クウタキまとめ2
【2023.11.6】
▼クウタキまとめ1(小中学生~大学生)
1から読んでください。
記事が長すぎて保存できなかったため、2分割しました。
クウタキまとめ続き。成長した二人の心の揺れ動き。大人向けです。
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【パーティーの誘い】2022.9.19
(クウト大4、タキ大2で12月)
大学の施設の構内で開かれるクリスマスパーティーのパートナーに、クウトがタキを呼ぶ。
クウトは緑掛かったジャケット。タキは赤いドレス。
「クウトくん、カッコいいね!」
「別に」
「私はどうかな?」
タキがスカートを摘まんで、くるりと回った。
「変じゃない」
「良かった」
直接の褒め言葉は使わないクウト。
よく理解しているタキは喜んだ。
「クウトくん、呼ぶの私で良かったの?」
「知ってんだろ?他にいないから。おれに一番近い位置に居るの、お前なんだよ」
「そっか。嬉しいな」
笑顔を見せるタキから、クウトは目を逸らした。
「今年は来いって言われて面倒だっただけだ。適当にやり過ごして帰るぞ」
パーティー会場で、同級生の男子に話しかけられる。
「クウト!お前散々彼女いないって言ってたじゃねーか!誰だよその可愛い子は!?」
「義理の妹」
クウトが面倒くさそうに、スマホを操作しながら答える。
「こんばんは!名前なんて言うの?」
「タキです…」
男子に聞かれたタキは、おずおずと答える。
「相手しなくていいから。てめーはあっち行け!」
「なんだよ冷たいな!あ、いつもか!」
「うるせぇ!」
タキはしばらく、クウトと友達のやり取りを眺めていた。
二人になった時に、ポツリとタキが呟く。
「クウトくんって、お友達にもそういう態度なんだね」
「は?」
スマホを見ていたクウトは顔を上げた。
「私や家族だけじゃなかったんだなって思った」
「だから何だよ?」
「私にだけ冷たいこと言ってるわけじゃないんだなって分かって安心したの」
「あっそう」
タキが微笑むので、クウトがそっぽを向いた。
クウトの下宿のアパートに帰宅する。
「あー…あの野郎、むちゃくちゃ注ぎやがって…」
「クウトくん、結構飲んでたよね。大丈夫?」
「別に…」
「顔赤いよ?」
「大丈夫だって言ってんだろ」
クウトが上着を脱いでイスに掛けた。
そのままイスに座り込む。片手でネクタイを緩め、テーブルに突っ伏した。
「お風呂入れる派?シャワーだけにする?」
「入れなくていい」
「分かった。コップこれでいい?お水飲みなよ。冷蔵庫開けるからね」
「勝手にしろ」
タキは水を入れると、クウトに差し出した。クウトは一気に飲み干す。
「お姉ちゃんがお酒弱いから、そうかなーと思ってたんだけど。クウトくんもあんまり強くないんだね」
「…んなことねぇ」
「顔、真っ赤になってる」
タキがふふふ、と笑う。
ふいに、クウトがタキの頬に手を伸ばした。
「クウトくん?酔ってる?」
クウトの顔は赤く染まっている。真っ直ぐにタキを見つめる紫の瞳には、熱いものを感じた。
タキは息を飲んだ。
「タキ」
「…はい」
「簡単に男の家に上がるなよ」
「クウトくんのお家だから、だよ?」
「おれも含めてダメだって言ってんの」
「どうして?」
クウトが黙ったので、タキは顔を近付けた。
「…誰も見てないよ」
「…だから何だよ」
「クウトくんの好きにしていいよ」
クウトがビクリとする。
「良くねぇだろ…」
「いくじなし」
タキが顔を寄せ、クウトの唇に口づけた。
クウトは驚きはしたものの、タキを突き放そうとはしなかった。
しばらくしてタキが口を離した。
タキの白い肌が、赤みを帯びている。間近に見た赤い瞳には、クウトの姿が映っていた。
クウトを見つめ、タキが静かに呟いた。
「クウトくん…好きだよ」
クウトは立ち上がってタキの肩を掴み、壁に押し付けた。
タキが驚いて声を上げる。
「クウトくん…!?」
頭1つ分ほど違う身長差で、タキはクウトの顔を見上げる。照明の逆光で、クウトの顔には暗い影が落ちた。
「…どうして、」
クウトが呟いた。
「どうしてお前はおれの中に踏み込んで来んだよ!?」
クウトの叫びに、体を強ばらせるタキ。
それでも声を絞り出して言った。
「…クウトくんが好きだから」
タキの答えに、さらに声を荒げる。
「それには応じられないって言っただろ!」
「クウトくんはそう言うけど、行動は全然伴ってないじゃない!どうして私のこと大事にするの?もっと冷たく突き放してくれたら、諦められるのに…」
タキが声を震わせて下を向く。
泣いているのが分かり、クウトはタキの肩を掴む力を緩めた。
少しの間沈黙してから、クウトが口を開いた。
「…悪い、怖かっただろ」
クウトがタキの肩から手を離した。
「ううん、クウトくんは優しいから。そうやってすぐに心配してくれるの、やっぱり好きだな」
タキは涙の流れる顔で、笑ってみせた。
クウトは心臓を鷲掴みされたように感じた。
「タキ」
「はい」
「嫌だったら拒んでくれ」
クウトがタキを抱き締めた。
「…嫌じゃないよ」
タキはクウトの腰に腕を回す。
「ごめんね。クウトくんが悩んでるの分かってるのに、私がずっと周りから離れようとしないから」
「…いや、こんな態度のおれに、ずっとついてきてくれるお前は凄いよ」
「それはクウトくんが、私のことを真剣に考えてくれる素敵な人だからだよ」
タキがクウトの背中をさする。
「タキ」
「はい」
「…ここから先は、おれのどうしようもない感情ぶつけるから。今からでも、嫌なら逃げてほしい」
「クウトくんが望むのなら、私は何にだって応えます」
タキがニッコリと笑うので、クウトは泣きそうになりながら顔を歪めた。
翌朝、ベッドでクウトが目覚める。
腕の中ではタキが眠っていた。
服は身につけてない。
少し寝顔を眺めてから、クウトは起き上がった。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、タキが体を起こしていた。
クウトに気付いて、掛け布団で体を隠す。
「…どっか痛いか?」
「…ううん、大丈夫。クウトくん、おはよう」
「…はよ」
返事が返ってくると、タキは微笑んだ。
「電車、何時のがあるかな」
タキが話しかける。
会話しながらクウトが家の鍵を掛けて出ようとすると、よく知った声が聞こえてきた。
「え!?何でタキちゃんがいるの?」
クウトとタキが驚いて声がした方向を見ると、カイトがいた。後ろにはセカルも。
旅行ついでに、サプライズでクウト宅に寄ったというカイトとセカル。
「へー。パーティーのパートナーにタキちゃんを誘ったの。へー」
「何だよ。他に誰もいなかっただけだよ」
ニヤニヤ顔のカイトと、ウンザリ顔のクウトが並んで歩きながら会話する。
その様子を、後ろからセカルとタキが見ながら歩く。
「楽しかったか?」
「うん。ご飯もとっても美味しかったよ」
笑ったタキの顔を、セカルはじっと見つめた。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっと元気ないのかなと思って」
「疲れちゃったのかな。帰ったら休むね」
細かな変化によく気付くセカル。
タキは微笑んで隠し通した。
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【春休み】2023.5.5
(クウト大4、タキ大2で2月)
クウトの下宿をタキが訪問する。
「来ちゃった」
ニッコリと笑うタキとは対照的に、クウトはげんなりとする。
「何が『来ちゃった』だよ…」
クウトがドアを閉めようとするので、タキは慌てて両手でドアノブを引いた。
「待って待って!冗談だってば!」
「冗談なら、居るはずのない女が見えるのは幻だな」
「ごめんなさい、冗談だけど冗談じゃないです!遠路はるばる来ちゃいました!あのね、クウトくん聞いて!」
クウトが蔑んだ瞳で見る。
しかし、何年もクウトに冷たくあしらわれ続けたタキは、そんな目線には動じない。
「泊めてほしいな?」
えへ、と笑ってみせた。
クウトは舌打ちして、玄関に置いてある時計をチラリと見た。
…時刻は20時。
クウトは盛大なため息をついた。
ああ、タキの計算通りだ。
こんな夜中に外に放り出すわけがない、そう思われての訪問なんだと。
「お前さあ、断られたらどうする気だったんだよ」
タキを部屋に上げ、文句を垂れる。
「クウトくんは断らないよ?」
タキが当然のように言うので、クウトの眉間のシワが深くなる。
「おれが留守の可能性だってあるだろ」
「その時はこっちに居る友達が何人か居るから、声かけたらいいかなって」
「あー、その女神だか聖母だかのキャラで、人の信用をかっさらってるお前なら、誰からも断られないだろうからなー」
「そういうクウトくんは、全包囲にトゲトゲした対応するから、頼れる友達が限られてるんでしょ?」
クウトの嫌味にズバッと切り返すようになったタキ。
クウトが睨みつけると、タキは微笑んだ。
「クウトくんが入れてくれたから、友達に迷惑かけずに済みました」
「おれは迷惑なんですけど?」
「そうかな?嬉しいでしょ」
「嬉しくない」
タキは手を伸ばし、クウトの頬をつつく。
嫌がると思われたが、クウトは手を振り払わなかった。タキが更に笑顔になる。
「私は嬉しいよ」
「あっそう」
クウトはつかつかと部屋の奥へ入っていった。
「荷造り始めたの?」
「あー、処分しようと思って」
もうすぐ卒業して下宿を払うクウト。
部屋にはダンボールがあった。
タキはダンボールの中から、ピンクのキャラクターのぬいぐるみを見つけて手に取る。
「このぬいぐるみ可愛いね!私の髪と同じ色だ」
「クレーンゲームで適当に取ったやつだよ」
「ずっとお部屋に置いてあったの?」
「あげる人もいないし、捨てるのもめんどいしで置いてあっただけ」
「ふーん」
タキはぬいぐるみを見る。このピンク色を見て、クウトが自分のことを思い出していたかも?と淡い想いを浮かべた。
きっと言葉にするとクウトは反発するだろうから、飲み込んだ。
「捨てちゃうなら欲しいな?」
タキがぬいぐるみを抱き、ぬいぐるみと一緒に首を傾げてみせる。
「勝手に持ってけば?」
タキの仕草に知らん顔しながら、クウトが返事をした。
「やったあ!」
「ホコリっぽいからあんま触んな。持って帰ったらちゃんと洗え」
クウトのちょっとした気遣いを感じ、タキはフフフと笑った。
「…お前さあ、布団どうする気?」
タキがキョトンとする。
「クウトくんが入れてくれると思って」
クウトは深いため息をつく。
「何で当然のように言うんだよ…この前のだって事故だろ」
クリスマスに一線を越えたことを、お互いに思い出す。
「私は事故じゃないつもりだったけど?」
ピシャリと言い放ち、真剣な眼差しを向けるタキを見て、クウトは少し狼狽えた。
「何でそう…」
「私は本気だよ?クウトくんだって、半端な気持ちでやったわけじゃないでしょ?」
タキはじっとクウトを見る。
クウトは目を逸らせなくなり、小さく息を吐いた。
「とんでもない女に捕まったな…」
「しつこくてすみません」
「いいよ。知ってる」
クウトはタキの頬に手を添えた。
ハッとしてタキは手でガードした。
「…何で?」
