりか?」
セカルとバチッと視線が合った。

コイツ、頭の回転が早い。
普通に頭は良いと見た。
優等生タイプかと思ったけど、案外口は悪いな。
そういう所はおれと似てる…?
…いやいや、気持ち悪いってば!

そもそも、何だってこの男は姉ちゃんに気があるんだ?
バカな女が可愛く見えるタイプ?
あ、そういえば、どうして好きなのかって質問ははぐらかされたな。
もう一回仕掛けてみるか…と思ったところに、
「ただいまー!」
能天気な声が響いた。
間が悪い。




「じゃあタキちゃんまたね!」
「お姉ちゃん、また遊ぼうね!」
帰路の途中で別れることになり、女子2人がキャッキャと笑って手を振る。
「セカルもまた学校で!」
「ハイハイ」
カイトに言われて、セカルは少し俯いて笑った。
…なーんか余裕なの気に入らないな。
コイツの中じゃ、もう彼女か何かなのか?
姉ちゃんも、この男が好きなの丸分かりなんだよなー。

「クウトくんもまたね?」
タキがニッコリとおれの方を見た。
コイツは最後まで何考えてるのかよく分かんなかったな。
「クウト!返事!」
…だからカイトがうるさい。
「ハイハイ。またねー」
振り向かず、歩きながらひらひらと手を振ってやった。



「もー、ホント失礼なんだから!」
カイトと帰りながら説教される。
「何が?」
「全部よ全部!タキちゃんにあんな態度取るなんて、もう会わせないからね!」
「別に会わなくていいけど」
「セカルの妹はあんなに可愛くて天使なのに~!あたしの弟は何でこんなのなの~…」
それはこっちの台詞だ。
あの妹のこと相当気に入ってるのか。
「あのタキって子のこと好きなの?」
「そりゃもちろん!あたしもあんな妹が欲しい~」
「あいつと結婚すりゃ妹になるんじゃない?」

突然カイトが立ち止まった。
2、3歩前に出て、おれも止まってカイトを見た。
カイトは両頬を押さえて赤くなっていた。
…分かりやす。

「そ…そういうのはまだ考えてないってば!」
「まだ?じゃあ将来的には考えるんだ?」
「そんなこと言ってないでしょ!」
「あれのどこがいいの?顔?」
「や…そういうんじゃないし!」
カイトはあたふたとする。
…分かってた反応だけど、なんかムカつくな。

「あいつ口悪いよ」
さらっとセカルを下げておく。
「それは知ってるわよ。いっつも文句ばっかり言われるし」
「ふーん。それなのに好きなんだ?」
「違うってば!セカルのことは…そんな…風には…」
段々と声が小さくなる。
カイトが下を向いた。
あー、これマジなやつだ。弄りづらいな。

「ハイハイ。じゃーセカルのことは何とも思ってない。何とも思ってない奴と一緒に初詣に行くっと。どんな関係なのかねー。あー友達だっけ?」
「どうだっていいでしょ!もー、なんであんたはそんなに突っ掛かってくんのよ!」

…面白くないからだよ。
何だってあんな男のこと好きなんだよ。
話してみた感じ、爽やかな先輩ってわけじゃなさそうだ。
どっちかっていうと陰があるような…なーんか嫌な感じがするんだよな。
姉ちゃんそういう嗅覚ないだろうから、おれが見ててやんないと。
あの男のことは、もうしばらく様子見だな。

「姉ちゃん弄るの楽しいからかなー」
「もー、ホント何なのよあんたは!ついてこないで!」
「帰り道が同じなんですー」

そんな風に言い合いながら、家に帰った。
姉ちゃんとの口喧嘩の年季なら、おれの方が上だ。


-------------------
【尾行】2023.9.4
(クウト中3、タキ中1、セカル高3、カイト高2で4月)

「クウトくん?」
街中でタキに声を掛けられ、クウトがビクリとする。
「…お前か」
タキだと分かると、すぐに視線を戻した。
「こんなところでどうしたの?」
「どうもしない。あっち行け」
クウトは建物の陰に隠れて、何かを見ているようだった。
タキはきょとんとして、同じように陰から様子を伺う。
視点の先にはカイトがいた。
「お姉ちゃん?」
「うるさい。静かにしとけ」
クウトはタキの方を見ずに返事をする。
カイトが歩いていった先には、セカルがいた。
どうやら待ち合わせているようだった。
落ち合った二人が会話を始める様子が見えた。

「そういえば、お兄ちゃんもおでかけするって言ってた。カイトお姉ちゃんとだったんだね。クウトくんはお姉ちゃんに用事があるの?」
「ないよ」
「じゃあ何してるの?」
「尾行」
「びこう?」
タキが目を丸くした。

