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道。 うちのこまとめページ

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レギュラー

【2025.5.6】
セカル高2、カイト高1で2月。付き合ってない。
カイトはセカルに甘えてるし、セカルもそろそろ気持ちが隠せなくなってくる頃。

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「セカル、廊下にカイトちゃんいたぞ?」
「え?」

吹奏楽部の活動が終わり、校舎に夕焼けが差し込む頃。
セカルがサックスの手入れをしていると、近くの部員が声をかけてきた。

「カイトが?」
「早く行った方がいいんじゃね?」

同い年の男子部員がニヤニヤするので、ジトっと睨みつけてやった。別パートの部員は、ハイハイ、と笑って自分の楽器の片付けに戻っていった。

カイトは、一学年下の女子だ。
吹奏楽部にセカル以外の知り合いはいない。音楽室に来るとしたら、セカルを待っているとしか考えられない。

セカルはサックスを磨く手を止め、ケースの上にサックスを置いて音楽室を飛び出した。廊下に目を向けると、小柄な女子が壁にもたれかかって座っていた。カイトだ。
暗くなってきた廊下で、スマホを操作している。画面の光で、顔の周りが照らされていた。
扉を開けたことで、音楽室から漏れた真っ直ぐな光が、カイトのスカートを照らした。

「何してんだ?」
「あ、セカル」

セカルに気付くとカイトは顔を上げ、ぱっと明るい笑顔で「やっほー」と手を上げた。
その無邪気な仕草が、いかにもカイトらしい。そんな動作ひとつ見ただけで、胸の奥がざわつく。

「もうすぐ帰る?」
「楽器片付けたら」

いつも通りの何でもない会話。大丈夫、普通にできている。

「じゃあ一緒に帰ろ」

そう言われて、即座にセカルは廊下を見渡した。まだ部員たちは片付けに追われていて、廊下には誰の姿もない。少しほっとする。
部活も学年も違う女子と話しているのを見られると、後で面倒なことを言われるからだ。先ほどの部員のニヤニヤ顔を思い出す。
冷やかしには慣れてきたが、目立つのは避けたい。

「もうちょっとしたら終わるけど…とりあえず、自分の教室行ってろ。あとで迎えに行くから」

カイトはきょとんとしたが、すぐに「はーい」と素直に立ち上がる。セカルの意図を汲み取ったかどうかは分からない。
カイトはスカートをパンパンとはたき、身なりを整えながら、一年の教室へ向かって歩いていった。

その後ろ姿を見ていたら、チクリと胸が痛む。
人目を気にしなければ、コソコソせずに済むが…。
この関係性に名前をつける自信は、まだない。

音楽室に戻り、残りの片付けを急ぐ。
頭の中では、ずっとさっきのカイトの表情がちらついていた。
上目遣いが可愛…じゃなくて!何か引っかかる気がする。


片付けを終え、鞄を持って音楽室を出た。
去年歩いていたはずなのに、二年生になった自分には、一年生の廊下はどこか知らない場所のようで居心地が悪い。

足早にカイトの教室まで来て、扉をそっと開ける。室内はすでに薄暗くなっていた。
窓辺の席に人影がひとつ。カイトは頬杖をつき、じっと外を眺めていた。
教室の照明は点いておらず、夕暮れのわずかな光が差し込むだけ。彼女の顔はよく見えなかった。

「お待たせ」
セカルが声をかけると、カイトが振り返った。

「おつかれー」

カイトがのんびりと返事をする。その声音は、いつもより低く感じた。

「電気点けるか?」
「んー、灯り点いてるとまだ残ってるってバレちゃうから、このままでいいや」
「分かった」

セカルは教室の中へと入り、カイトの隣に立った。鞄を足元に下ろして、彼女の表情を見ながら尋ねる。

「何の用だった?」
「うーん、ちょっと帰りながら話したい気分でして」

―いつもの調子を装っているのは分かる。
カイトの隣で過ごすようになって、もうすぐ一年が経つ。その変化に気付かないわけがない。

「ここで話すか?」
「どして?」
「明らかに元気がない」

言葉を濁さず、まっすぐに言った。
カイトの目が、一瞬驚いたように揺れる。

「そっかー。よく分かりますなあ」

困ったように笑ったその顔は、暗い教室の中でも悲しげに見えた。
セカルは前の席の椅子を引いて、向かい合うように腰掛けた。

セカルが座ると、カイトがゆっくりと話し始める。

「今日ねー、部活の大会の団体戦のメンバーが発表されたの。それでさー、選ばれなかったんだよね。あたし」

あくまで、何でもないような口調で話すカイトを見て、セカルは顔を歪めた。
こうやって強がる彼女の姿は、何度か目にしてきた。

剣道部に入っているカイトは小柄だ。剣道には体格の階級分けがないため、ハンデが大きい。それでもがむしゃらに相手に立ち向かって、レギュラーを掴み取ってきたはずだ。

「そうか。初めてじゃないか?」
「そう。一年が大会に出れるようになってから、初めて」
「調子悪かったのか?」
「うーん、代表を選ぶ試合でさあ、ちょっと負けが続いちゃって。あたし小・中学でも剣道やってたじゃん?その経験値で勝ててた部分があるから、周りが上手くなってきたのかなーって感じはするよね」

足をぶらぶらと揺らしながら、カイトは乾いた笑みを浮かべた。
そして、力なく息を吐く。

「困ったなあ…あたし勉強できないでしょ?剣道しかしてないでしょ?なのに勝てないなんて…何やってんのって話よね」

俯いた横顔に、夕闇が影を落とす。
垂れた髪が、彼女の表情を隠した。

「個人戦はあるのか?」
「団体出ない人はあるよ」
「じゃあまずはそこで頑張るしかないだろ」
「そうだねぇ」

言葉に覇気がない。
セカルは励ましの言葉をかけようとしたが、俯くカイトを見て口を閉ざした。
違う。カイトが求めているのは、そんな言葉じゃない。
少し黙ってから、ゆっくりと尋ねた。