途端に声のトーンが下がったクウトに、タキが焦る。
「お風呂は入りたいなあ…」
タキが目を泳がせる。
「別にやるって言ってねぇし」
クウトは唇を尖らせた。
「だってそういう流れだったから…」
ちょっと赤くなるタキを見て、クウトは明後日の方向を見た。
「…カイトとセカルは死ぬほどやってるんだろうな」
「それは…夫婦になったし、一緒に住んでるからね」
クウトが黙って少し間が空いたので、タキが切り出した。
「クウトくんもたくさんやりたいの?」
「は?」
クウトがすっとんきょうな声を上げる。
「私はいくらでも付き合うよ!」
タキはぐっと握りこぶしを作って意気込む。
「あのな、体育会系のカイトは体力あるからまだしも、お前の細い体で何回も出来るかっての」
「頑張ります」
頬を赤らめたままのタキを見て、クウトもつられて赤くなる。
「頑張らなくていい。無理すんな」
「してないです」
「してる」
言い合いが続き、クウトがため息をつく。
「いいからさっさと風呂行ってこい」
「…はい」
タキもおかしな話題で言い争って居たたまれなくなったのか、スッと立ち上がって荷物から着替えを探し始めた。
タキが風呂場に行くと同時に、クウトは上着を着て財布を持った。
家を出て、コンビニへ向かう。
「常に在庫持ってると思うなよ…」
誰にも聞こえない小さなぼやきは、冬の寒空へ消えていった。
クウトが帰宅しても、まだタキが風呂から出ていなかったことに安堵する。
そそくさとパッケージを開けておく。
正直、タキとやらなければこういった行為とは無縁だったと思う。
姉のことが好きだ。自分でも馬鹿げてると思う。そう思うのに、他の女を好きになろうなんて気は起こらなかった。
叶うはずのない欲望を心に秘めて、姉と旦那を見ないようにするために遠くの大学を選んだ。
それなのに、旦那の妹がおれのことを好きだと追いかけてきた。
…わけ分かんねぇもんだな。
「お待たせしました」
タキが上がってきた。頭に掛けたタオルから、水気を帯びた髪が垂れていた。
「洗面所からドライヤーこっちに持ってこい。その間におれ入るから」
「はーい」
とたとたと風呂場に戻るタキを見て、こういう何気ないやりとりは長年の付き合いの賜物だな…と思うクウトだった。
クウトが風呂から上がると、タキがベッドに腰かけていた。
「お待ちしてました」
「してなくていい…」
クウトはそっぽを向いた。タキが笑う。
「クウトくんの好きにしてください」
「…お前ホントに他の奴とはやってないんだよな?」
クウトの質問に驚いて、タキがぶんぶんと首を振る。
「クウトくん以外にこんなことしません!」
「あまりに積極的だから、慣れてるように見えるんだよ」
「全然そんなことないよ…。ちょっと強引にいかないと、クウトくんには逃げられちゃうから」
タキが下を向く。恥ずかしさや申し訳なさを煽ってしまったと感じ、クウトは失敗したと思った。
申し訳なくなり、タキの頬に手を伸ばした。
「…ゴメン」
クウトが謝るのを聞いて、タキが顔を上げる。至近距離で目が合った。
「…クウトくんが謝ることじゃないよ」
「謝るだろ。お前の気持ちにずっと応えずにいたのはおれなんだから」
「クウトくんの気持ちを考えずに、私が押し掛けちゃっただけだよ」
「…今は結果、良かったと思ってるよ」
クウトの言葉に、目をパチクリとさせるタキ。
「それって…」
タキの言葉を遮り、クウトが口付けた。
触れるだけのキスを何度かした後、クウトがタキの唇を割る。
タキはそのまま舌を受け入れる。
角度を変えながら啄み、タキの体をベッドに押し倒した。
しばらくして顔を離すと、熱っぽい顔でタキが笑った。
「クウトくんがキスしてくれるの嬉しいな。もし体だけスッキリしたくてやるのなら、キスはしなくていいもの」
クウトは目を細める。
「…キスした方が雰囲気出るだろ。それだけだ」
「そっか」
タキは静かに笑う。
「クウトくん、好きだよ。クウトくんはどうかな?」
タキの問いかけに、クウトは息を飲む。
「…今は、分からない」
「分かった。答えが出るまで待ってるね」
タキが微笑んだ。クウトはもう一度口を付けた。
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【母】2022.9.19
(クウト大4、タキ大2で2月)
クウトの就職前の春休み。
下宿を払って実家に戻っていたクウトに、タキから連絡が来る。
『うちに泊まりに来ない?』
「お母さん、夜勤でいないの」
タキの家に着くと、そう言われた。
つまりそういうことだよな、とクウトは思う。
「…だからってお前、簡単に男を家に上げるなってば」
「クウトくんだからです」
前にも聞いたことのある台詞を繰り返された。
学校の話、就職の話、引っ越しの話などをしていると、夜も更けてきた。
「お風呂沸いたよ」
「ああ。先入っていいのか?」
「どうぞ」
タキがニッコリする。
クウトが風呂から上がると、タキが焦った顔で駆け寄ってきた。
「ごめんね、クウトくん…その」
「え?」
濡れた髪をタオルで拭きながら顔を上げると、タキの母が立っていた。
「お母さん、夜勤の予定が変わったみたいで…」
タキが申し訳なさそうに下を向く。
いたたまれず、クウトが母に挨拶する。
「その…こんな格好ですみません。カイトの弟のクウトです。お邪魔してます」
「ご無沙汰してます。カイトちゃんの結婚式以来ね。ごめんなさいね、タキが呼んだんでしょ?」
「そう!そうなの!私が無理言って…」
「来たのはおれだから。すみません、お邪魔なら帰りますんで」
「そんな。ゆっくりしていってちょうだい」
母はタキと似た顔でにこやかに笑った。
しばらく3人でテーブルを囲って談笑した後、タキが風呂へ向かった。
タキに部屋へ行くように言われたクウトだったが、母のいるリビングに戻ってきた。
クウトは意を決して、母に声を掛けた。
「あの、お話させてもらっていいですか?」
クウトと母が向き合って座る。
「…おれとタキは、付き合ってはいません」
「そうなのね」
母は柔らかく相槌を打つ。
「タキはおれのことを好きだと言ってくれますけど、おれはそれに応えることが出来なくて…」
「ええ」
「こんな中途半端な気持ちで、タキと一緒にいるのは申し訳ないと思ってます」
それを聞いた母は、ゆっくりと語りかける。
「クウトくんは、タキのことで沢山悩んでくれているのね。娘とのこと、真剣に考えてくれてありがとう」
母の言葉に、クウトは息が詰まる。
「何も…お礼を言われるようなことはしてません。おれが居なきゃ、タキはもっと自由に好きな人を選べたはずなのに。おれがこんな態度だから、タキを困らせてる」
「それはクウトくんも同じでしょ?タキが居るから、クウトくんもすごく悩んでる。でもどうかな、タキと一緒にいるのは楽しい?」
母が微笑んで尋ねた。クウトは母の顔をじっと見た。
「…はい。おれはずっと、タキに支えられてきました。タキはおれにとって、かけがえのない存在だと思ってます」
「それを聞けて安心したわ。クウトくん、タキの傍に居てくれてありがとう」
クウトが唾を飲み込む。喉に熱いものが通った。
「…すみません。もっとセカルみたいに、頼りになる男になれたら良かったんですけど」
「あら、セカルのことも褒めてくれるの?クウトくんもカイトちゃんも、人を思いやれる素敵な心の持ち主で、私は大好きよ」
母は終始、笑顔で話をしてくれた。
クウトは心のつかえが溶けていくような感覚がした。
タキが風呂から出てきて部屋に戻ってきた。
「クウトくん…本当にごめんなさい」
「いいよ。おれはお母さんと話が出来て良かったよ」
クウトは本心だったが、タキは気を遣われたと思った。
「でも、その…今日は、そういうつもりで、来てたと思うから」
タキが言いにくそうに言葉を選ぶ。
クウトも少し照れる。
「まあ、それは…。でも流石にこの状況じゃ無理だろ」
「うん…」
「いいよ。別におれ、そんなにがっついてないし」
「私はしたいかな…」
「へ?」
思いがけず、クウトが変な声を出す。
タキがもじもじする。
「前にクウトくんのお家でやった時、本当に幸せだったから…」
「いや、でも今日は…」
クウトがたじたじになる。
「そっかぁ…そうだよね」
残念そうにするタキを見て、クウトのドキドキは止まらなかった。
「…えっと」
クウトが呟き、タキが次の言葉を待つ。
「おれ就職まで時間あるし、今度旅行でも行くか?」
「いいの?」
タキがパァッと笑顔になる。
「たまにはお前のこと、労ってやらないとな」
「労う?」
タキが首を傾げる。
「なんて言うかな…。おれのこと、ずっと隣で支えてくれてありがとなって…思っ……なんだよその顔は?」
タキがニンマリするので、クウトが顔をしかめる。
「今日のクウトくん、素直だ…」
タキがキラキラした顔で、クウトに近付く。
「たまにはそういう時もあるだろ…」
クウトは思わず後ずさりする。
「嬉しい!クウトくん大好き!」
タキがクウトに抱きついた。
「バカやめろ!引っつくな!」
引き剥がそうとするクウトの力は弱かった。
本気で嫌がっているわけではないと分かったタキはますます嬉しくなり、ぎゅっとしがみついた。
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【彼女】2025.1.5
(クウト社1、タキ大3で12月。付き合ってない・クウト視点)
会社の飲み会は、面倒なことこの上ない。
おれはアルコールに強くない…けど、そう言うのも癪だし、何とか適当に飲んで切り抜けるしかない。
何より一番面倒なのは…
「氷河って彼女いるの?」
男の同僚からの一声。これだ。これが一番面倒。
いないって答えれば、どの部署の誰がいいだの、紹介するだの、合コン行こうだの話をされる。
うんざりする。
おれはそういうの興味ない。好きなヤツは勝手にやってればいい。おれを巻き込むな。
はあ、と一息ついてから答えてやった。
「彼女?いるよ」
これが正解。こう答えておけば、後々面倒なことに巻き込まれなくなる。
周りの視線が集まったのを感じ、知らんぷりでジョッキのビールを飲み干した。
「え!初耳なんだけど!」
同僚が食い付いてくる。そりゃそうだ。初めて言った。
「どんな子?写真は?」
他の同僚も混ざって聞いてくる。
「ない」
おれが即答する。
「ないわけないだろ!」
「あれだ、氷河のことだから面倒くさくて適当に答えてないか?」
ご名答だよ。
「写真がないなら、見栄張って嘘ついてる線もあるな~」
周りの男共が口々に煽ってくる。
ああ、めんどくさい…。
写真…写真なんてあるわけが…?
いや、カイトの結婚式の写真が送られてきて、スマホに入ってたような?
スマホを手に取り、写真フォルダを開いてスライドさせていくと、セカルとカイトの新郎新婦の両隣にタキとおれが並んで写っている写真が出てきた。
「これ」
ぶっきらぼうに同僚にスマホを渡す。
「え、ピンク髪の子?」
「そう」
嘘だ。タキは彼女じゃない。
でもこの場じゃこれが最適解。
タキには悪いけど、職場のおれを守る盾になってもらう。
「へー可愛いなー。友達の結婚式にも一緒に行ってるんだ」
「友達じゃない」
即座に否定してしまい、しまったと思った。
友達って言っとけば、ここで話が終わったのに!