「セカルが姉ちゃんにふさわしいかどうか見てんの」
「お兄ちゃんが?お姉ちゃんに?」
「そう。ふさわしいって言うか…姉ちゃんの世話は大変なんだよ。途中で匙投げられても困るから、ちゃんと面倒見切れるか見てんの」
タキは口を開けてぽかんとした。
「クウトくんって…お姉ちゃんが好きなんだね」
「はッ!?」
クウトが思いがけずタキの方を振り返った。
「だって、お姉ちゃんのことが心配だから見てるんでしょ?」
「心配なんてしてない。セカルに振られたらギャーギャー言っておれに被害が及ぶから、先に様子を見てるだけ。まだ付き合ってないから、上手くいきそうにないなら今の内に引き離すんだよ」
「つまり…クウトくんは、二人に別れてほしいの?」
「セカルが責任持って引き取るならいいよ?そうじゃなければ別れさせる」
タキが何か言いかけたが、
「あ、移動する!」
カイトとセカルが歩き始めたので、クウトがそろりと物陰から出た。
タキも慌ててついていく。
「なんでついてくるんだよ!」
クウトが小声でツッコむ。
「私も気になるの」
「は?足引っ張られたら困るから…」
クウトの言葉を遮るように、タキが話す。
「私なら、お兄ちゃんにもお姉ちゃんにも見つかっても言い訳が立つよ?二人とも、私のことを疑ったりしないから」
クウトがタキを一瞥する。
「…あいつら、お前に甘いからな。それもアリか」
クウトは少し考えて、タキに指でついてくるよう合図した。

カイトとセカルは楽器店に入っていった。
「…セカルの用事か」
クウトが呟いた。
「もしかしたら、時間かかるかもしれないよ?」
タキが言う。
「何でだよ?」
「お兄ちゃんがバイオリン持ってたから、メンテナンスだと思うの。お店の中で弾いたり、楽器の調子見たりするよ」
「…詳しいな」
「私もフルートやってて、このお店によく来るから」
「ふーん」
クウトは興味なさげに相槌を打った。
「時間かかると思うよ。クウトくん、ずっと待つ気?」
クウトが楽器店とタキを交互に見る。
「…ちょっと事情が変わった」
そう言うと、クウトが歩き始めた。
「どこに行くの?」
タキが聞いても答えは帰ってこない。小走りでクウトについていった。

公園の自販機の前に行き、クウトが指をさす。
「どれ?」
ぶっきらぼうに言う。
タキが首を傾げながら、りんごジュースを指した。
クウトは黙ってお金を入れて、りんごジュースとサイダーのボタンを押した。
「ん」
クウトが差し出すので、
「ありがとう…」
とタキが戸惑いながら受け取った。
クウトがベンチに座った。タキも様子を見ながら隣に腰掛ける。
「尾行は終わり?」
タキが訊ねる。
「中断。お前が時間かかるって言ったし。その間、お前から話を聞いた方が有益そうだから」
「私?」
「そう。お前から直接セカルの話を聞いた方が早いと思った」
「お兄ちゃんの話?」
「どんな奴なの?」
「どんなって…すごく優しいよ」
「そういうんじゃない。ダメな所とか、弱点とか」
「弱点…」
タキがうーん…と考え、
「最近は、お姉ちゃんのこと好きな気持ちが漏れちゃってるかな」
「は?」
クウトが半目でタキを見る。
「お姉ちゃんのこと話してる時はとっても楽しそうなの。こっちも嬉しくなっちゃうよ」
「いや、そういう話を聞きたいんじゃなくて」
「スマホの写真見てたりするよ」
「はあ?」
クウトの眉間のシワが増える。
「たまにお姉ちゃんの写真見てる。私には隠すんだけど」
「んなノロケを聞きたいわけじゃ…待てよ、それをネタに揺すれるか…?」
クウトがぶつぶつ呟く。
そんなクウトを見ながら、タキはジュースを飲んだ。

「クウトくんって面白いね」
「あ?」
タキが笑ってみせた。
「探偵みたいなことしてるんだもの。最初はビックリしたけど、私もワクワクしちゃった」
「…なんだよそれ」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんのことを、一番に考えてることも分かったし!」
「はあ?」
「だって、大切なお姉ちゃんが傷つかないように見守ってるんでしょ?それなら私も協力するよ!私もお姉ちゃん好きだもん。そのためにお兄ちゃんがどんな動きをすればいいか、陰でサポートだって出来るよ」
タキが胸を張る。クウトの表情が曇る。
「…話の流れが変わってきたな」
「クウトくんと協力すれば、お兄ちゃんとお姉ちゃんをくっつけることが出来るなって思ったの」
「待て。おれは二人をくっつけたいなんて思ってないぞ?」
「お姉ちゃんを幸せにしたいんでしょ?ならお兄ちゃんと結ばれるのがいいんじゃないかな?」
「良くない」
「そうかな?お姉ちゃんが何を望んでるか、ずっと傍で見てたクウトくんが一番よく分かるんじゃない?」
クウトはじっとタキを見た。
タキは見つめ返した。
「…お前、とんでもない奴だな」
「それほどでも」
「褒めてない」
「ふふふ。私もね、お兄ちゃんのこと好きだから、幸せになってほしいんだよね。じゃあクウトくんと一緒だ」
「一緒じゃない。全然利害が一致してない」
「同じだと思うなあ」
タキの機嫌が良くなるのに反して、クウトの機嫌が悪くなっていった。