「オレにどうしてほしい?」

静かに発した、真剣な問い。
カイトは一瞬セカルの方を向いたが、視線を落とした。

「まずは話を聞いてほしかった」
「うん。それで?」

セカルが促すと、カイトが小さな声で呟く。

「…慰めてほしかった」
「うん」

できるだけ優しい声色で頷いた。

「部活やクラスの友達にはさ、『もー団体外れちゃったー!こうなったら個人戦優勝してやるんだからー!』って元気に言うじゃない。あたしのキャラ的に」
「そうだな。想像つく」
「そしたらさ、あたしのこの気持ち、どこにも言えないじゃん…」

消え入りそうな言葉を聞いた瞬間、セカルは反射的にカイトの頭に手を伸ばしていた。そっと、優しい手つきで頭を撫でる。
その手が合図だったかのように、カイトの体が震え、嗚咽を上げはじめた。

「悔しい、よ…!なんで、なんで負けちゃったの!?あたしには剣道しかないの、に…、こんな、自分が、情けなく…て……。自分のせいなのに、こんなに落ち込むのっ、にも、腹が立っ、て……」

こぼれた涙がひとつ、またひとつ落ちて、スカートに染みていく。
セカルは頭をもうひと撫でしてから手を引いて、鞄からティッシュを出した。

セカルが涙を拭おうと、右手を差し出した時。カイトは両手で、セカルの手を強く握りしめた。
震える手から、カイトの悔しさ、悲しさ、怒りが伝わってくる。

…ああ、側にいたい。ずっと寄り添っていたい。
この子の笑顔を守りたい。
自惚れかもしれないけど、今それができるのは、きっと自分。
セカルの心に、熱い想いが宿る。

セカルは手を預けたまま、黙ってカイトを見守っていた。
手の甲に落ちた雫の温かさが、胸にじわりと沁みた。


やがて、カイトの呼吸が落ち着いてくると、セカルはそっとティッシュを渡した。

「……ごめん」
「いいよ。別に」

カイトが顔を拭うと、ふう、と一息ついた。

「セカルにならさ、弱音吐けると思ったんだよね」
「まあ、そうだろうな。オレのこと頼りに来た時点で、何かあるなと思った」
「えへへ…お見通しってやつですか」

照れくさそうな笑みに、セカルも微笑みを返す。

「もういいのか?」
「うん!ありがと!よーし、個人戦優勝するぞー!」

気合いを入れた声と共に、拳を突き上げる。いつものカイトだ。声色の調子が戻ると、セカルの胸に温かな想いが溶けていった。



「ゴメン、真っ暗になっちゃった。帰ろっか」

夕日もとっくに沈み、教室は暗闇に包まれていた。
カイトがぽつりと呟き、椅子から立ち上がる。
彼女の瞳はまだほんのり赤く、まつげの根元には涙の名残がきらめいていた。

セカルも立ち上がり、鞄を肩にかける。
ポケットからスマホを取り出すと、ライトを起動して足元を照らした。眩しい光が教室の床に広がり、ふたりの影を長く引き伸ばす。

「正面玄関閉まってるだろうから、裏から行くぞ。職員室避けて二階から回る」
「おー、先パイは頼りになりますなあ」

冗談めかして明るく返すカイト。
その声に、先ほどまでの涙の気配はもうなかった。

「思ってもねぇ癖に、先輩って呼ぶな」
「あはは!でも頼りになるのはホントだよ」

ふたりのやり取りが、夜の校舎の静けさを和らげる。誰もいない学校の中を、ふたりだけの足音がぽつぽつと響く。無言の時間さえも、なんだか心地よく感じた。


やがて校舎を出て、街灯の灯る道を並んで歩く。
空には星がちらほらと瞬き始めていた。

とりとめのない雑談をしながらカイトの家の前に着くと、ふたりは足を止めた。
家の門灯が小さく灯り、ほんのりと周囲を照らしている。
灯りに照らされるカイトの横顔を見ていたら、目が合った。にこりと微笑まれた。

「ありがと、送ってくれて。遠回りになるのに」

柔らかなカイトの声からは、どことなく名残惜しさも感じ取れた。
セカルは少し間を置いて、静かに答える。

「今日はまあ、頼られたから。最後まで面倒見るかって思った」
「責任感?」
「んー、そんな堅苦しいもんじゃないな。送りたいから送っただけ」

その言葉に、カイトはふっと表情を緩めた。
送りたいだなんて、いつもより素直な言い方になってしまったが、カイトの綻んだ顔が見られて悪い気はしない。

「そっか」

ふふ、と自然と笑みがこぼれる。
少し前まで泣いていたのが嘘のように、今はただ、温かな気持ちで満たされていた。

「今日はありがとね!今度何か買い食い行こーよ。お礼におごります」

明るく言うカイトに、セカルは静かに頷いた。

「ん、また誘えよ。楽しみにしてる」
「はーい。それじゃ、またね!」
「またな」

カイトがにっこりと笑い、手を振って玄関のドアを開ける。
その笑顔に、セカルはどこか胸の奥がくすぐったくなるのを感じながら、小さく手を上げて見送った。

扉が静かに閉まり、玄関の明かりが遮られる。
夜の静けさが再び戻り、セカルはその余韻に包まれながらゆっくりと歩き出した。



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