「友達じゃない?」
「…姉の結婚式」
おれは苦々しく答えた。
「お姉さんいるんだ。こっちも可愛いな~」
「見んな」
おれはスマホを引ったくった。
「お姉さんの結婚式に連れていくってことは、家族公認だよな。もう結婚間近ってこと?」
「別に…決まってない」
旦那の妹だと言えば、また根掘り葉掘り聞かれる。ここは適当に流せ。
彼女がいると思わせれば、合コンも断れるし、女を紹介するだなんだと言われなくなる、女性社員からも色目を使われなくなる…良いことづくめだ。
「オイオイ、決まってないじゃなくてお前が決めるんだろうが!」
同僚が肩を組んでくる。ウザい。酒臭い。酔ってやがる。
「あんまり彼女さん待たせてやんなよ。あ、結婚式には呼べよ!」
「こんなウザ絡みしてくるヤツは呼ばない」
おれが一蹴すると、
「そりゃないぜー!」
悲しい叫びに周りもドッと湧き、次第に話題は他の方向へと逸れていった。
家に帰り、冷蔵庫から水を出す。
コップ一杯を一気に飲み干し、リビングのイスに腰掛けて項垂れる。
ああ、飲み過ぎだ…。飲み会は嫌な話題を適当に流すために、ジョッキに口をつけることが多くなるから酒の量が増える。最悪だ。
『お水飲みなよ。クウトくん、お酒あんまり強くないんだね』
ふと、タキの姿が目に浮かんだ。
大学の時、クリスマスパーティーから帰宅して、今と似たような状況でタキが水を出してくれて…
段々と頭が回ってくる。酔いが冷めてくると、チクチクと罪悪感がした。
タキのことを彼女だと言って、嘘をついた。
どの口が言ってる?タキの気持ちを突っぱね続けてるのは、他でもないおれ自身だ。
タキの好意には応じず、都合の良い時は利用するなんて…最低だろ…。
片手で顔を覆う。
ああ、どうしていつもこうなるんだ。
人との接し方は変えられない。
ぶっきらぼうに、相手に興味なさそうに、嫌味ったらしく話すクセは、もう抜けない。
それで離れていく人がいたら、それでもいい。
でもそろそろこの態度を改めないと、大切なものも手から離してしまいそうで…
大切な、もの。
タキの顔が浮かぶ。
そうだよ。分かってるよ。
もう言い逃れ出来ない所まで来てるのは。
自分の気持ちに蓋をして、偽って。相手の優しさに甘えて。
ズルい自分が心底憎たらしい。
もう一度コップに水を注いだ。
「つめた…」
おでこに当てると、火照った顔の熱が冷めていった。
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【プロポーズ】2023.9.23
(クウト社2、タキ大4で2月)
クウトの一人暮らしの部屋に、春休みのタキが来る。
タキが台所で夕食の皿を洗っていた。
クウトはタキの後ろ姿をじっと眺めていた。
「いつまで居んの?」
「んー、クウトくんのお邪魔じゃなければ、いつまででもいいかな」
「よくねぇよ」
「やっぱり?」
タキが笑ってみせる。
「実際、長い春休みだから実家でやることもないんだよね」
「人生最後の長期休暇だぞ。もっと有効に使え」
「社会人の先輩の言葉は重みがあるなあ」
ふふふ、と笑うタキに悪態をつくクウト。
「どうせおれは明日から仕事だよ」
はー、と天を仰いだ。
「寂しいなあ。折角来たのに」
「だからだよ。構ってやれないから帰れ」
「でもさ、クウトくんの帰りを待つ…っていうのも、悪くないよね」
タキは水道を止め、手をタオルで拭いた。
クウトの方に歩み寄ってくると、ニッコリと笑った。
「…夫婦みたい、とか言うんだろ」
「そうだよ。ちょっと憧れちゃう」
「おれら、付き合ってはないからな?」
「そうなんだよねぇ…不思議な関係だよね」
タキは世間話をするような口ぶりで、微笑んだまま話す。
クウトの眉間のシワが寄る。
「…いいのか?」
「何が?」
タキがきょとんとした顔をする。
「こんなどっちつかずの関係のままでいいのかって聞いてんの」
「うーん…クウトくんに拒絶されず傍にいられるから、この関係でいいかなって思ってるけど」
それを聞き、クウトがため息をついた。
「…ゴメン」
「なんで謝るの?」
「おれがこの関係に名前を付けないまま、ズルズル来たから」
「んー、難しいよね。私達の間柄を説明するの」
タキはさらりとフォローする。
首を傾げて、考える素振りをする。
「義理のきょうだい。だけど恋愛感情があって…私から一方的だけど。体の関係もあって…でも恋人ではなくて」
うーん、とタキが悩む様子を、クウトはじっと見ていた。
「それ、なんだけどさ」
「うん?」
「そろそろ…そろそろさ、訂正しようと思って」
「訂正?」
「恋愛感情のこと」
タキが目をパチクリとさせた。クウトは静かにタキを見据えていた。
「好き…だと思う」
じっと見つめ合ったまま、数秒の沈黙が流れた。
「妹としてじゃない、情が湧いてると思う」
「…クウトくんが?私に?」
タキが静かに呟く。
「…ああ。ゴメン、ちょっと、その」
クウトが目を逸らした。
ふー、と息を吐いて、またタキに向き直った。
「ダメだ、ここで逃げるのは無しだろ…。あー、カッコわる…」
ブツブツと呟くクウトを、タキは優しげな瞳で見つめていた。
「早く言えって叱ってくれりゃいいのに…」
「今更だよ。私、何年でも待ってるから」
「…いや、これ以上待たせたらダメだろ」
クウトが覚悟を決めて、キッとタキを見た。
「好きだ。ずっと、たったこれだけの三文字が言えなかった。何年も支えてもらって…ろくに感謝も伝えられず。それでも、傍にいてくれたお前のこと、」
クウトが一息ついた。
タキの目を見て、微笑んだ。
「大切で、かけがえのない存在だと思ってる。お前無しじゃ、この先どうやって生きていけばいいか分からないくらいに。それくらい、心の中がお前で満たされちまってる」
タキは何も言わず、ただひたすらクウトの目を見ていた。
「タキ」
「…はい」
弱々しい、かすれた声でタキが返事をした。
「…泣くなよ」
「…泣いて、ないです」
その一言が合図となり、タキの瞳が涙でいっぱいになる。すぐに溢れて頬を伝った。
クウトがタキの頬に触れ、指で涙を拭った。
「…クウト、ぐん…」
「…なんだよ」
クウトが目を細めて、微笑んだ。
「大好ぎ、です…ずっとずっど、好き、です」
わんわんと泣き出したタキを、優しく抱き締めた。
「ゴメンな…本当にゴメン。何年も待たせた」
「いいの、元はと言えば、私が…ッ、うるさいくらい、押し掛け…て」
嗚咽を上げながら話すタキの背中をさする。
「そのうるさいお前に惚れたのはおれだ。結局押し負けたな」
クウトが笑った。タキを抱く腕の力を強めた。
「すごい…遠回りしたけどさ、タキと一緒にいるのが一番幸せなんだって分かった。だから、」
タキの耳元で、小さく一言。
「結婚しよう」
タキが涙でいっぱいの目を見開いた。
「え…?」
「もう1回言えってか?お前そういう所悪い奴だよな」
「ちが…!だって、いきなり、けっ結婚だなんて…!?」
何か言おうとするが言葉が出ない。パクパクと開くタキの口めがけて、クウトが唇を重ねて塞いだ。
ゆっくりと顔を離すと、クウトが柔らかに微笑んだ。
「結婚しよう。タキ。おれの隣が務まるの、お前しかいないから」
「そんなの…もちろんだよ。クウトくんの隣は、誰にも渡さないよ…」
タキはクウトの胸に顔を埋めた。
泣き続けるタキの頭を、クウトはずっと撫で続けた。
「…ところでさ」
タキの涙も落ち着いた頃、クウトがジト目で話す。
「お前、おれの近場で就職決めたろ。もう逃がす気なかったんじゃねーか」
「え?」
タキはニッコリと微笑んだ。クウトの眉間のシワが増えた。
「本当にとんでもない女に捕まったな…」
「そんなこと言わずに。私が幸せにしますから」
「逆なんだよ」
クスクスと笑うタキを見て、わざとらしくため息をつくクウト。
「やられっぱなしは癪だから、これから覚悟しやがれ」
「受けて立ちます。クウトくんの感情は、全部私が受け止めますから」
「…お前さ、冷たくされるのに慣れてるから、思いっきり愛情注いでやったら受け止めきれないんじゃねーか?」
「やってみる?」
「…気が向いたら」
「もう!そこは受けて立ってよ!」
タキがポカポカとクウトの胸を叩く。
クウトは笑いながらタキを抱き留めた。
「それで、いつまで居んの?」
「うーん…出来るだけ長く居たいな。想いも…通じ合ったし」
タキが少し照れながら言った。
クウトも罰が悪くて顔を逸らした。
「別に居てもいいけどさ、おれは仕事で居ないからな」
「うん、それは分かってるよ。日中は観光とかお買い物とかしようかな。あ、あと新しいおうちも見ないと…いけないんだけど…」
タキがクウトの顔を伺うように見る。
「出来れば…なんだけど。一緒に暮らすことって出来ないかな…?」
「え?」
突然の提案に、クウトは目を丸くする。
「折角近くに引っ越すことになったから。何なら、最初から…一緒に暮らせたらいいなって」
タキの上目遣いに、クウトがたじたじになる。
「それって…セカルと同じ手法じゃん…」
「そう言われてみるとそうだね?」
タキが笑って、ペロッと舌を出してみせた。
「お兄ちゃん達への憧れもあるかな。好き合って、すぐに一緒に暮らし始めたの」
「まあ分かる、気持ちは分かるんだけど、おれと同棲するなんて、セカルに何て説明するんだ?」
「それは正直に言うしかないんじゃない?」
タキの真っ直ぐな瞳を向けられて、クウトが怖気付く。
「いや…まだ心の準備が」
「結婚しようって言ってくれたのに」
タキは唇を尖らせてみせる。
「それはそうだけど!」
赤くなって声を上げたクウトを見て、タキはクスクスと笑った。
「ゴメンね、いきなりで困らせちゃった。でも一緒に暮らしたい気持ちは本気だから。少し後でもいいから、考えてくれると嬉しいな?」
タキが首を少し傾けて、クウトに微笑みかけた。
クウトはガシガシと頭を掻いた。
「…断られる気微塵もねーだろ。セカルの血が怖すぎる」
「それはどういう意味?」
「相手の逃げ道を無くして、外堀から埋めてく感じがそっくり」
「妹は兄を見て育ちますので」
「あーもう、とんでもない兄妹だな!」
「えへへ、お姉ちゃんもクウトくんも、捕まえちゃいました!」
タキの屈託のない笑顔に、ハー、とため息をつくクウトだった。
「…まあ、引っ越すなら始めからで、早い方がいいのは事実なんだよな。ここで一緒に暮らすには狭いし…」
クウトがポツリと呟く。
「うん?」
「いい物件あるなら考える。探しとけ」
タキがパアッと笑顔になった。
「本当?」
「条件合えば考えるってだけ。そんな期待すんな…」
クウトが言いかけたが、タキの笑顔に気後れする。
「クウトくん、ありがとう!」
「まだ分かんねーってば!」
「ううん、その気持ちが嬉しいの!」
ニコニコするタキに、「あーもう」と言いながら、頭を掻く。
「本当にお前くらいだよ…こんなにおれのペース崩す奴」
「ウフフ、嬉しいな。クウトくんにとって、特別になれるの」
「そりゃ…特別だよ。一緒に居たいって思わせるんだから」
それを聞いて、タキが固まった。
クウトがポカンとする。
「お前…マジでおれから愛情注がれるの弱い?」
「だ、だって!クウトくんが突然そんなこと言うから!」
焦るタキを見て、クウトが噴き出した。
「いやー、こんなに効果あるとは思わねーじゃん?いっつもやられてばっかだから、これからは仕返し出来るな」
「仕返しって…」
タキが少し頬を膨らませてみせる。
クウトは片手を伸ばして、タキの頬を潰した。
「お、可愛くねー顔」
「クウトくんに潰されてるからです」
むぅ、とタキが怒ってみせる。
「ん…普段は可愛いけどな」
クウトがニヤリとする。タキはますます真っ赤になる。
「もうやだ!遊ばないでよ!」
「おー可愛い可愛い」
「もう、クウトくんのイジワル!」
手をバタつかせて抗議するタキを見て、クウトは目を細めた。
「…一緒に暮らすことになったらさ、セカルとカイトに報告に行こう」
「え…」
「おれなりのケジメ。妹さんを貰いますって言わなきゃいけないしな」
「…うん」
タキは下を向いた。
クウトはタキの頭に手を乗せて、ポンポンと撫でた。
「タキ」
「…何?」
「好きだよ」
タキは顔を上げられなかった。
「ハイ…」
「急にしおらしくなるの、マジで可愛いな…」
クウトも少し赤くなる。
「からかわないでよ…」
「いや…真面目に言ったんだけど、案外その、お前の反応が可愛かったから…」
二人で顔を背ける。
恋人という肩書きに慣れるには、まだ少しかかるかもしれないとお互いに思った。
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【結婚式】2023.2.11
(クウト社3、タキ社1、セカル社6、カイト社5、セト3歳)
式が始まる前。タキは会場の廊下に立っていた。