ジュースのペットボトルを捨てて、クウトが歩き始める。
「楽器屋さん、そっちじゃないよ?」
「いい。帰るんだよ」
タキがきょとんとする。
「尾行、やめるの?」
「今日の用事は済んだ」
「そっか」
タキが走って、クウトの隣に並んだ。
「何だよ?」
タキがニコニコして歩くので、クウトが嫌そうな顔をする。
「今日はクウトくんと仲良くなれたなって!」
「なってない。どんだけポジティブなんだよ」
「だって、ジュース買ってくれたし」
「口止め料だよ。今日のこと、セカルにも姉ちゃんにも言うなよ」
「分かった。ナイショだね」
ふふふ、とタキが笑う。
「分かってんのかな…」
クウトが頭を掻いた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんのこと、二人で見守っていこうね!」
「ぜんっぜん分かってないだろ!」
クウトの盛大なツッコミを、タキは笑って受け流した。


-------------------
【告白】2022.8.1(告白シーン以外の加筆2023.9.3)
(クウト高3、タキ高1)

「クウトくん!」

クウトが下校しようとすると、校門前でよく通る高い声が聞こえた。

振り返ると、ピンク色のポニーテールが揺れた。
セーラー服のタキがクウトを見て、ニコリと微笑んだ。

クウトがギョッとする。
「なんで…お前がいるんだよ」
「来ちゃった」

えへ、と笑ってみせるタキ。
クウトの高校は女子もブレザーなので、セーラー服を着たタキは目立っていた。

周りの生徒達の視線がチラチラと集まる。
クウトが舌打ちする。

「何が『来ちゃった』だよ…何の用?」
クウトはつっけんどんに返す。
「この間、助けてくれた時のお礼しようと思って」

数日前に、タキがナンパ男達に絡まれている所を、クウトがタキの手を取って走って振り切った出来事があった。

「別にどうってことないし。チャラい男共が目障りだっただけ」
「どうってことなくないよ!すごく怖かった。それをクウトくんが助けてくれたんだもん。ヒーローみたいだったよ!」
「そうですか」
熱く主張するタキから、クウトは顔を逸らした。

「お礼って何?」
クウトが横目で訊ねる。
「ちょっと寄り道しない?」
「どこに?」
「クウトくん、食べたいものある?」
「ない」
「甘いものは食べれるよね?私の好きなお店があってね」

クウトの返答をさらっと受け流すタキ。
クウトは諦めてついていくしかなかった。

カイトやセカルと話す時はクウトが優位に話を進めるが、どうしてもタキにはペースを崩される。



静かな喫茶店に入り、窓際の席に着いた。
タキがケーキを頼んだ。

アンティークな作りで、焦げ茶色の材木がたくさん使われている、古めかしい店舗。
近所の人がよく利用するのか、周りは年配客が多い。
若い自分達は浮いて見えるのではないかと、クウトは居心地が悪かった。

タキは気にせず、クウトに話しかける。
「ゴメンね、こんなお礼で」
「…別に。おれが勝手に動いただけだったから、お礼なんて気にする必要もないのに」
クウトは頬杖をついて、窓の外を眺めていた。

人通りは少ない。
同級生に目撃されて、茶化されることはなさそうだと安堵する。

「それじゃあ、クウトくんが遠慮しないように、ケーキ代として私の相談を聞いてもらおうかな?」
「はあ?」
嫌そうなクウトの返事を聞いて、タキはニッコリした。


「私、好きな人がいてね」

クウトの目が、わずかに大きく開いた。
タキは続ける。
「でも、その人にも好きな人がいるみたいで、困ってるの」

クウトが呆れた様子で、面倒くさそうに返す。
「…んなもん、気にせず告白すればいいだろ?お前の天使の微笑み…って言われてるハリボテの笑顔なら、どんな男でも落とせるんじゃないか?」
「ハリボテじゃないです。私の笑顔は本心です」
タキが少し頬を膨らませる。

「おれにはそうは見えないんだよ」
「困ったなあ。そんなこと言われたら、自信無くなっちゃうよ」
ハリボテと言われたことに対抗して、タキは芝居がかった動きで困ってみせた。

「あのな、おれの意見なんて聞くな。お前、おれにはだいぶ押しが強いじゃねーか?その押しの強さで挑めば、大体の男は攻略出来んだろ」
「そうかなあ、そっかあ…ちょっと頑張ってみようかな」
「あーハイハイ、オウエンしてますよ」
クウトがわざとらしく言った。
タキが微笑んだ。


「その人ね、好きな人に振り向いてもらえなくても、頑張ってるんだよね」
「へー、そりゃ可哀想なこって」

クウトは興味なさげに、大きく一口ケーキを頬張った。
チョコケーキ。ココアパウダーが少し苦く感じた。

「叶わない恋なの。それが分かってるのに、諦めて他の人を好きになるようなこともないんだよね」
「ふーん。一途なんだな」
「うん。私はね、そんなその人のことが好きなの」

クウトがジトっとした目でタキを見た。
「それ、勝算ねーじゃん」
「そうなんだよね。私は、その人に好きになってもらわなくてもいいから、傍にいたいなって思うの」
「…はあ?」
クウトのトーンが下がった。

「好きになってもらわなくていい?綺麗事ほざくなよ。もっと貪欲に、私だけを見てってアピールして、奪い取りにいくべきだろ」
「…それが出来たらいいんだけどね」
タキが困った様子で下を向いた。
「やれよ。何遠慮してんだよ。おれにはズケズケと踏み込んでくるのに。お前らしくない」

タキはアハハ、と小さく乾いた笑いを浮かべた。
「そうだよね…私らしくない」
「ああ。おれの知ってるタキなら、もっと無遠慮に行くね」
「うん…分かった。勇気出してみるね」
「おー、別にどうなろうとおれは知ったこっちゃないけど」

クウトはもぐもぐと、残っていたケーキを食べ始めた。
タキは微笑んで、クウトのことを見ていた。


お互いにケーキを食べ終わると、
「あのね」
タキが口を開いた。

「私の好きな人の話、もっと聞いてほしいな」
「…物理的にも精神的にも、おなかいっぱいなんですけど」
クウトがげんなりした顔をする。

「カッコよくて、背はあんまり高くなくて、目つきは鋭くって、いつも気だるそうで」
タキは気にせず話し始めた。

クウトはタキを黙らせるのを諦めて、窓の外を眺めた。
少し暗くなってきたな、なんてことをぼんやりと思った。

そっぽを向くクウトに対して、タキは構わず話し続ける。
「文句ばっかり言って、何かにつけて突っかかるあまのじゃくなんだけど…細かいところに気がついて、表現が不器用だけど優しいところがあるんだよね」

「…まるで、どっかで見たことある奴だな」
クウトが小さく呟いた。

なおも外を眺め続けるが、外の風景に焦点は合わなかった。
タキが切なげな表情になったが、クウトには見えなかった。

「…その人が叶わない恋をしてる相手のこと、私も好き。だから…私は邪魔をしたくない。私は、その人が大切にしまってきた想いを、踏みにじりたくない」

突然クウトが大きな音を立てて椅子を引き、立ち上がった。
ぐしゃりと伝票を鷲掴んで、出入口に向かっていった。

「待って!」
慌ててタキも鞄を持って立ち上がった。



何も言わず、堤防をズンズンと歩くクウト。
小走りでタキもついていく。

川の水面に、夕日が煌めく。
「夕日、綺麗だね」
タキがぽつりと呟いた。
それでもクウトの足は止まらなかった。

「クウトくん!」

タキが大声で叫んだ。
聞いたことのないようなタキの大声に驚き、思わずクウトが振り返った。

「お話があります。聞いてください」

静かな、凛とした声だった。
タキは髪を耳に掛けながら言った。



堤防の、川へ降りる階段に、二人で並んで腰掛けた。
タキは膝を抱えた。

「私ね、クウトくんに会う前に、悩んでることがあったの」
クウトがタキを見た。クウトの顔を見て、タキは微笑んだ。

タキの表情は夕焼けに照らされ、憂いを帯びたようだった。
クウトが何も言わないのを見て、タキが続けた。

「周りの人達から、女神だとか聖母だとか言われるのが嫌だった。私も普通の人なのに。怒ったり嫉妬したりするのに。…いい子にするの、疲れちゃった。それでも私は、周りにいい顔をするの、やめられなかった」
タキが顔を伏せた。

沈黙が落ちてしばらくして、クウトが口を開いた。
「…そりゃそうだろ。お前はふわふわした見た目でのんびりした雰囲気出してんのに、中身は全然ほわほわしてない。平気そうに見えて、ずっと我慢してる。だいぶ周りに気を遣って動いてるけど、女神でも何でもない。人並みの感情があることくらい分かるだろ」

「ふふ…クウトくんはよく見てくれてるね」
「他の奴が見る目ないだけだ」
「んー…クウトくんにだけ、弱いところを見せちゃうってのもあるかも」
タキが顔を上げた。クウトと目が合う。
タキは薄く微笑んだ。


「クウトくん、お願いがあるの」
「…なんだよ」
「私のこと、ちゃんと振ってほしいの」

クウトは頬杖をつきながら、目を見開いた。
タキは憂いを帯びたような表情をしてから、スッと切り換えて笑った。

「私はクウトくんのことが好きです」


クウトは少しタキを見てから、目を逸らした。

「…それには、応えられない。おれは姉ちゃんが好きだから」

「うん、そうだね。私もカイトお姉ちゃんが大好き。一緒だね」
タキがふふふ、と笑う。

「笑う所じゃないだろ」
「ううん、嬉しいの。私もお兄ちゃんも、お姉ちゃんが大好き。みんな同じ人を好きになって、それが縁で集えた。素敵なことだよね」
微笑むタキの横顔を見て、クウトはため息をつく。

「タキはどうしようもないシスコン男に惚れて、振られて、何も良いことないだろ?」
「そうかな?クウトくんは私のこと、恋愛対象じゃないけど妹として大切にしてくれてるから、幸せだよ」
「そんなんだから女神だとか言われるんだよ。もっと本心出せよ」
「これは本心なんだけどなあ…」
タキが困ったように笑う。