歩いてきたクウトに手を振る。
「タキシード!カッコいいね」
タキの笑顔を見て、
「ん…さんきゅ」
クウトが少し照れくさそうに返事をした。
「お前は…」
クウトから声がかかると、タキがニッコリとした。
「似合う?」
しばしクウトが沈黙してから、意を決したように言う。
「似合ってる。可愛い。すごく」
普段は聞けないストレートな表現に、タキが固まる。
「何でそんな反応なんだよ?」
「だって…クウトくんがそんな風に言うと思わなかったから」
「言うだろ。今日くらいは…。あー…」
クウトは明後日の方向を見ながら頭を掻いてから、タキに向き直った。
「今日に限らず、これからはちゃんと言う。タキは可愛いよ。おれにはもったいないくらい。いつも真っ直ぐ笑顔を向けてくれて、どれだけ救われたか分からない…」
クウトはタキの頬に手を添える。タキは固まったままクウトを見上げていた。
ゴホン、と大きな咳払いが聞こえた。
2人が驚いて見ると、側にセカルが立っていた。
「…こんなところで、何を見せつけてんだ」
セカルに言われ、クウトが手を離した。
タキは照れつつも、普段通りを装った。
「お兄ちゃん、来てくれてありがとう!」
「タキの晴れ舞台、見ないわけにはいかないからな」
セカルが穏やかに返した。
「カイトは?」
クウトが尋ねる。
「セトのトイレに行ってる」
カイトは今や、3歳の娘のお母さん。
クウトは未だに「子供が子供育ててる」と茶化すが、カイトは幼い面を残しつつもしっかりとお母さん役をしている。もちろん、セカルの力があってこそ。
「お姉ちゃんもセトちゃんも来てくれて嬉しいな」
タキの笑顔を見て、
「後で本人に直接言ってあげな」
セカルが微笑んだ。
「セカル…あのさ」
クウトがおずおずと声をかける。
「カイトのこと、ありがと。セカルが居たから、安心して任せられた。それでタキとも出会えた」
クウトからそんな言葉が出ると思わずセカルは驚いたが、すぐに表情を和らげた。
「どういたしまして」
「あー!みんないた!タキちゃん可愛いー!キレー!」
カイトがセトの手を引きながら歩いてきた。
「お姉ちゃん!来てくれてありがとう!」
タキとカイトが抱き合う。
カイトから手を離されたセトの頭を、セカルが撫でた。
「セトちゃんもこんにちは」
「こんにちは」
タキが微笑むと、セトも挨拶した。
「クウト~今日はシャキっとしなさいよ!」
「してるだろ。目ぇおかしいんじゃない?」
いつも通りの調子の姉弟の会話を、兄妹が見守った。
「あ、そろそろ行くね。みんな、また後で!」
タキが手を振る。クウトも一緒に歩き出す。
「はーい、いってらっしゃい!」
カイトが手を振ると、セトも真似した。
「いってらっしゃ!」
カイト達が親戚の控え室に入る。
既に親戚達が集まっていた。
「あ、お義父さん」
カイトがセカルの父を見つけ、セトと一緒に駆け寄る。
「こんにちは!本日はおめでとうございます」
「こんにちは。ありがとうございます。みんなお元気そうで」
カイトが挨拶すると、父が返事をした。
「ハイ!セトー、じいじにこんにちはして」
「こんにちは」
カイトに言われてセトが手を出すので、父はおずおずとタッチした。
ギクシャクと動く父を見て、後ろでセカルが笑った。
「父さん、久し振り」
「ああ」
息子の顔を見て、固かった父の表情が少し綻んだ。
「おじいちゃん達も来られて良かった」
「そうだな」
少し離れた場所にいた祖父母を眺めながら、セカルが目を細める。
自分の結婚式をした時は、まだ十分に両親の関係が修復しておらず、父方の祖父母を式に呼べなかった。こうして招待できたことを感慨深く思った。
「おじいちゃん達に挨拶してくるよ。カイト、セト行くよ」
「はーい。お義父さん、またあとで」
カイトが微笑んだ。
式は、ホテルの高層階が会場だった。
セトがガラス張りの窓に手を当て、じっと下の道路の様子を見る。米粒のような車が走り、高いビルに囲まれている。
「怖くない?」
カイトが尋ねる。
「うん」
「ママはちょっと怖いなあ」
カイトが少し引いて、セトの様子を見守る。
後ろからセカルがスマホを構える。
「あ、パパがビデオ撮ってるよ」
セトが振り向くと、セカルがひらひらと手を振った。セトはガラスを指さす。
「高いね!」
セトが大きな声を上げた。
「そうだね」
じっと風景を見るセトを、セカルは撮り続ける。
セカルはカメラをずらす。カイトがカメラに気付く。
「どさくさであたし撮ってない?」
「娘と嫁の記録撮ってんの。赤いドレスがお似合いです」
「ありがと」
カイトが少し照れくさそうに微笑んだ。
お色直しの退場の際、二人はエスコート役にカイトとセカルを呼んだ。
ただし、カイト達の結婚式との違いを出すため、カイトがタキと、セカルがクウトと組む。
「何でだよ」
セカルのツッコミに、クウトが肩を組みながら答える。
「これからもお世話になるんでね。お兄ちゃん」
クウトにガッツリと力を入れられると、セカルが肩を組み返した。
カイトとタキは抱き合った後に、腕を組む。
4人で揃って、扉の外まで歩いた。
「ありがと」
会場を出ると、クウトがお礼を言ってセカルを離した。
「ビックリしたわ」
セカルがやれやれといった表情でクウトを見た。
「やー、でもいい思い出になったね!」
カイトが笑う。
「クウトくんと2人で考えたんだよ。お姉ちゃん達の式のお返ししたいねって」
カイトはそっかーと微笑んだ後、お腹をひと撫でした。
「あのね、まだパパ達にも話してないんだけど…」
カイトがチラリとセカルを見る。セカルは頷いた。
「2人目、できました」
クウトとタキが驚いてカイトのお腹を見る。
「え…?おめでとう!」
タキが両手で口を押さえながら、高揚した声を上げた。
「ありがとう。まだ安定期入ってないからナイショだったんだけど、今日の2人を見てたら言いたくなって」
カイトがえへへ、と笑ってみせる。
そんなカイトの様子を見てから、クウトはセカルへと目線を移した。
「何だよ?」
ジトっとしたクウトの視線に耐えられず、セカルが尋ねた。
「相変わらずだなと思って」
クウトの言葉に、
「いいだろ。ちゃんと計画通りだ」
セカルが目線を外しながら答えた。
そんな2人のやり取りを見て、タキがポツリと尋ねた。
「クウトくんは、何人欲しいの?」
「えっ!?」
クウトが目を見開く。カイトとセカルも驚いて固まった。
「こんなところで聞くな!」
慌てて声を上げるクウト。
「だってそういう話、したことなかったなと思って」
「今聞かなくてもいいだろ!ほら、時間ないから行くぞ!」
クウトは3人から顔を背け、つかつかと歩き出した。
「あ、待って!お兄ちゃんお姉ちゃん、またあとでね!」
2人に言い残してから、タキが追いかけていった。
歩くクウトに追い付くと、クウトが小さく呟いた。
「…2人」
「え?」
タキがきょとんとする。
「2人なら、セト達と同じになるだろ」
クウトはタキを見ずに話す。
それを聞いて、タキは笑顔になった。
「そうだね!」
2人で並んで歩きながら、お色直しの部屋に向かった。
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【子供】2024.2.27、中盤加筆2025.1.4
(クウト社5、タキ社3、セカル社8、カイト社7、セト5歳、リクト1歳。カイト方の祖父母宅で正月の親戚の集まり)
タキちゃんの子供はいつ見れるかね?と親戚に何気なく言われる。
タキが愛想笑いをするのにハッと気付き、クウトが口を挟む。
「おれがガキの面倒見ると思う?いらないって言ってんの。もうガキ2人もいるし」
カイトの子供を顎で指して、ダルそうな仕草を見せる。
「そういうの、おれに言うのはいいけどタキには言うな。フツーにセクハラだよ」
隣で聞いていたセカルは、クウトがフォローに入ったことに気付く。
「クウトくん、大丈夫だよ」
タキが小声でクウトを止めようとする。
「大丈夫じゃない。お前は反論しないからそういう風に言われんの。あー…」
クウトが明後日の方向を見てから…やがて意を決したように言った。
「子供いらないっておれが決めたの。子供いたら、タキのこと独り占めできないじゃん。おれはこいつと一生二人で生きてくって決めたんだよ」
そう言い放ったクウトに驚き、タキの瞳からポロポロと涙が出た。
「タキちゃん!?」
カイトがビックリして近付くが、タキはふるふると首を振った。
「大丈夫だよ、ちょっとビックリしただけで…」
カイトの娘のセトが、タキの顔を覗き込む。
「いたいの?」
「ううん、違うよセトちゃん。嬉しいの。嬉しくて泣いてるの」
タキは涙を浮かべながら、穏やかに微笑んだ。
見ていたセカルが、静かに声をかけた。
「二人とも大人になったよな」
「いやもうだいぶ前から大人だけど?」
クウトが突っ掛かる。
「ずっと中高生みたいなもんだと思ってたからな」
「いつまで子供扱いしてんだか」
「そりゃ、オレにとってはいつまで経っても可愛い妹と弟だぞ?」
セカルの言葉に、うげーと言うクウト。
「可愛いとかマジで勘弁なんだけど…」
「あたしはクウトのこと可愛いと思ったことないから!」
カイトが堂々とした態度で口を挟む。
「聞いてないし!」
クウトが突っ込む。
タキがクスクスと笑い出し、場の空気が柔らかくなった。
その後、クウトとタキはカイトとセカルを呼んだ。
「2人には話しておこうと思って…」
タキが切り出す。クウトに目配せしてから、静かに微笑んだ。
「私、流産したの」
「えっ…」
突然の話に、カイトが絶句する。
「…そうか」
無言のカイトを見て、セカルが相槌を打った。
「私が傷付くくらいなら、子供は欲しくないってクウトくんが言って…子供は作らないって、2人で決めました」
黙って聞いていたクウトが口を開いた。
「そういうわけだから、あのうるさい人達黙らせたいんだけどさ、タキがあんまり空気を乱すなって言うから黙ってんの。あんた達からも、それとなく牽制しといてもらえると助かる」
「分かった」
セカルが頷いた。
「まー、セト達見てて、おれ子供の世話出来ねーな?って思ったのもあるよ。カイトもセカルもよくやってるよ」
クウトがやれやれと、肩をバキボキ鳴らしながら言った。
「あ、でもね。私のワガママでもあるよ?子供がいなければ、クウトくんのこと私が独り占めできるから。さっきクウトくんの口からあんな風に言ってもらえて、ビックリしたよ」
タキがイタズラっぽい顔で微笑んだ。
「…なんかタキがそんなこと言ってたって思い出して、乗っかっただけだ」
「えへへ。一生二人で生きてく、とは言ってないから、そこはクウトくんの気持ちが乗ってたね」
笑顔のタキと対照的に、クウトの顔が歪んでいく。
「…そういう指摘のされ方するのムカつく」
クウトがジトッとした目でタキを見る。
「ちょっとクウト!照れ隠しで言っていい言葉じゃないでしょ!」
カイトが噛み付く。
「うるさい。これがおれらの普通なんだから、よそのお宅が口出さないでくれる?」
「タキちゃん、この男ホントに態度悪いからね!言う時はガツンと叱らなきゃダメよ!酷かったらすぐうちにおいで。あたしとセカルで絞ってやるんだから!」
カイトが叫ぶと、セカルが静止した。
「落ち着け。クウトの扱いはタキが一番上手い。タキが本当に困った時はオレらが出るけど、基本は二人のことは二人に任せとけ」
「うん。お姉ちゃんが心配してくれて嬉しいよ。でもお兄ちゃんの言う通り、大丈夫だからね」
「まあ…二人がそう言うなら…」
セカルとタキに言われて、カイトは渋々と引き下がった。
「っていうか、おれの扱いが上手いって何?」
クウトがツッコミを入れる。
「え?私がクウトくんを掌で転がすってことじゃないかな」
「…自覚があるな?」
クウトが軽く睨むと、タキが笑った。
「ほら、大丈夫そうだろ」
セカルが言うと、
「なるほど」
カイトも頷いた。
話が一段落すると、セカルが提案した。
「今度さ、タキとクウトも一緒に旅行行くか?子供も居るけど」
「いいの?」
タキがパァッと明るい顔をする。
「金はおにーちゃん持ち?」
クウトがニヤリとした顔で訊ねる。
「ああ。お兄ちゃんに任せろ」
セカルもニヤリとして答える。
「一人称お兄ちゃんやめろ、気持ち悪い」
クウトが吐き捨てた。
「お前が言ったんだろうが」
セカルが抗議する。
「つーか金はいいよ。子供に金かかってるだろ。行くならおれら自分で出せるから。大人なんだし」
クウトがそう言うと、隣のタキの表情が綻ぶ。
「わああ、お姉ちゃん達と旅行なんて嬉しい!」
「あたしも嬉しー!ねえねえどこ行く?」
タキとカイトが盛り上がって、どこに行きたいか話し始めた。
「まずは仕事の休みを調整出来るかどうかだな…」
「うわー、やっぱ大人になるって嫌だわ」
暗い話題を口にするセカルとクウトも、表情は晴れやかだった。
-------------------
【子供・続き】2025.1.5
正月の親戚の集まりを終え、深夜にクウトとタキが家に帰った。
「あー、やっと着いた。実家遠いよな…」
「そうだね。そういえば、クウトくんはどうしてこっちの大学に来ようと思ったの?」
クウトが当時のことを思い返す。
「…カイトとセカルのラブラブバカップルを近くで見たくなかったから」
「それで遠くの大学に?それもお姉ちゃん絡みだったんだ…。まさにクウトくんって感じがする」
「なんだよ」
クウトが文句を言いたげな顔をするので、タキはクスッと笑ってみせる。
「私はそんなクウトくんが大好きだけどね」
普段ならここで更にクウトの嫌味が飛んでくるはずだが、クウトは何も言わずタキの顔を見ていた。
「え…どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「目と鼻と口」
「もう、茶化さないでよ」
クウトはじっとタキを見て、フッと笑った。
「おれもタキのこと好きだなって思った」
タキは固まり、目線を逸らした。
「えっと…クウトくん、お酒たくさん飲んだっけ?」
「いや、そんなに飲んでねーかな」
「じゃあ…どうしちゃったの?」
「思ったこと口にしただけだけど?」
「だって、そんな…普段そんなこと言わないし…」
あたふたするタキを見て、クウトが噴き出した。
「おれが押すとすぐ引くんだもんな!あー可愛い!」
「あ、こらクウトくん、私で遊んでるでしょ!」
タキがクウトの胸をポカポカ叩く。
クウトは笑いながらタキの頭を撫でると、そのまま抱きしめた。
「タキ、ありがとな。おれと一緒にいてくれて」
突然優しい声色で言われて、タキの脈が早くなる。
「え…うん、わ、私も一緒にいられて嬉しいよ…」
消え入りそうな声で返事をする。クウトがタキの頬を撫でた。
「一生二人で生きてく、ってのは本心だから。悪かった、カイトとセカルの前だとちょっと嫌で…酷いこと言った」
「分かってるよ。クウトくんが本気だってこと。あ、でも私が繰り返し言った時に怒ったのはマイナスポイントです。あの言い方は良くありません」
「すみません…」
しおらしく素直に謝るクウトが可愛く見えて、タキが微笑む。
「よしよし。クウトくん反射で嫌味言っちゃうクセが抜けないから、言った後に自分で傷ついてるでしょ。大丈夫だからね。少しずつ変えていこう」
タキの言葉に、クウトが息を飲む。
「タキ…お前、ホントずっとおれのこと見てるよな」
「うん、小学生の時から見てる。今も、これからもね」
「一生頭上がんねーわ…」
「えへへ、お互い様だよ。クウトくんも私のことよく見てくれてる。ちゃんと私の中身に目を向けてくれてた。そんなクウトくんだからこそ、好きになったんだよ」
「じゃあ一緒か」
「一緒だね」
二人で顔を見合わせると、ふふ、と笑い声が漏れた。
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▼クウタキまとめ1(小中学生~大学生)
1から読んでください。
記事が長すぎて保存できなかったため、2分割しました。
クウタキまとめ続き。成長した二人の心の揺れ動き。大人向けです。
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【パーティーの誘い】2022.9.19
(クウト大4、タキ大2で12月)
大学の施設の構内で開かれるクリスマスパーティーのパートナーに、クウトがタキを呼ぶ。
クウトは緑掛かったジャケット。タキは赤いドレス。
「クウトくん、カッコいいね!」
「別に」
「私はどうかな?」
タキがスカートを摘まんで、くるりと回った。
「変じゃない」
「良かった」
直接の褒め言葉は使わないクウト。
よく理解しているタキは喜んだ。
「クウトくん、呼ぶの私で良かったの?」
「知ってんだろ?他にいないから。おれに一番近い位置に居るの、お前なんだよ」
「そっか。嬉しいな」
笑顔を見せるタキから、クウトは目を逸らした。
「今年は来いって言われて面倒だっただけだ。適当にやり過ごして帰るぞ」
パーティー会場で、同級生の男子に話しかけられる。
「クウト!お前散々彼女いないって言ってたじゃねーか!誰だよその可愛い子は!?」
「義理の妹」
クウトが面倒くさそうに、スマホを操作しながら答える。
「こんばんは!名前なんて言うの?」
「タキです…」
男子に聞かれたタキは、おずおずと答える。
「相手しなくていいから。てめーはあっち行け!」
「なんだよ冷たいな!あ、いつもか!」
「うるせぇ!」
タキはしばらく、クウトと友達のやり取りを眺めていた。
二人になった時に、ポツリとタキが呟く。
「クウトくんって、お友達にもそういう態度なんだね」
「は?」
スマホを見ていたクウトは顔を上げた。
「私や家族だけじゃなかったんだなって思った」
「だから何だよ?」
「私にだけ冷たいこと言ってるわけじゃないんだなって分かって安心したの」
「あっそう」
タキが微笑むので、クウトがそっぽを向いた。
クウトの下宿のアパートに帰宅する。
「あー…あの野郎、むちゃくちゃ注ぎやがって…」
「クウトくん、結構飲んでたよね。大丈夫?」
「別に…」
「顔赤いよ?」
「大丈夫だって言ってんだろ」
クウトが上着を脱いでイスに掛けた。
そのままイスに座り込む。片手でネクタイを緩め、テーブルに突っ伏した。
「お風呂入れる派?シャワーだけにする?」
「入れなくていい」
「分かった。コップこれでいい?お水飲みなよ。冷蔵庫開けるからね」
「勝手にしろ」
タキは水を入れると、クウトに差し出した。クウトは一気に飲み干す。
「お姉ちゃんがお酒弱いから、そうかなーと思ってたんだけど。クウトくんもあんまり強くないんだね」
「…んなことねぇ」
「顔、真っ赤になってる」
タキがふふふ、と笑う。
ふいに、クウトがタキの頬に手を伸ばした。
「クウトくん?酔ってる?」
クウトの顔は赤く染まっている。真っ直ぐにタキを見つめる紫の瞳には、熱いものを感じた。
タキは息を飲んだ。
「タキ」
「…はい」
「簡単に男の家に上がるなよ」
「クウトくんのお家だから、だよ?」
「おれも含めてダメだって言ってんの」
「どうして?」
クウトが黙ったので、タキは顔を近付けた。
「…誰も見てないよ」
「…だから何だよ」
「クウトくんの好きにしていいよ」
クウトがビクリとする。
「良くねぇだろ…」
「いくじなし」
タキが顔を寄せ、クウトの唇に口づけた。
クウトは驚きはしたものの、タキを突き放そうとはしなかった。
しばらくしてタキが口を離した。
タキの白い肌が、赤みを帯びている。間近に見た赤い瞳には、クウトの姿が映っていた。
クウトを見つめ、タキが静かに呟いた。
「クウトくん…好きだよ」
クウトは立ち上がってタキの肩を掴み、壁に押し付けた。
タキが驚いて声を上げる。
「クウトくん…!?」
頭1つ分ほど違う身長差で、タキはクウトの顔を見上げる。照明の逆光で、クウトの顔には暗い影が落ちた。
「…どうして、」
クウトが呟いた。
「どうしてお前はおれの中に踏み込んで来んだよ!?」
クウトの叫びに、体を強ばらせるタキ。
それでも声を絞り出して言った。
「…クウトくんが好きだから」
タキの答えに、さらに声を荒げる。
「それには応じられないって言っただろ!」
「クウトくんはそう言うけど、行動は全然伴ってないじゃない!どうして私のこと大事にするの?もっと冷たく突き放してくれたら、諦められるのに…」
タキが声を震わせて下を向く。
泣いているのが分かり、クウトはタキの肩を掴む力を緩めた。
少しの間沈黙してから、クウトが口を開いた。
「…悪い、怖かっただろ」
クウトがタキの肩から手を離した。
「ううん、クウトくんは優しいから。そうやってすぐに心配してくれるの、やっぱり好きだな」
タキは涙の流れる顔で、笑ってみせた。
クウトは心臓を鷲掴みされたように感じた。
「タキ」
「はい」
「嫌だったら拒んでくれ」
クウトがタキを抱き締めた。
「…嫌じゃないよ」
タキはクウトの腰に腕を回す。
「ごめんね。クウトくんが悩んでるの分かってるのに、私がずっと周りから離れようとしないから」
「…いや、こんな態度のおれに、ずっとついてきてくれるお前は凄いよ」
「それはクウトくんが、私のことを真剣に考えてくれる素敵な人だからだよ」
タキがクウトの背中をさする。
「タキ」
「はい」
「…ここから先は、おれのどうしようもない感情ぶつけるから。今からでも、嫌なら逃げてほしい」
「クウトくんが望むのなら、私は何にだって応えます」
タキがニッコリと笑うので、クウトは泣きそうになりながら顔を歪めた。
翌朝、ベッドでクウトが目覚める。
腕の中ではタキが眠っていた。
服は身につけてない。
少し寝顔を眺めてから、クウトは起き上がった。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、タキが体を起こしていた。
クウトに気付いて、掛け布団で体を隠す。
「…どっか痛いか?」
「…ううん、大丈夫。クウトくん、おはよう」
「…はよ」
返事が返ってくると、タキは微笑んだ。
「電車、何時のがあるかな」
タキが話しかける。
会話しながらクウトが家の鍵を掛けて出ようとすると、よく知った声が聞こえてきた。
「え!?何でタキちゃんがいるの?」
クウトとタキが驚いて声がした方向を見ると、カイトがいた。後ろにはセカルも。
旅行ついでに、サプライズでクウト宅に寄ったというカイトとセカル。
「へー。パーティーのパートナーにタキちゃんを誘ったの。へー」
「何だよ。他に誰もいなかっただけだよ」
ニヤニヤ顔のカイトと、ウンザリ顔のクウトが並んで歩きながら会話する。
その様子を、後ろからセカルとタキが見ながら歩く。
「楽しかったか?」
「うん。ご飯もとっても美味しかったよ」
笑ったタキの顔を、セカルはじっと見つめた。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっと元気ないのかなと思って」
「疲れちゃったのかな。帰ったら休むね」
細かな変化によく気付くセカル。
タキは微笑んで隠し通した。
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【春休み】2023.5.5
(クウト大4、タキ大2で2月)
クウトの下宿をタキが訪問する。
「来ちゃった」
ニッコリと笑うタキとは対照的に、クウトはげんなりとする。
「何が『来ちゃった』だよ…」
クウトがドアを閉めようとするので、タキは慌てて両手でドアノブを引いた。
「待って待って!冗談だってば!」
「冗談なら、居るはずのない女が見えるのは幻だな」
「ごめんなさい、冗談だけど冗談じゃないです!遠路はるばる来ちゃいました!あのね、クウトくん聞いて!」
クウトが蔑んだ瞳で見る。
しかし、何年もクウトに冷たくあしらわれ続けたタキは、そんな目線には動じない。
「泊めてほしいな?」
えへ、と笑ってみせた。
クウトは舌打ちして、玄関に置いてある時計をチラリと見た。
…時刻は20時。
クウトは盛大なため息をついた。
ああ、タキの計算通りだ。
こんな夜中に外に放り出すわけがない、そう思われての訪問なんだと。
「お前さあ、断られたらどうする気だったんだよ」
タキを部屋に上げ、文句を垂れる。
「クウトくんは断らないよ?」
タキが当然のように言うので、クウトの眉間のシワが深くなる。
「おれが留守の可能性だってあるだろ」
「その時はこっちに居る友達が何人か居るから、声かけたらいいかなって」
「あー、その女神だか聖母だかのキャラで、人の信用をかっさらってるお前なら、誰からも断られないだろうからなー」
「そういうクウトくんは、全包囲にトゲトゲした対応するから、頼れる友達が限られてるんでしょ?」
クウトの嫌味にズバッと切り返すようになったタキ。
クウトが睨みつけると、タキは微笑んだ。
「クウトくんが入れてくれたから、友達に迷惑かけずに済みました」
「おれは迷惑なんですけど?」
「そうかな?嬉しいでしょ」
「嬉しくない」
タキは手を伸ばし、クウトの頬をつつく。
嫌がると思われたが、クウトは手を振り払わなかった。タキが更に笑顔になる。
「私は嬉しいよ」
「あっそう」
クウトはつかつかと部屋の奥へ入っていった。
「荷造り始めたの?」
「あー、処分しようと思って」
もうすぐ卒業して下宿を払うクウト。
部屋にはダンボールがあった。
タキはダンボールの中から、ピンクのキャラクターのぬいぐるみを見つけて手に取る。
「このぬいぐるみ可愛いね!私の髪と同じ色だ」
「クレーンゲームで適当に取ったやつだよ」