「大体さあ、こんな捻くれててめんどくさい男が好きなんて、見る目ないぞ」
「クウトくんは優しくてしっかり者で面倒見が良くて、何でも出来ちゃう素敵な人だよ?」
「見る目ないってば…」
クウトが顔を伏せて頭を掻いた。

「あと、お兄ちゃんに似てる」
「は?」

クウトがバッと顔を上げた。
心底嫌そうな表情を見て、タキが笑い出した。

「クウトくん、凄い顔してるよ…」
「…お前、分かってて言っただろ」
「ちょっとイジワルしたくなって」
肩を震わせて笑うタキ。

クウトはムスッとしながら横目で見る。
「セカルと似てるって、一番聞きたくない言葉なんだけど」
「でもお兄ちゃんとクウトくんは似てるよ」
「似てない」
「お兄ちゃんも同じように否定したけどね」

なおもクスクスと笑い続けるタキを見ながら、クウトはハーッと分かりやすくため息をついた。

「満足した?」
「うん…ありがとう、ずっと隣についててくれて。やっぱりクウトくんは優しいね」
「別に」

微笑みながら涙を拭うタキ。
クウトは日が暮れるまで、何も言わずに隣に座っていた。



「ゴメンね、受験生なのに」
「別に。どうってことないよ」

クウトが立ち上がった。それを見て、タキも立ってスカートの砂を払った。
「帰んぞ」
「うん」

タキが暗くなった階段を上がろうとすると、クウトの手が伸びてきた。

タキは驚いたが、クウトは有無を言わさずタキの手を握って階段の一番上まで上った。
頂上まで上り切ると手を離し、すたすたと堤防を歩き出した。

…そうやって優しいから、好きなんだよ。
タキの心がズキリとする。


「姉ちゃんとセカルはお気楽なもんだよね。おれらはこんなに悩んでるのにさ」
歩きながらクウトがぼやく。

「でもお兄ちゃん達には、私達の関係のこと知ってほしくないなあ」
「ま、知られずに過ごせるだろ。おれらの方がうわてだからな」
「お姉ちゃんは詮索しないからもちろん…お兄ちゃんも、私が言わなきゃ気付かないよ。隠し通せます」

「…お前のそういう所が怖いんだよな」
「弟と妹ってさ、上の兄姉を見て育つよね。お兄ちゃん達は二人とも素直だから、それを見て私達はズル賢くなって、ちょっと曲がって育っちゃったのかも」

「…そうか、それなら納得した」
「クウトくんの捻くれ方は、尋常じゃないけどね」

タキの一言に、すかさずクウトも応戦する。
「お前の歪み方も相当なもんだろ」
「ふふ。一緒だね」
微笑むタキの横顔を見て、クウトは「ああ」と短く返した。


クウトは、タキの様子をチラリと伺う。
もうすっかり悲哀の感情は見て取れなかった。

恐らくタキは、今日の告白など無かったように、変わらず自分と接するのだろう。
そんな風に感じて、どこか安堵する自分がいることにクウトは気付くのだった。



-------------------
【結婚祝い 前日譚】2022.9.17
(セカル社会人1年目、カイト大学卒業、クウト大学2年、タキ高校卒業で3月。クウト視点。)

夜8時頃、タキから電話がかかってきた。

『クウトくん、こんばんは!』
告白を振ってから2年経つが、タキは距離を取ることもなく変わらずに接してくる。
おれにとってはありがたいことだった。

「用件は何?」
つっけんどんに返したが、タキは慣れた様子で話を進める。
『お姉ちゃん達から、入籍のお祝いパーティーにお呼ばれされたよね?』
「ああ」
『お祝いのプレゼント、一緒に買いに行かない?』
「おれとお前で?」
『うん。どうかな?』

ストレートに承諾するのは癪で、なんで?と言いたいところだが、突き放したらタキが困るのは目に見えてる。
「…いいけど」
そう言うと、タキは分かりやすく喜んだ。

『何がいいかなあ…カイトお姉ちゃんは何が好きかな?』
「お前の方が知ってるんじゃね?」
『うーん、甘いものと…お兄ちゃんのことが大好きなのは分かるんだけど』
「おれにケンカ売ってる?」
唐突なノロケを聞かされて反射的に返すと、電話口からクスクスと笑い声が聞こえた。

『ふふ。クウトくん、お姉ちゃんが結婚するって聞いて悲しんでないかなって不安だったけど、元気そうだね?』

…やられた。わざとセカルの名前を出して反応を見られた。
タキに試されたのだと気付き、聞こえるように舌打ちする。
「茶化すために電話してきたなら、切るぞ」
『待って待って!お買い物の日決めなきゃ。クウトくん、いつがいい?』


*****
買い物の帰りの夕方。歩きながら、タキと話をしていた。
楽しそうに話すタキの横顔を見ながら、ふとした疑問が口をついて出た。

「お前、まだおれのこと好きなの?」

タキは立ち止まり、驚いたようにおれの顔を見上げた。
出会った頃は、タキが小6でおれは中2だった。おれが大学生になった今は、随分と身長差がついた。
タキは少し困った顔をする。
「好きは好きだよ?でも、恋愛感情とはまた違った『好き』かなあ…。クウトくんと居ると安心して、居心地が良いの」
「普通、こんなに無下に扱ってくる男のことそう思わないぞ?」
「クウトくんは私のこと大切にしてくれてるってば。前にも言ったよね?」
タキはちょっと膨れてみせた。