「ずっとお部屋に置いてあったの?」
「あげる人もいないし、捨てるのもめんどいしで置いてあっただけ」
「ふーん」
タキはぬいぐるみを見る。このピンク色を見て、クウトが自分のことを思い出していたかも?と淡い想いを浮かべた。
きっと言葉にするとクウトは反発するだろうから、飲み込んだ。
「捨てちゃうなら欲しいな?」
タキがぬいぐるみを抱き、ぬいぐるみと一緒に首を傾げてみせる。
「勝手に持ってけば?」
タキの仕草に知らん顔しながら、クウトが返事をした。
「やったあ!」
「ホコリっぽいからあんま触んな。持って帰ったらちゃんと洗え」
クウトのちょっとした気遣いを感じ、タキはフフフと笑った。
「…お前さあ、布団どうする気?」
タキがキョトンとする。
「クウトくんが入れてくれると思って」
クウトは深いため息をつく。
「何で当然のように言うんだよ…この前のだって事故だろ」
クリスマスに一線を越えたことを、お互いに思い出す。
「私は事故じゃないつもりだったけど?」
ピシャリと言い放ち、真剣な眼差しを向けるタキを見て、クウトは少し狼狽えた。
「何でそう…」
「私は本気だよ?クウトくんだって、半端な気持ちでやったわけじゃないでしょ?」
タキはじっとクウトを見る。
クウトは目を逸らせなくなり、小さく息を吐いた。
「とんでもない女に捕まったな…」
「しつこくてすみません」
「いいよ。知ってる」
クウトはタキの頬に手を添えた。
ハッとしてタキは手でガードした。
「…何で?」
途端に声のトーンが下がったクウトに、タキが焦る。
「お風呂は入りたいなあ…」
タキが目を泳がせる。
「別にやるって言ってねぇし」
クウトは唇を尖らせた。
「だってそういう流れだったから…」
ちょっと赤くなるタキを見て、クウトは明後日の方向を見た。
「…カイトとセカルは死ぬほどやってるんだろうな」
「それは…夫婦になったし、一緒に住んでるからね」
クウトが黙って少し間が空いたので、タキが切り出した。
「クウトくんもたくさんやりたいの?」
「は?」
クウトがすっとんきょうな声を上げる。
「私はいくらでも付き合うよ!」
タキはぐっと握りこぶしを作って意気込む。
「あのな、体育会系のカイトは体力あるからまだしも、お前の細い体で何回も出来るかっての」
「頑張ります」
頬を赤らめたままのタキを見て、クウトもつられて赤くなる。
「頑張らなくていい。無理すんな」
「してないです」
「してる」
言い合いが続き、クウトがため息をつく。
「いいからさっさと風呂行ってこい」
「…はい」
タキもおかしな話題で言い争って居たたまれなくなったのか、スッと立ち上がって荷物から着替えを探し始めた。
タキが風呂場に行くと同時に、クウトは上着を着て財布を持った。
家を出て、コンビニへ向かう。
「常に在庫持ってると思うなよ…」
誰にも聞こえない小さなぼやきは、冬の寒空へ消えていった。
クウトが帰宅しても、まだタキが風呂から出ていなかったことに安堵する。
そそくさとパッケージを開けておく。
正直、タキとやらなければこういった行為とは無縁だったと思う。
姉のことが好きだ。自分でも馬鹿げてると思う。そう思うのに、他の女を好きになろうなんて気は起こらなかった。
叶うはずのない欲望を心に秘めて、姉と旦那を見ないようにするために遠くの大学を選んだ。
それなのに、旦那の妹がおれのことを好きだと追いかけてきた。
…わけ分かんねぇもんだな。
「お待たせしました」
タキが上がってきた。頭に掛けたタオルから、水気を帯びた髪が垂れていた。
「洗面所からドライヤーこっちに持ってこい。その間におれ入るから」
「はーい」
とたとたと風呂場に戻るタキを見て、こういう何気ないやりとりは長年の付き合いの賜物だな…と思うクウトだった。
クウトが風呂から上がると、タキがベッドに腰かけていた。
「お待ちしてました」
「してなくていい…」
クウトはそっぽを向いた。タキが笑う。
「クウトくんの好きにしてください」
「…お前ホントに他の奴とはやってないんだよな?」
クウトの質問に驚いて、タキがぶんぶんと首を振る。
「クウトくん以外にこんなことしません!」
「あまりに積極的だから、慣れてるように見えるんだよ」
「全然そんなことないよ…。ちょっと強引にいかないと、クウトくんには逃げられちゃうから」
タキが下を向く。恥ずかしさや申し訳なさを煽ってしまったと感じ、クウトは失敗したと思った。
申し訳なくなり、タキの頬に手を伸ばした。
「…ゴメン」
クウトが謝るのを聞いて、タキが顔を上げる。至近距離で目が合った。
「…クウトくんが謝ることじゃないよ」
「謝るだろ。お前の気持ちにずっと応えずにいたのはおれなんだから」
「クウトくんの気持ちを考えずに、私が押し掛けちゃっただけだよ」
「…今は結果、良かったと思ってるよ」
クウトの言葉に、目をパチクリとさせるタキ。
「それって…」
タキの言葉を遮り、クウトが口付けた。
触れるだけのキスを何度かした後、クウトがタキの唇を割る。
タキはそのまま舌を受け入れる。
角度を変えながら啄み、タキの体をベッドに押し倒した。
しばらくして顔を離すと、熱っぽい顔でタキが笑った。
「クウトくんがキスしてくれるの嬉しいな。もし体だけスッキリしたくてやるのなら、キスはしなくていいもの」
クウトは目を細める。
「…キスした方が雰囲気出るだろ。それだけだ」
「そっか」
タキは静かに笑う。
「クウトくん、好きだよ。クウトくんはどうかな?」
タキの問いかけに、クウトは息を飲む。
「…今は、分からない」
「分かった。答えが出るまで待ってるね」
タキが微笑んだ。クウトはもう一度口を付けた。
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【母】2022.9.19
(クウト大4、タキ大2で2月)
クウトの就職前の春休み。
下宿を払って実家に戻っていたクウトに、タキから連絡が来る。
『うちに泊まりに来ない?』
「お母さん、夜勤でいないの」
タキの家に着くと、そう言われた。
つまりそういうことだよな、とクウトは思う。
「…だからってお前、簡単に男を家に上げるなってば」
「クウトくんだからです」
前にも聞いたことのある台詞を繰り返された。
学校の話、就職の話、引っ越しの話などをしていると、夜も更けてきた。
「お風呂沸いたよ」
「ああ。先入っていいのか?」
「どうぞ」
タキがニッコリする。
クウトが風呂から上がると、タキが焦った顔で駆け寄ってきた。
「ごめんね、クウトくん…その」
「え?」
濡れた髪をタオルで拭きながら顔を上げると、タキの母が立っていた。
「お母さん、夜勤の予定が変わったみたいで…」
タキが申し訳なさそうに下を向く。
いたたまれず、クウトが母に挨拶する。
「その…こんな格好ですみません。カイトの弟のクウトです。お邪魔してます」
「ご無沙汰してます。カイトちゃんの結婚式以来ね。ごめんなさいね、タキが呼んだんでしょ?」
「そう!そうなの!私が無理言って…」
「来たのはおれだから。すみません、お邪魔なら帰りますんで」
「そんな。ゆっくりしていってちょうだい」
母はタキと似た顔でにこやかに笑った。
しばらく3人でテーブルを囲って談笑した後、タキが風呂へ向かった。
タキに部屋へ行くように言われたクウトだったが、母のいるリビングに戻ってきた。
クウトは意を決して、母に声を掛けた。
「あの、お話させてもらっていいですか?」
クウトと母が向き合って座る。
「…おれとタキは、付き合ってはいません」
「そうなのね」
母は柔らかく相槌を打つ。
「タキはおれのことを好きだと言ってくれますけど、おれはそれに応えることが出来なくて…」
「ええ」
「こんな中途半端な気持ちで、タキと一緒にいるのは申し訳ないと思ってます」
それを聞いた母は、ゆっくりと語りかける。
「クウトくんは、タキのことで沢山悩んでくれているのね。娘とのこと、真剣に考えてくれてありがとう」
母の言葉に、クウトは息が詰まる。
「何も…お礼を言われるようなことはしてません。おれが居なきゃ、タキはもっと自由に好きな人を選べたはずなのに。おれがこんな態度だから、タキを困らせてる」
「それはクウトくんも同じでしょ?タキが居るから、クウトくんもすごく悩んでる。でもどうかな、タキと一緒にいるのは楽しい?」
母が微笑んで尋ねた。クウトは母の顔をじっと見た。
「…はい。おれはずっと、タキに支えられてきました。タキはおれにとって、かけがえのない存在だと思ってます」
「それを聞けて安心したわ。クウトくん、タキの傍に居てくれてありがとう」
クウトが唾を飲み込む。喉に熱いものが通った。
「…すみません。もっとセカルみたいに、頼りになる男になれたら良かったんですけど」
「あら、セカルのことも褒めてくれるの?クウトくんもカイトちゃんも、人を思いやれる素敵な心の持ち主で、私は大好きよ」
母は終始、笑顔で話をしてくれた。
クウトは心のつかえが溶けていくような感覚がした。
タキが風呂から出てきて部屋に戻ってきた。
「クウトくん…本当にごめんなさい」
「いいよ。おれはお母さんと話が出来て良かったよ」
クウトは本心だったが、タキは気を遣われたと思った。
「でも、その…今日は、そういうつもりで、来てたと思うから」
タキが言いにくそうに言葉を選ぶ。
クウトも少し照れる。
「まあ、それは…。でも流石にこの状況じゃ無理だろ」
「うん…」
「いいよ。別におれ、そんなにがっついてないし」
「私はしたいかな…」
「へ?」
思いがけず、クウトが変な声を出す。
タキがもじもじする。
「前にクウトくんのお家でやった時、本当に幸せだったから…」
「いや、でも今日は…」
クウトがたじたじになる。
「そっかぁ…そうだよね」
残念そうにするタキを見て、クウトのドキドキは止まらなかった。
「…えっと」
クウトが呟き、タキが次の言葉を待つ。
「おれ就職まで時間あるし、今度旅行でも行くか?」
「いいの?」
タキがパァッと笑顔になる。
「たまにはお前のこと、労ってやらないとな」
「労う?」
タキが首を傾げる。
「なんて言うかな…。おれのこと、ずっと隣で支えてくれてありがとなって…思っ……なんだよその顔は?」
タキがニンマリするので、クウトが顔をしかめる。
「今日のクウトくん、素直だ…」
タキがキラキラした顔で、クウトに近付く。
「たまにはそういう時もあるだろ…」
クウトは思わず後ずさりする。
「嬉しい!クウトくん大好き!」
タキがクウトに抱きついた。
「バカやめろ!引っつくな!」
引き剥がそうとするクウトの力は弱かった。
本気で嫌がっているわけではないと分かったタキはますます嬉しくなり、ぎゅっとしがみついた。
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【彼女】2025.1.5
(クウト社1、タキ大3で12月。付き合ってない・クウト視点)
会社の飲み会は、面倒なことこの上ない。
おれはアルコールに強くない…けど、そう言うのも癪だし、何とか適当に飲んで切り抜けるしかない。
何より一番面倒なのは…
「氷河って彼女いるの?」
男の同僚からの一声。これだ。これが一番面倒。
いないって答えれば、どの部署の誰がいいだの、紹介するだの、合コン行こうだの話をされる。
うんざりする。
おれはそういうの興味ない。好きなヤツは勝手にやってればいい。おれを巻き込むな。
はあ、と一息ついてから答えてやった。
「彼女?いるよ」
これが正解。こう答えておけば、後々面倒なことに巻き込まれなくなる。
周りの視線が集まったのを感じ、知らんぷりでジョッキのビールを飲み干した。
「え!初耳なんだけど!」
同僚が食い付いてくる。そりゃそうだ。初めて言った。
「どんな子?写真は?」
他の同僚も混ざって聞いてくる。
「ない」
おれが即答する。
「ないわけないだろ!」
「あれだ、氷河のことだから面倒くさくて適当に答えてないか?」
ご名答だよ。
「写真がないなら、見栄張って嘘ついてる線もあるな~」
周りの男共が口々に煽ってくる。
ああ、めんどくさい…。
写真…写真なんてあるわけが…?
いや、カイトの結婚式の写真が送られてきて、スマホに入ってたような?
スマホを手に取り、写真フォルダを開いてスライドさせていくと、セカルとカイトの新郎新婦の両隣にタキとおれが並んで写っている写真が出てきた。
「これ」
ぶっきらぼうに同僚にスマホを渡す。
「え、ピンク髪の子?」
「そう」
嘘だ。タキは彼女じゃない。
でもこの場じゃこれが最適解。
タキには悪いけど、職場のおれを守る盾になってもらう。
「へー可愛いなー。友達の結婚式にも一緒に行ってるんだ」
「友達じゃない」
即座に否定してしまい、しまったと思った。
友達って言っとけば、ここで話が終わったのに!
「友達じゃない?」
「…姉の結婚式」
おれは苦々しく答えた。
「お姉さんいるんだ。こっちも可愛いな~」
「見んな」
おれはスマホを引ったくった。
「お姉さんの結婚式に連れていくってことは、家族公認だよな。もう結婚間近ってこと?」
「別に…決まってない」
旦那の妹だと言えば、また根掘り葉掘り聞かれる。ここは適当に流せ。
彼女がいると思わせれば、合コンも断れるし、女を紹介するだなんだと言われなくなる、女性社員からも色目を使われなくなる…良いことづくめだ。
「オイオイ、決まってないじゃなくてお前が決めるんだろうが!」
同僚が肩を組んでくる。ウザい。酒臭い。酔ってやがる。
「あんまり彼女さん待たせてやんなよ。あ、結婚式には呼べよ!」
「こんなウザ絡みしてくるヤツは呼ばない」
おれが一蹴すると、
「そりゃないぜー!」
悲しい叫びに周りもドッと湧き、次第に話題は他の方向へと逸れていった。
家に帰り、冷蔵庫から水を出す。
コップ一杯を一気に飲み干し、リビングのイスに腰掛けて項垂れる。
ああ、飲み過ぎだ…。飲み会は嫌な話題を適当に流すために、ジョッキに口をつけることが多くなるから酒の量が増える。最悪だ。
『お水飲みなよ。クウトくん、お酒あんまり強くないんだね』
ふと、タキの姿が目に浮かんだ。
大学の時、クリスマスパーティーから帰宅して、今と似たような状況でタキが水を出してくれて…
段々と頭が回ってくる。酔いが冷めてくると、チクチクと罪悪感がした。
タキのことを彼女だと言って、嘘をついた。
どの口が言ってる?タキの気持ちを突っぱね続けてるのは、他でもないおれ自身だ。
タキの好意には応じず、都合の良い時は利用するなんて…最低だろ…。
片手で顔を覆う。
ああ、どうしていつもこうなるんだ。
人との接し方は変えられない。
ぶっきらぼうに、相手に興味なさそうに、嫌味ったらしく話すクセは、もう抜けない。
それで離れていく人がいたら、それでもいい。
でもそろそろこの態度を改めないと、大切なものも手から離してしまいそうで…
大切な、もの。
タキの顔が浮かぶ。
そうだよ。分かってるよ。
もう言い逃れ出来ない所まで来てるのは。
自分の気持ちに蓋をして、偽って。相手の優しさに甘えて。
ズルい自分が心底憎たらしい。
もう一度コップに水を注いだ。
「つめた…」
おでこに当てると、火照った顔の熱が冷めていった。
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【プロポーズ】2023.9.23
(クウト社2、タキ大4で2月)
クウトの一人暮らしの部屋に、春休みのタキが来る。
タキが台所で夕食の皿を洗っていた。
クウトはタキの後ろ姿をじっと眺めていた。
「いつまで居んの?」
「んー、クウトくんのお邪魔じゃなければ、いつまででもいいかな」
「よくねぇよ」
「やっぱり?」
タキが笑ってみせる。
「実際、長い春休みだから実家でやることもないんだよね」
「人生最後の長期休暇だぞ。もっと有効に使え」
「社会人の先輩の言葉は重みがあるなあ」
ふふふ、と笑うタキに悪態をつくクウト。
「どうせおれは明日から仕事だよ」
はー、と天を仰いだ。
「寂しいなあ。折角来たのに」
「だからだよ。構ってやれないから帰れ」
「でもさ、クウトくんの帰りを待つ…っていうのも、悪くないよね」
タキは水道を止め、手をタオルで拭いた。
クウトの方に歩み寄ってくると、ニッコリと笑った。
「…夫婦みたい、とか言うんだろ」
「そうだよ。ちょっと憧れちゃう」
「おれら、付き合ってはないからな?」
「そうなんだよねぇ…不思議な関係だよね」
タキは世間話をするような口ぶりで、微笑んだまま話す。
クウトの眉間のシワが寄る。
「…いいのか?」
「何が?」
タキがきょとんとした顔をする。
「こんなどっちつかずの関係のままでいいのかって聞いてんの」
「うーん…クウトくんに拒絶されず傍にいられるから、この関係でいいかなって思ってるけど」
それを聞き、クウトがため息をついた。
「…ゴメン」
「なんで謝るの?」
「おれがこの関係に名前を付けないまま、ズルズル来たから」
「んー、難しいよね。私達の間柄を説明するの」
タキはさらりとフォローする。
首を傾げて、考える素振りをする。
「義理のきょうだい。だけど恋愛感情があって…私から一方的だけど。体の関係もあって…でも恋人ではなくて」
うーん、とタキが悩む様子を、クウトはじっと見ていた。
「それ、なんだけどさ」
「うん?」
「そろそろ…そろそろさ、訂正しようと思って」
「訂正?」
「恋愛感情のこと」
タキが目をパチクリとさせた。クウトは静かにタキを見据えていた。
「好き…だと思う」
じっと見つめ合ったまま、数秒の沈黙が流れた。
「妹としてじゃない、情が湧いてると思う」
「…クウトくんが?私に?」
タキが静かに呟く。
「…ああ。ゴメン、ちょっと、その」
クウトが目を逸らした。
ふー、と息を吐いて、またタキに向き直った。
「ダメだ、ここで逃げるのは無しだろ…。あー、カッコわる…」
ブツブツと呟くクウトを、タキは優しげな瞳で見つめていた。
「早く言えって叱ってくれりゃいいのに…」
「今更だよ。私、何年でも待ってるから」
「…いや、これ以上待たせたらダメだろ」
クウトが覚悟を決めて、キッとタキを見た。
「好きだ。ずっと、たったこれだけの三文字が言えなかった。何年も支えてもらって…ろくに感謝も伝えられず。それでも、傍にいてくれたお前のこと、」
クウトが一息ついた。
タキの目を見て、微笑んだ。
「大切で、かけがえのない存在だと思ってる。お前無しじゃ、この先どうやって生きていけばいいか分からないくらいに。それくらい、心の中がお前で満たされちまってる」
タキは何も言わず、ただひたすらクウトの目を見ていた。
「タキ」
「…はい」
弱々しい、かすれた声でタキが返事をした。
「…泣くなよ」
「…泣いて、ないです」
その一言が合図となり、タキの瞳が涙でいっぱいになる。すぐに溢れて頬を伝った。
クウトがタキの頬に触れ、指で涙を拭った。
「…クウト、ぐん…」
「…なんだよ」
クウトが目を細めて、微笑んだ。
「大好ぎ、です…ずっとずっど、好き、です」
わんわんと泣き出したタキを、優しく抱き締めた。
「ゴメンな…本当にゴメン。何年も待たせた」
「いいの、元はと言えば、私が…ッ、うるさいくらい、押し掛け…て」
嗚咽を上げながら話すタキの背中をさする。
「そのうるさいお前に惚れたのはおれだ。結局押し負けたな」
クウトが笑った。タキを抱く腕の力を強めた。
「すごい…遠回りしたけどさ、タキと一緒にいるのが一番幸せなんだって分かった。だから、」
タキの耳元で、小さく一言。
「結婚しよう」
タキが涙でいっぱいの目を見開いた。
「え…?」
「もう1回言えってか?お前そういう所悪い奴だよな」
「ちが…!だって、いきなり、けっ結婚だなんて…!?」
何か言おうとするが言葉が出ない。パクパクと開くタキの口めがけて、クウトが唇を重ねて塞いだ。
ゆっくりと顔を離すと、クウトが柔らかに微笑んだ。
「結婚しよう。タキ。おれの隣が務まるの、お前しかいないから」
「そんなの…もちろんだよ。クウトくんの隣は、誰にも渡さないよ…」
タキはクウトの胸に顔を埋めた。
泣き続けるタキの頭を、クウトはずっと撫で続けた。
「…ところでさ」
タキの涙も落ち着いた頃、クウトがジト目で話す。
「お前、おれの近場で就職決めたろ。もう逃がす気なかったんじゃねーか」
「え?」
タキはニッコリと微笑んだ。クウトの眉間のシワが増えた。
「本当にとんでもない女に捕まったな…」
「そんなこと言わずに。私が幸せにしますから」
「逆なんだよ」
クスクスと笑うタキを見て、わざとらしくため息をつくクウト。
「やられっぱなしは癪だから、これから覚悟しやがれ」
「受けて立ちます。クウトくんの感情は、全部私が受け止めますから」
「…お前さ、冷たくされるのに慣れてるから、思いっきり愛情注いでやったら受け止めきれないんじゃねーか?」
「やってみる?」
「…気が向いたら」
「もう!そこは受けて立ってよ!」
タキがポカポカとクウトの胸を叩く。
クウトは笑いながらタキを抱き留めた。
「それで、いつまで居んの?」
「うーん…出来るだけ長く居たいな。想いも…通じ合ったし」
タキが少し照れながら言った。
クウトも罰が悪くて顔を逸らした。
「別に居てもいいけどさ、おれは仕事で居ないからな」
「うん、それは分かってるよ。日中は観光とかお買い物とかしようかな。あ、あと新しいおうちも見ないと…いけないんだけど…」
タキがクウトの顔を伺うように見る。
「出来れば…なんだけど。一緒に暮らすことって出来ないかな…?」
「え?」
突然の提案に、クウトは目を丸くする。
「折角近くに引っ越すことになったから。何なら、最初から…一緒に暮らせたらいいなって」
タキの上目遣いに、クウトがたじたじになる。
「それって…セカルと同じ手法じゃん…」
「そう言われてみるとそうだね?」
タキが笑って、ペロッと舌を出してみせた。
「お兄ちゃん達への憧れもあるかな。好き合って、すぐに一緒に暮らし始めたの」
「まあ分かる、気持ちは分かるんだけど、おれと同棲するなんて、セカルに何て説明するんだ?」
「それは正直に言うしかないんじゃない?」
タキの真っ直ぐな瞳を向けられて、クウトが怖気付く。
「いや…まだ心の準備が」
「結婚しようって言ってくれたのに」
タキは唇を尖らせてみせる。
「それはそうだけど!」
赤くなって声を上げたクウトを見て、タキはクスクスと笑った。
「ゴメンね、いきなりで困らせちゃった。でも一緒に暮らしたい気持ちは本気だから。少し後でもいいから、考えてくれると嬉しいな?」
タキが首を少し傾けて、クウトに微笑みかけた。
クウトはガシガシと頭を掻いた。
「…断られる気微塵もねーだろ。セカルの血が怖すぎる」
「それはどういう意味?」
「相手の逃げ道を無くして、外堀から埋めてく感じがそっくり」
「妹は兄を見て育ちますので」
「あーもう、とんでもない兄妹だな!」
「えへへ、お姉ちゃんもクウトくんも、捕まえちゃいました!」
タキの屈託のない笑顔に、ハー、とため息をつくクウトだった。
「…まあ、引っ越すなら始めからで、早い方がいいのは事実なんだよな。ここで一緒に暮らすには狭いし…」
クウトがポツリと呟く。
「うん?」
「いい物件あるなら考える。探しとけ」
タキがパアッと笑顔になった。
「本当?」
「条件合えば考えるってだけ。そんな期待すんな…」
クウトが言いかけたが、タキの笑顔に気後れする。
「クウトくん、ありがとう!」
「まだ分かんねーってば!」
「ううん、その気持ちが嬉しいの!」
ニコニコするタキに、「あーもう」と言いながら、頭を掻く。
「本当にお前くらいだよ…こんなにおれのペース崩す奴」
「ウフフ、嬉しいな。クウトくんにとって、特別になれるの」
「そりゃ…特別だよ。一緒に居たいって思わせるんだから」
それを聞いて、タキが固まった。
クウトがポカンとする。
「お前…マジでおれから愛情注がれるの弱い?」
「だ、だって!クウトくんが突然そんなこと言うから!」
焦るタキを見て、クウトが噴き出した。
「いやー、こんなに効果あるとは思わねーじゃん?いっつもやられてばっかだから、これからは仕返し出来るな」
「仕返しって…」
タキが少し頬を膨らませてみせる。
クウトは片手を伸ばして、タキの頬を潰した。
「お、可愛くねー顔」
「クウトくんに潰されてるからです」
むぅ、とタキが怒ってみせる。
「ん…普段は可愛いけどな」
クウトがニヤリとする。タキはますます真っ赤になる。
「もうやだ!遊ばないでよ!」
「おー可愛い可愛い」
「もう、クウトくんのイジワル!」
手をバタつかせて抗議するタキを見て、クウトは目を細めた。
「…一緒に暮らすことになったらさ、セカルとカイトに報告に行こう」
「え…」
「おれなりのケジメ。妹さんを貰いますって言わなきゃいけないしな」
「…うん」
タキは下を向いた。
クウトはタキの頭に手を乗せて、ポンポンと撫でた。
「タキ」
「…何?」
「好きだよ」
タキは顔を上げられなかった。
「ハイ…」
「急にしおらしくなるの、マジで可愛いな…」
クウトも少し赤くなる。
「からかわないでよ…」
「いや…真面目に言ったんだけど、案外その、お前の反応が可愛かったから…」
二人で顔を背ける。
恋人という肩書きに慣れるには、まだ少しかかるかもしれないとお互いに思った。
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【結婚式】2023.2.11
(クウト社3、タキ社1、セカル社6、カイト社5、セト3歳)
式が始まる前。タキは会場の廊下に立っていた。
歩いてきたクウトに手を振る。
「タキシード!カッコいいね」
タキの笑顔を見て、
「ん…さんきゅ」
クウトが少し照れくさそうに返事をした。
「お前は…」
クウトから声がかかると、タキがニッコリとした。
「似合う?」
しばしクウトが沈黙してから、意を決したように言う。
「似合ってる。可愛い。すごく」
普段は聞けないストレートな表現に、タキが固まる。
「何でそんな反応なんだよ?」
「だって…クウトくんがそんな風に言うと思わなかったから」
「言うだろ。今日くらいは…。あー…」
クウトは明後日の方向を見ながら頭を掻いてから、タキに向き直った。
「今日に限らず、これからはちゃんと言う。タキは可愛いよ。おれにはもったいないくらい。いつも真っ直ぐ笑顔を向けてくれて、どれだけ救われたか分からない…」
クウトはタキの頬に手を添える。タキは固まったままクウトを見上げていた。
ゴホン、と大きな咳払いが聞こえた。
2人が驚いて見ると、側にセカルが立っていた。
「…こんなところで、何を見せつけてんだ」
セカルに言われ、クウトが手を離した。
タキは照れつつも、普段通りを装った。
「お兄ちゃん、来てくれてありがとう!」
「タキの晴れ舞台、見ないわけにはいかないからな」
セカルが穏やかに返した。
「カイトは?」
クウトが尋ねる。
「セトのトイレに行ってる」
カイトは今や、3歳の娘のお母さん。
クウトは未だに「子供が子供育ててる」と茶化すが、カイトは幼い面を残しつつもしっかりとお母さん役をしている。もちろん、セカルの力があってこそ。