「それはお前が勝手にそう捉えてるだけで…」
「ううん!クウトくんは根っこが優しい人だもん」
「じゃあ表面上は優しくないってか?」
タキは少しだけムッとした顔をした。
「そうやって揚げ足取るのはよくない所だよ」
ハッキリ、それでいてやんわり叱るようになったタキは、成長したなと思う。

「こんだけ言いたい放題言われて、愛想尽かさないのは凄いと思うぞ」
「私、我慢強さは自信あるから」
「我慢してんじゃん」
「打たれ強くないと、クウトくんの隣は務まりませんから」
「無理してるならやめとけ」
「無理じゃないよ!」
タキが珍しく大きな声を出した。ハッとして、恥ずかしそうに口を押さえた。

「私、お兄ちゃんとお姉ちゃんがケンカしてるの羨ましかったんだよね」
「ケンカ?何でまた」
「私はお兄ちゃんとケンカしたことないから。お姉ちゃんともしないし」
そう言われて納得した。そもそもタキが人と言い争う姿が想像出来ない。

「お前、人とケンカすることあるの?」
「クウトくんだけかな」
「おれはお前とケンカしてるとは思ってないけど?」
「クウトくんにとってはそうかもしれないけど、私にとっては言い合い出来る唯一の人なの。特別なんだよ」
「ふーん」
「今、ちょっと照れた?言い返す言葉が思い浮かばなかったでしょ」
タキが少し笑う。

「…お前さあ、性格悪くなったよな」
「誰かの影響を受けちゃったみたいで」
タキはそう言いながら、おれの顔を見て微笑んだ。
「教育方針間違えたわ」
「じゃあ、もう少し言い方に気を付けてくれると嬉しいな?」
「それは無理ですー」

おれが歩き出すと、「もうっ!」と小声で言いながらタキがついてきた。
タキも言うようになったなと思いながら、カイトとの姉弟喧嘩とは比べ物にならない穏やかな言い合いをしながら帰った。


タキのマンションの前で、立ち止まって話をする。
「クウトくん、これからもよろしくね?」
「…まあ、カイトとセカルが結婚して義理兄妹になるから、縁は切れないだろうな」
「うん、嬉しいな。ずっと一緒だね」

タキが笑顔で言ってきた言葉に引っ掛かり、思わず口を出す。
「もしも、さ」
「うん?」
「おれ以外に好きな人が出来たら、迷わずそっち行けよ」
タキはじっと、おれの顔を見つめてきた。

「…クウトくんにとっては、その方がいいの?」
「お互いのために、だろ」
その言葉を聞くと、タキは下を向いた。
「クウトくん以上に良い人なんて想像出来ないよ」
「他に良い奴なんていくらでも居る」
「そうかなあ」
「そうだよ」

少し沈黙があってから、タキが顔を上げて口を開いた。
「…もしも良いなと思う人が出来たら、クウトくんにお話するね」
「何でおれに?」
「私のお義兄ちゃんだから。私のこと任せられる人かどうか、見極めて貰わないと」
タキが微笑みながら言った。

ああ、見たことがある。おれが振った時、同じ顔で微笑みながら涙を流していた。
『お義兄ちゃん』なんて呼んで、わざわざ自分で線引きしやがって。
…強くなったよお前は。

おれは分かりやすくため息をついた。
「おれの査定は厳しいぞ」
「そうだね。セカルお兄ちゃんくらいのレベルじゃないと、クウトくんのチェックは通らないもんね」
「そこであいつの名前出す?」
おれがよっぽど渋い顔をしていたのか、タキは見るなり笑い出した。
「嫌がると思った。お兄ちゃんのこと、誰よりも認めてるのはクウトくんなのにね」

楽しそうに笑うタキを見て、おれはウンザリしながら呟いた。
「お前、良い性格になったな…」
「クウトくんほどではないです」
2年前までは見ることのなかった、イタズラっぽい顔で笑い返された。


-------------------
【結婚祝い】2022.9.1
(セカル社会人1年目、カイト大学卒業、クウト大学2年、タキ高校卒業で3月)

セカルとカイト宅にクウトとタキが来る。
セカルとカイトの入籍と、タキの卒業祝いパーティー。

「いらっしゃーい!待ってたよ!」
玄関でカイトが笑顔で出迎える。
「お姉ちゃん!結婚おめでとう!」
「ありがとーっ!タキちゃんも卒業おめでとー!」
「ありがとう!」
手を取り合ってはしゃぐ二人を見て、セカルが微笑みながらツッコむ。
「盛り上がってるところ悪いけど、後ろでクウトがつかえてるぞ」
「あ!ゴメンねクウトくん」
「いつまで気付かないかと思った」
クウトがやっと入ってきて扉を閉めた。
「クウトもよく来たわね!」
「連れてこられただけですー」
「もう!じゃあその手に持ってるお土産は何?お祝いでしょ」
「タキに持たされただけですー」
「クウトくんも選んでくれたよ?」
「タキちょっと黙って」
見かねたセカルが再び声をかける。
「お前ら、玄関で話すのやめろ。部屋入れ」
「はーい」

乾杯の音頭をカイトが取る。
「それでは、あたしとセカルの入籍祝い、タキちゃんの高校卒業祝いと誕生日祝い、あたしの大学卒業祝い、クウトは何もないから…遅い二十歳祝いってことにしとこっか!」
「おれは無理矢理入れなくていいから」
クウトが嫌そうな顔で言う。
姉弟の言い合いが始まると、タキがセカルに向かって小声で嬉しそうに呟く。
「私2つもあった」
「良かったな」
セカルが微笑む。
「お兄ちゃんは1つだけど、一番大きいお祝いだね。おめでとう」
「ありがとう。タキのおかげだよ」
「私?何もしてないよ」
「タキとカイトが仲良くなったから、オレもカイトとの将来を考えるようになった。だから結婚することになったのはタキのおかげ」
「そっか…えへへ、嬉しいな」
タキが照れて目線を外し、持ったグラスを見つめる。
「そこの兄妹、二人の世界から帰ってきてもらってもいい?」
じっと見ていたクウトが文句を垂れる。
「お前らもじゃねーか」
セカルがツッコむと、カイトが発声した。
「じゃあ準備はいい?グラスを持って!カンパーイ!」
4人でグラスを合わせた。

「なんでタキの誕生日と入籍日合わせたの?」
食事中、クウトが尋ねた。
「大好きなタキちゃんの誕生日なら、絶対にみんな忘れない日でしょ?」
カイトがさも当然そうに言った。
「出たよタキガチ勢」
クウトはウンザリしながら、缶チューハイを開ける。
「二人の大切な記念日と私の誕生日が一緒だなんて、すっごく嬉しいよ!」
「あたしも~タキちゃんにそう言ってもらえて嬉しい~」
タキの笑顔に、カイトがデレデレとする。
「セカルのことだから、他にも理由あるんでしょ?」
クウトがセカルに向かって尋ねた。
「カイトが卒業してからってのが最優先だったな。それを踏まえて、タキの誕生日だと良いなって二人で話して決めた」
「ふーん」
「あとは就職してから名字変更の手続きをするのは手間だから、カイトが就職する前の3月中にしようと思った」
「うわー効率優先。社会人になるとこうなるのか~やだやだ」
「お前も数年後にはこうなるんだよ。覚悟しとけ」
クウトの煽りに対して、セカルがビールを飲みながら言った。


-------------------
【大学】2023.9.4
(クウト大3、タキ大1で8月)

『クウトくんの大学に遊びに行きたい』
電話越しにそんなことを言われた。
「は?却下」
『女子大に入っちゃったからさ、共学のキャンパスに憧れがあるんだよね』
「だから?」
『だから夏休みのキャンパス、案内してほしいな?』
「却下」
『早いなあ。じゃあ何ならいいの?』
「何ならって何だよ?」
『私はクウトくんと遊びたいんだけどなあ』
「無理」
『じゃあ4人で遊ぶ?お兄ちゃんとお姉ちゃんと』
「それはない。新婚ラブラブバカップルに近付きたくない。バカがうつる」
『アハハ!クウトくんは頭いいから大丈夫だよ』
「この会話の流れで、そのフォローはおかしいんだわ」

取り留めのない会話をし、夜も更けていく。

『そっちに行く用事があるから、会えたら嬉しいな』
「ハイハイ」
『もー、本当に行くからね。ちゃんとそのつもりでいてよ』
「うるせーな」
『じゃあクウトくん、おやすみ』
「おー」

通話を切った。
クウトはゴロンとベッドに寝転んだ。

この関係は何だろう。何と呼べばいい?
名前をつけることが出来ずにいた。


一方的にタキが約束を取りつけ、会うことになった。
駅でクウトが迎える。

「クウトくん!久しぶりだね」
タキがニコニコで駆け寄ってくる。
「うるさい。声がでかい」
「ゴメンね。嬉しくて」
クウトの文句を軽く受け流す。
クウトが歩き出すので、タキもついていった。

大学キャンパスを二人で歩く。
「大学見ても楽しくないぞ」
「普段どんなところで生活してるか、見るのが楽しいんだよ」
「興味ねーな」
「そう?私は興味いっぱいだなー」
タキは楽しそうに周りの建物を見渡す。

「夏休みだね」
「そうだな」
野球、ラクロス、運動部の面々がグラウンドを走っている。
「クウトくんは何かやらないの?」
「おれは別に」
「サークルには入ってるでしょ」
「どうでもいいだろ」
「やだ!絶対何部か見つけるんだから」
意気込むタキの隣で、クウトがため息をついた。