「お姉ちゃんもセトちゃんも来てくれて嬉しいな」
タキの笑顔を見て、
「後で本人に直接言ってあげな」
セカルが微笑んだ。
「セカル…あのさ」
クウトがおずおずと声をかける。
「カイトのこと、ありがと。セカルが居たから、安心して任せられた。それでタキとも出会えた」
クウトからそんな言葉が出ると思わずセカルは驚いたが、すぐに表情を和らげた。
「どういたしまして」
「あー!みんないた!タキちゃん可愛いー!キレー!」
カイトがセトの手を引きながら歩いてきた。
「お姉ちゃん!来てくれてありがとう!」
タキとカイトが抱き合う。
カイトから手を離されたセトの頭を、セカルが撫でた。
「セトちゃんもこんにちは」
「こんにちは」
タキが微笑むと、セトも挨拶した。
「クウト~今日はシャキっとしなさいよ!」
「してるだろ。目ぇおかしいんじゃない?」
いつも通りの調子の姉弟の会話を、兄妹が見守った。
「あ、そろそろ行くね。みんな、また後で!」
タキが手を振る。クウトも一緒に歩き出す。
「はーい、いってらっしゃい!」
カイトが手を振ると、セトも真似した。
「いってらっしゃ!」
カイト達が親戚の控え室に入る。
既に親戚達が集まっていた。
「あ、お義父さん」
カイトがセカルの父を見つけ、セトと一緒に駆け寄る。
「こんにちは!本日はおめでとうございます」
「こんにちは。ありがとうございます。みんなお元気そうで」
カイトが挨拶すると、父が返事をした。
「ハイ!セトー、じいじにこんにちはして」
「こんにちは」
カイトに言われてセトが手を出すので、父はおずおずとタッチした。
ギクシャクと動く父を見て、後ろでセカルが笑った。
「父さん、久し振り」
「ああ」
息子の顔を見て、固かった父の表情が少し綻んだ。
「おじいちゃん達も来られて良かった」
「そうだな」
少し離れた場所にいた祖父母を眺めながら、セカルが目を細める。
自分の結婚式をした時は、まだ十分に両親の関係が修復しておらず、父方の祖父母を式に呼べなかった。こうして招待できたことを感慨深く思った。
「おじいちゃん達に挨拶してくるよ。カイト、セト行くよ」
「はーい。お義父さん、またあとで」
カイトが微笑んだ。
式は、ホテルの高層階が会場だった。
セトがガラス張りの窓に手を当て、じっと下の道路の様子を見る。米粒のような車が走り、高いビルに囲まれている。
「怖くない?」
カイトが尋ねる。
「うん」
「ママはちょっと怖いなあ」
カイトが少し引いて、セトの様子を見守る。
後ろからセカルがスマホを構える。
「あ、パパがビデオ撮ってるよ」
セトが振り向くと、セカルがひらひらと手を振った。セトはガラスを指さす。
「高いね!」
セトが大きな声を上げた。
「そうだね」
じっと風景を見るセトを、セカルは撮り続ける。
セカルはカメラをずらす。カイトがカメラに気付く。
「どさくさであたし撮ってない?」
「娘と嫁の記録撮ってんの。赤いドレスがお似合いです」
「ありがと」
カイトが少し照れくさそうに微笑んだ。
お色直しの退場の際、二人はエスコート役にカイトとセカルを呼んだ。
ただし、カイト達の結婚式との違いを出すため、カイトがタキと、セカルがクウトと組む。
「何でだよ」
セカルのツッコミに、クウトが肩を組みながら答える。
「これからもお世話になるんでね。お兄ちゃん」
クウトにガッツリと力を入れられると、セカルが肩を組み返した。
カイトとタキは抱き合った後に、腕を組む。
4人で揃って、扉の外まで歩いた。
「ありがと」
会場を出ると、クウトがお礼を言ってセカルを離した。
「ビックリしたわ」
セカルがやれやれといった表情でクウトを見た。
「やー、でもいい思い出になったね!」
カイトが笑う。
「クウトくんと2人で考えたんだよ。お姉ちゃん達の式のお返ししたいねって」
カイトはそっかーと微笑んだ後、お腹をひと撫でした。
「あのね、まだパパ達にも話してないんだけど…」
カイトがチラリとセカルを見る。セカルは頷いた。
「2人目、できました」
クウトとタキが驚いてカイトのお腹を見る。
「え…?おめでとう!」
タキが両手で口を押さえながら、高揚した声を上げた。
「ありがとう。まだ安定期入ってないからナイショだったんだけど、今日の2人を見てたら言いたくなって」
カイトがえへへ、と笑ってみせる。
そんなカイトの様子を見てから、クウトはセカルへと目線を移した。
「何だよ?」
ジトっとしたクウトの視線に耐えられず、セカルが尋ねた。
「相変わらずだなと思って」
クウトの言葉に、
「いいだろ。ちゃんと計画通りだ」
セカルが目線を外しながら答えた。
そんな2人のやり取りを見て、タキがポツリと尋ねた。
「クウトくんは、何人欲しいの?」
「えっ!?」
クウトが目を見開く。カイトとセカルも驚いて固まった。
「こんなところで聞くな!」
慌てて声を上げるクウト。
「だってそういう話、したことなかったなと思って」
「今聞かなくてもいいだろ!ほら、時間ないから行くぞ!」
クウトは3人から顔を背け、つかつかと歩き出した。
「あ、待って!お兄ちゃんお姉ちゃん、またあとでね!」
2人に言い残してから、タキが追いかけていった。
歩くクウトに追い付くと、クウトが小さく呟いた。
「…2人」
「え?」
タキがきょとんとする。
「2人なら、セト達と同じになるだろ」
クウトはタキを見ずに話す。
それを聞いて、タキは笑顔になった。
「そうだね!」
2人で並んで歩きながら、お色直しの部屋に向かった。
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【子供】2024.2.27、中盤加筆2025.1.4
(クウト社5、タキ社3、セカル社8、カイト社7、セト5歳、リクト1歳。カイト方の祖父母宅で正月の親戚の集まり)
タキちゃんの子供はいつ見れるかね?と親戚に何気なく言われる。
タキが愛想笑いをするのにハッと気付き、クウトが口を挟む。
「おれがガキの面倒見ると思う?いらないって言ってんの。もうガキ2人もいるし」
カイトの子供を顎で指して、ダルそうな仕草を見せる。
「そういうの、おれに言うのはいいけどタキには言うな。フツーにセクハラだよ」
隣で聞いていたセカルは、クウトがフォローに入ったことに気付く。
「クウトくん、大丈夫だよ」
タキが小声でクウトを止めようとする。
「大丈夫じゃない。お前は反論しないからそういう風に言われんの。あー…」
クウトが明後日の方向を見てから…やがて意を決したように言った。
「子供いらないっておれが決めたの。子供いたら、タキのこと独り占めできないじゃん。おれはこいつと一生二人で生きてくって決めたんだよ」
そう言い放ったクウトに驚き、タキの瞳からポロポロと涙が出た。
「タキちゃん!?」
カイトがビックリして近付くが、タキはふるふると首を振った。
「大丈夫だよ、ちょっとビックリしただけで…」
カイトの娘のセトが、タキの顔を覗き込む。
「いたいの?」
「ううん、違うよセトちゃん。嬉しいの。嬉しくて泣いてるの」
タキは涙を浮かべながら、穏やかに微笑んだ。
見ていたセカルが、静かに声をかけた。
「二人とも大人になったよな」
「いやもうだいぶ前から大人だけど?」
クウトが突っ掛かる。
「ずっと中高生みたいなもんだと思ってたからな」
「いつまで子供扱いしてんだか」
「そりゃ、オレにとってはいつまで経っても可愛い妹と弟だぞ?」
セカルの言葉に、うげーと言うクウト。
「可愛いとかマジで勘弁なんだけど…」
「あたしはクウトのこと可愛いと思ったことないから!」
カイトが堂々とした態度で口を挟む。
「聞いてないし!」
クウトが突っ込む。
タキがクスクスと笑い出し、場の空気が柔らかくなった。
その後、クウトとタキはカイトとセカルを呼んだ。
「2人には話しておこうと思って…」
タキが切り出す。クウトに目配せしてから、静かに微笑んだ。
「私、流産したの」
「えっ…」
突然の話に、カイトが絶句する。
「…そうか」
無言のカイトを見て、セカルが相槌を打った。
「私が傷付くくらいなら、子供は欲しくないってクウトくんが言って…子供は作らないって、2人で決めました」
黙って聞いていたクウトが口を開いた。
「そういうわけだから、あのうるさい人達黙らせたいんだけどさ、タキがあんまり空気を乱すなって言うから黙ってんの。あんた達からも、それとなく牽制しといてもらえると助かる」
「分かった」
セカルが頷いた。
「まー、セト達見てて、おれ子供の世話出来ねーな?って思ったのもあるよ。カイトもセカルもよくやってるよ」
クウトがやれやれと、肩をバキボキ鳴らしながら言った。
「あ、でもね。私のワガママでもあるよ?子供がいなければ、クウトくんのこと私が独り占めできるから。さっきクウトくんの口からあんな風に言ってもらえて、ビックリしたよ」
タキがイタズラっぽい顔で微笑んだ。
「…なんかタキがそんなこと言ってたって思い出して、乗っかっただけだ」
「えへへ。一生二人で生きてく、とは言ってないから、そこはクウトくんの気持ちが乗ってたね」
笑顔のタキと対照的に、クウトの顔が歪んでいく。
「…そういう指摘のされ方するのムカつく」
クウトがジトッとした目でタキを見る。
「ちょっとクウト!照れ隠しで言っていい言葉じゃないでしょ!」
カイトが噛み付く。
「うるさい。これがおれらの普通なんだから、よそのお宅が口出さないでくれる?」
「タキちゃん、この男ホントに態度悪いからね!言う時はガツンと叱らなきゃダメよ!酷かったらすぐうちにおいで。あたしとセカルで絞ってやるんだから!」
カイトが叫ぶと、セカルが静止した。
「落ち着け。クウトの扱いはタキが一番上手い。タキが本当に困った時はオレらが出るけど、基本は二人のことは二人に任せとけ」
「うん。お姉ちゃんが心配してくれて嬉しいよ。でもお兄ちゃんの言う通り、大丈夫だからね」
「まあ…二人がそう言うなら…」
セカルとタキに言われて、カイトは渋々と引き下がった。
「っていうか、おれの扱いが上手いって何?」
クウトがツッコミを入れる。
「え?私がクウトくんを掌で転がすってことじゃないかな」
「…自覚があるな?」
クウトが軽く睨むと、タキが笑った。
「ほら、大丈夫そうだろ」
セカルが言うと、
「なるほど」
カイトも頷いた。
話が一段落すると、セカルが提案した。
「今度さ、タキとクウトも一緒に旅行行くか?子供も居るけど」
「いいの?」
タキがパァッと明るい顔をする。
「金はおにーちゃん持ち?」
クウトがニヤリとした顔で訊ねる。
「ああ。お兄ちゃんに任せろ」
セカルもニヤリとして答える。
「一人称お兄ちゃんやめろ、気持ち悪い」
クウトが吐き捨てた。
「お前が言ったんだろうが」
セカルが抗議する。
「つーか金はいいよ。子供に金かかってるだろ。行くならおれら自分で出せるから。大人なんだし」
クウトがそう言うと、隣のタキの表情が綻ぶ。
「わああ、お姉ちゃん達と旅行なんて嬉しい!」
「あたしも嬉しー!ねえねえどこ行く?」
タキとカイトが盛り上がって、どこに行きたいか話し始めた。
「まずは仕事の休みを調整出来るかどうかだな…」
「うわー、やっぱ大人になるって嫌だわ」
暗い話題を口にするセカルとクウトも、表情は晴れやかだった。
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【子供・続き】2025.1.5
正月の親戚の集まりを終え、深夜にクウトとタキが家に帰った。
「あー、やっと着いた。実家遠いよな…」
「そうだね。そういえば、クウトくんはどうしてこっちの大学に来ようと思ったの?」
クウトが当時のことを思い返す。
「…カイトとセカルのラブラブバカップルを近くで見たくなかったから」
「それで遠くの大学に?それもお姉ちゃん絡みだったんだ…。まさにクウトくんって感じがする」
「なんだよ」
クウトが文句を言いたげな顔をするので、タキはクスッと笑ってみせる。
「私はそんなクウトくんが大好きだけどね」
普段ならここで更にクウトの嫌味が飛んでくるはずだが、クウトは何も言わずタキの顔を見ていた。
「え…どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「目と鼻と口」
「もう、茶化さないでよ」
クウトはじっとタキを見て、フッと笑った。
「おれもタキのこと好きだなって思った」
タキは固まり、目線を逸らした。
「えっと…クウトくん、お酒たくさん飲んだっけ?」
「いや、そんなに飲んでねーかな」
「じゃあ…どうしちゃったの?」
「思ったこと口にしただけだけど?」
「だって、そんな…普段そんなこと言わないし…」
あたふたするタキを見て、クウトが噴き出した。
「おれが押すとすぐ引くんだもんな!あー可愛い!」
「あ、こらクウトくん、私で遊んでるでしょ!」
タキがクウトの胸をポカポカ叩く。
クウトは笑いながらタキの頭を撫でると、そのまま抱きしめた。
「タキ、ありがとな。おれと一緒にいてくれて」
突然優しい声色で言われて、タキの脈が早くなる。
「え…うん、わ、私も一緒にいられて嬉しいよ…」
消え入りそうな声で返事をする。クウトがタキの頬を撫でた。
「一生二人で生きてく、ってのは本心だから。悪かった、カイトとセカルの前だとちょっと嫌で…酷いこと言った」
「分かってるよ。クウトくんが本気だってこと。あ、でも私が繰り返し言った時に怒ったのはマイナスポイントです。あの言い方は良くありません」
「すみません…」
しおらしく素直に謝るクウトが可愛く見えて、タキが微笑む。
「よしよし。クウトくん反射で嫌味言っちゃうクセが抜けないから、言った後に自分で傷ついてるでしょ。大丈夫だからね。少しずつ変えていこう」
タキの言葉に、クウトが息を飲む。
「タキ…お前、ホントずっとおれのこと見てるよな」
「うん、小学生の時から見てる。今も、これからもね」
「一生頭上がんねーわ…」
「えへへ、お互い様だよ。クウトくんも私のことよく見てくれてる。ちゃんと私の中身に目を向けてくれてた。そんなクウトくんだからこそ、好きになったんだよ」
「じゃあ一緒か」
「一緒だね」
二人で顔を見合わせると、ふふ、と笑い声が漏れた。
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