食堂で昼食を食べながら、
「で?他に行きたいところは?」
クウトが訊ねる。
「うーん、クウトくんのオススメは?」
「…この辺だと、鳥居が有名」
「神社?」
「ああ」
「クウトくんは行ったことある?」
「まあ」
「どう?」
「どうって…観光スポットなだけあるよ。綺麗に整備されててさ。客が多いのがめんどいけど」
「そっかあ。嫌じゃなければ見に行きたいな」
「嫌って言ったら?」
「もう!やっぱり嫌でも何でも見に行きたいです!」

何十にも重なって見える鳥居を見て、はしゃぐタキ。
辺りは暗くなってきた。

「お前、宿は?」
「え?」
タキは少し困ったように小首を傾げる。
「…オイ」
クウトが察して、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「…すみません。泊めてもらおうと思ってました」
「却下だ」
「そこを何とか!」
「何ともならねぇよ!」
「してください!」
タキが手を合わせてぎゅっと目を瞑る。
「お前なあ…」
クウトは盛大なため息をついた。

「わー!ここがクウトくんのおうち!」
タキはキラキラとした顔で部屋を眺める。
「最初からこれが目的だったな?」
「何が?」
タキはいたずらっぽく笑った。

「お詫びにご飯作りますから」
帰宅前にスーパーに寄って買ってきた食材を、テキパキと台所に並べる。
「お前がセカルの妹だったなって痛感してる」
「どういうこと?」
「兄妹揃って、胃袋掴もうって手法が一緒」
「やだなあ。二人ともお料理が好きなだけです。クウトくんは、自炊してそうだね」
タキは冷蔵庫を開けながら話す。
「大したことはしない」
「お米もあるし、きちんと食べてそうで何よりです」
「母親か?」
「クウトくんのお母さんは、あんまり気にしないタイプじゃない?」
「そうだけども」
タキの発言に、コイツはどこまで分かってんだ…?と怖くなった。

晩ご飯を終え、食卓を片付けた。
時刻は21時を回っていた。

クウトがぽつりと呟く。
「…何で来た?」
「え?」
「何しに来たんだって聞いてんだよ」
「何しに…?クウトくんと遊びたいから来たって感じかな」
「…お前さ、いい加減諦めたら?」
クウトが言い放った。
「何でおれなの?他の奴に目を向けろよ。お前なら、選べるくらいにいくらでも男が寄ってくるだろ」
「そんなことないよ。それに、クウトくんとそういう風になりたいわけじゃ…」
「この後に及んでそういうこと言う?」
クウトが自分の頭をくしゃりと掻いた。
「お前、全然諦めてねーじゃん。態度に出てんだよ」

タキが唇を噛み締めた。
「…だって、小さい頃から好きなんだよ?そう簡単に変われるわけないよ。私はクウトくんをお兄ちゃんとして見たことない」
「それでも…おれはお前をそういう目で見れない」
「どうしたらいい?どうしたら、私は妹じゃなくなるんだろう…」
「んなこと言われても」
「セカルお兄ちゃんの妹じゃなかったら、カイトお姉ちゃんの弟じゃなかったら…関係なく出会えてたら、違ったのかな」
下を向くタキを見ながら、クウトは頭を掻いてため息混じりに話す。
「…そしたらさ、多分こんな風に関わりを持つこともなかったと思う」
「そうだよね…弟と妹だったから、こうしてお話するようになったんだもん。今更、たらればの話をしても仕方ないね」
タキは困ったように笑った。
タキと目が合い、クウトはそっぽを向いた。

「私、クウトくんには嫌われてないと思うんだけどな」
タキがぽつりと呟いた。
「その自信はどこから来るんだよ」
「クウトくんの態度から、かな」
タキが薄く微笑んだ。クウトはムッとする。
「お前のそういう所、嫌いだわ」
「嬉しいなあ。好きの反対は無関心だよ。嫌いって言ってもらえるってことは、意識されてるってことだもん」
「それ、ポジティブすぎねーか?」
クウトの怪訝そうな顔を見て、タキは目を細めた。
「ふふ…クウトくんと長く一緒に居るから、分かるんだよ」
「何が?」
「さあ、何でしょうね」
タキは穏やかな声色で話しながら、顔を伏せた。


「…ごめんなさい」
しばらくして、タキは顔を伏せたまま言った。
「クウトくんの気持ちを考えずに、押し掛けちゃったことは反省してます。そうしてでも、会いたかった…です」
クウトは小さくため息をついた。
「別に、今更叱ろうとは思ってない」
「うん、ありがとう」
「でも別に何もねーからな。お前は姉の旦那の妹。親族。それ以外の何者でもない」
「…はい」
小さく返事をしたタキを見て、ふー、と息を吐いた。
「こんだけ言ってもへこたれない根性は認めるけどさ、その能力を他に使えよな」
「うーん、それなりに世渡りは上手く出来てると思うんだけどな」
「おれとの接し方が下手」
クウトが一蹴した。
「それは困っちゃうな」
「勘弁してくれよホント。何かあったら怒られるのおれなんだからな」
「何か?」
タキが聞き返す。
クウトはタキを一瞬見て、すぐに視線を逸らした。
「何でもねーよ」
クウトは冷蔵庫を開けてお茶を取り出すと、バタンと閉めた。



↓総集編2に続く
▼クウタキまとめ2

ストーリーページへ戻る
PR
Clear